高関税政策をちらつかせ、相手国から譲歩を引き出す戦術を立てるトランプ政権。だが、今の米国が主導する保護主義的な政策が奏功するとは考えにくい。むしろ、長期的には米国経済を弱体化させることになるという声が大きい。この戦術は、製造業を復権させるというよりも、「ラストベルト」の支持層に訴える政治的な演出のように見える▼
かつて製造業が栄え、米国経済を支えていた地域が、衰退し、薬物の問題を抱えているのは事実だ。しかし、デジタル経済へ移行する中、IT産業分野で独占的な優位性を保つ米国が、保護主義へとかじを切る必要があるのか。トランプ大統領の行為は、政治的な支持を得るための政策が、全体の政策運営に甚大な影響を及ぼす悪い例である。角を矯(た)めて牛を殺すことになりかねない▼
だが、それは米国に限らない。欧州では、厳しい反移民政策を掲げる政党が議席数を増やし、政治的影響力を強めている。また、少数与党時代に入った日本では、一部の支持層にターゲットを絞った政策が注目を集め、それが実現しないと次の政策の議論に進めない状況が起きている▼
選挙公約は具体的であるほど、説得力を持ち、人々の支持が得られる。選挙で勝利した政党が公約の実施を目指すことは当然のことだが、その結果、政策全体の整合性や国際的協調を毀損(きそん)することは回避せねばならない。そのためには、一部の支持層に限らない幅広い民意を、投票以外の手段を通じて意思決定の場に届け、議論を深められるようにすることが肝要だ。政治がポピュリズム化する今、政治が生み出す不安定化を調整するための仕組みづくりが求められている
(NIRA総合研究開発機構理事・神田玲子)