2025年は20周年。ガイドブック『聖地巡礼 ―アニメ・マンガ12ヶ所めぐり』の発売からだ。といわれても、ピンとくる人はあまりいないはずだ。著者の柿崎俊道(しゅんどう)氏によると、本書は「当時はあまり反響がなかった」のだから。
実は、本書はゾンビ先生にとってバイブル的存在だ。08年にアニメ聖地巡礼の研究を始めた当初、アニメ聖地巡礼に関するまとまった市販書籍としては、ほぼ唯一のものだったからである。『新世紀エヴァンゲリオン』『耳をすませば』『ラーゼフォン』『げんしけん』など、今見ると懐かしい作品の舞台が紹介されているが、中でも注目したいのは『天地無用!魎皇鬼(りょうおうき)』の舞台となった岡山県である。
本書には、「鬼の差し上げ岩」「太老神社」などが紹介されており、読んだ時には、「神社のさい銭箱が盗まれたがアニメファンが寄付を募ったおかげで新しいものが準備される」という内容の記述に惹(ひ)かれた。訪れたファンと地域の人々との関わりが垣間見える。さらに、作中の舞台ではない「美星町」「鷲羽山(わしゅうざん)」も紹介されている。それは、登場人物の名前がこれらの地名から取られているからだという。こうして柿崎さんは、さまざまな仕方でアニメの「世界」と現実の「地域」、そして、「人」をつなげて魅せる。
さらに、作品にも影響を与えたと思われる「桃太郎と温羅伝説」も紹介されている。桃太郎といえば鬼退治の物語。「鬼」に関わるコンテンツは、近年では『鬼滅の刃』の大ヒットが記憶に新しいが、洋の東西を問わず連綿と語り継がれている。魅せ方次第でコンテンツと地域資源は接続できる。
当の柿崎さんは、現在「聖地巡礼プロデューサー」として活躍中で、兵庫県アニメツーリズム推進アドバイザーも務めた。時がたてば、社会の状況や人々の認識は変化する。何かに追随するだけでなく、新たな見方や価値を編み出すことができる。そういった人材の育成が必要不可欠である。