地域企業の経営環境は厳しさを増すばかりだ。そこで、人口減や後継者不足といった共通課題に地域やほかの企業と一緒に取り組むことで問題を解決し、新たなビジネスと地域振興の可能性を見いだした企業の今に迫る。
仕出し業の事業承継を支援していくことで「買い物弱者」など地域課題の解決を推進
奈良県を中心に事業を展開するミライトリンクは、仕出し・割烹(かっぽう)のベンチャー企業で、寿司(すし)・会席の仕出し、惣菜の店頭・EC販売、法要会館の運営、カフェ、ケータリングなどのフードビジネスを行っている。また、2022年には仕出し業者専門の後継ぎ支援事業を立ち上げ、地方の仕出し業者の事業承継を支援。地域にフードデリバリー業者を残すことで、「買い物弱者」という社会課題を解決しようと努力している。
食に関わる全ての人が光り輝く未来を創造する企業に
ミライトリンクは、先代の中本秀典さんが1984年に創業した「寿司・割烹 甚八本店」が元となっている。 「父は、もともと米国で寿司屋を開くつもりで奈良市内の寿司店で修業を始めたのですが、そこでのお客さんからの評判が良かったことから、予定を変更して地元で開業しました。店は行列ができるほどの人気店となり、お客さんを長時間待たせるのは申し訳ないという思いから、翌年には仕出し専門の店を開業し、宅配を始めました」と、同社社長の中本和昭さんは言う。
宅配事業は順調に成長し、宅配専門店を他地域に増やしていった。その後、2009年の飲酒運転の厳罰化により、店での飲酒を控えるだけでなく、外食そのものを控える人が増えたことで、売り上げが落ち込む飲食店も出てきた。息子の中本さんは10年に会社に入り、12年から徐々に飲食店事業から撤退すると同時に、宅配とケータリングを中心に事業を展開。そして15年、社長に就任した。 「私は以前、葬儀社で働いていた経験から、葬儀社から仕出し注文を受けることが業績向上につながると考えました。それにより売り上げは伸びましたが、葬儀社からの注文はどうしても急なものが多く、従業員の残業が増える問題がありました。そこで、売り上げを上げながらも、従業員の負担を軽減するためにセントラルキッチンを導入し、収益面と待遇面の改善を進めました」
18年には社名をミライトリンクに変更した。この名は「ミール(食)」「ライト(光)」「リンク(つなぐ)」を掛け合わせたもので、食に関わる人が光り輝く未来をつくる企業になりたいという思いが込められている。
仕出し業務の負担軽減で業者の事業承継を支援
コロナ禍では飲食店の多くが打撃を受ける中、同社では法事やパーティーなどの大口注文は減少したものの、日常要素が強い個食宅配は逆に受注が大きく増えた。慶弔行事が中心だった仕出し業者が苦境に耐え切れずに廃業し、同社にはそれまで取引のなかった地域からの問い合わせも増加した。
また、過疎地には高齢者が多く、買い物弱者という社会課題が存在する。仕出し業者が食べ物を届けるインフラ的な役割を果たしていることも多く、その業者が廃業すると、買い物弱者問題がますます加速してしまう。 「仕出し業者の廃業を防げば、地域に貢献できるだけでなく、ビジネスチャンスにもつながる。そこで、私たちが培ってきたセントラルキッチンや19年に開設したコールセンターのノウハウを活用し、仕出し業者の負担を軽減して調理に専念できる環境を整えることで、廃業を防いで事業承継できるよう、22年から仕出し業者専門の後継ぎ支援事業を開始したのです」
この事業には二つのプランがあり、一つは後継者がいる事業者に受注から製造・物流面までサポートして事業承継を支援するFC加盟プラン。もう一つは、後継者不在で事業売却を検討している事業者を買収することで、事業を継続させるプランである。
この支援事業の開始と同時期に、ある地域の夫婦経営の仕出し業者を同社が買収した。妻の体調不良により廃業を余儀なくされ、地域の人々が心配する中、地域の事業承継・引継ぎ支援センターを通じて同社が事業承継したものだった。これにより店は存続し、以前の経営者が店に残り、地域の顧客とのつながりを大切にしながら、事業承継後も地域に根差した運営を続けている。
同業他社の子会社化は自社にも大きなメリットが
「仕出し業は、飲食業と比べて参入企業が少なく、もうからないと思っている企業も多い。しかし、適切な仕組みを構築すれば十分に成り立つビジネスです。実際に当社では、コロナ禍以降に仕出し専門の店舗数を拡大しており、現在は10店舗を運営しています」
さらに、新たな試みとして市内の多目的ホール「なら100年会館」にワンユナイテッドラボを開設した。ここではカフェ、ケータリング、結婚相談所の3事業を展開しており、カフェを併設することでホールを日常的に人が集まる場にして新しい出会いを創出し、地域の人たちの婚活も支援する。 「他地域の同業他社を子会社化することは、当社にとってもメリットがあります。例えば、旅行会社とコネクションを持つ仕出し業者を統合したことで、観光客向け弁当の製造拠点を自社で調整し、より効率的な供給体制が構築できただけでなく、これまで個人向けが多かった当社に法人の顧客が増えました」
企業としての信頼性が向上し「地元で安定した会社」として、求職者の応募も増えるなど、採用面にも好影響を与えている。現在運営している店舗は奈良県内が中心だが、昨年、大阪府八尾市にも出店。今後は関西の枠を超え、全国、そして世界規模での事業展開を視野に入れている。 「私たちは、仕出し業を支えながら、各地域に最適な事業を派生させ、地域の課題を解決する存在になりたいと考えています」と中本さんは力強く語った。
同社は仕出し業者の支援を通じて持続可能なビジネスモデルを構築し、地域の課題解決に貢献していく。
会社データ
社 名 : 株式会社ミライトリンク
所在地 : 奈良県奈良市四条大路5-6-29
電 話 : 0742-32-3883
HP : https://miraitolink.co.jp
代表者 : 中本和昭 代表取締役社長
従業員 : 約40人
【奈良商工会議所】
※月刊石垣2025年4月号に掲載された記事です。