1560年に鍋や釜、鐘、灯籠などの製造で創業した鍋屋バイテック会社。長い歴史の中で高度な鋳物技術を蓄積してきた同社だが、2000年頃から新たに半導体製造装置に使用される特殊ねじの製造に乗り出し、唯一無二の存在感を発揮している。すでに多くの競合があるねじ業界に後発参入し、売り上げ増を果たしたビジネスモデルとは―。
半導体産業との新たな接点から特殊ねじ製造に進出
実に1万4000点。鋳物メーカーの鍋屋バイテック会社が現在扱っている特殊ねじの製品点数だ。気が遠くなるような数字だが、これにはワケがある。 「当社は、『特殊ねじ、1本でもつくります。』をキャッチコピーに、顧客のニーズに合わせてねじをつくってきました。その結果、これだけの数になってしまいました」と同社常務取締役の丹羽哲也さんは説明する。 1560年に創業した同社は、朝廷から「御鋳物師」の免状を授かり、鍋や釜、鐘や灯籠などを製造しながら技術を蓄えてきた。中部地方には自動車や工作機械、航空機部品などのものづくり産業が多く集積しており、1940年に鍋屋工業株式会社設立後はそれらのニーズに対応して、大型モーター用プーリーやカップリングなどの製造を中心に事業を展開してきた。 同社がねじを扱うようになったのは、2000年頃のことだ。 「当社は機械標準部品メーカーとしてさまざまな業界と接点があります。また、ものづくりや開発においては社内だけで完結するわけではなく、取引先や地域の協力工場様と連携しながら商品を生み出しています。さまざまな業界との接点から新たなニーズを、そして多くのパートナー企業様との協業により生産技術開発を活性化させ、その掛け算により新事業が立ち上がる。その繰り返しの中から半導体製造装置に使われる特殊ねじのビジネスが立ち上がりました」(丹羽さん)
新たな顧客を開拓する 「ねじ標準化ビジネス」
同社が最初に扱ったのは真空装置用ねじだ。半導体製造装置の内部が真空状態に保たれているものがあるが、ねじ穴にたまったガスが漏れ出して、処理空間の真空度が低下するという問題があった。そこで真空引きの際にガスを効率よく排出できるように、中心にガス抜き穴を設けたのが真空装置用ねじだ。 「ねじの中心に穴を開けること自体は、さほど難しい加工ではありません。ただ、半導体製造装置の仕様や形態は多種多様で、1種類のねじを大量につくればいいというものではなく、むしろ『こういうねじが1本だけ欲しい』というケースさえあります。当社は、そういう細かい顧客ニーズに対応できることを強みにしています」と未来技術部部長代理の藤川義己さんは語る。 とはいえ、一つ一つ対応していたらキリがない上にコストも掛かる。そこで同社はさまざまな形状の真空装置用ねじの中から、JIS規格に合わせ、広く使用できるものを標準品としてラインアップする、いわゆる“標準化”を行った。 「当社はメーカーですが、単に依頼を受けたねじをつくって納品するだけでなく、そのねじを標準品として販売することで新たな顧客を開拓するというビジネスモデルを構築しています。いわば『ねじ標準化ビジネス』です」(丹羽さん)。自社ホームページ上に掲載して情報提供するとともに、同時期に立ち上げたネットショップ 「e‐nedzi.com(ネジコム)」で直接販売している。 同社の真空装置用ねじは、実に50シリーズ、1000品番以上の商品をラインアップしている。ほかにも、ステンレスやチタンの中でも強度の高い材質でつくられた「高強度ねじ」、ねじのかじり対策を施した「表面硬化処理ねじ」、薄板の締め付けができる「薄板固定用ねじ」などを次々と生み出し、標準化してきた。それにより需要が急増し、特殊ねじ全体の売り上げは、この10年で約4倍に伸びている。
自由にものづくりできる社風が商品開発のヒントに
ねじ業界は、特定の企業から発注された規格品を大量に請け負うところが多いといわれる。1本数円、ときには数銭のねじを少量ずつつくっていたのでは割に合わない。一方、同社は見事にその逆を行っている。顧客に課題解決を提供するためにニッチな特殊ねじをつくっているため、むしろ「大量につくるタイプのねじは苦手」とさえ言い切る。 それを陰で支えている商品開発や製造現場の人材は、どのように育成してきたのだろうか。 「特に教育プログラムがあるわけではなく、強いて言えばやりたいことを比較的自由にやらせてもらえる社風があることでしょうか。顧客から新たな課題を持ち掛けられたら、できるかどうか分からなくてもとにかくやってみますし、うまくいかない時は協力工場様の助けを借りて一緒にチャレンジします。その結果、失敗してもとがめられることはありません」と、商品開発部部長の渡邉寛さんは言う。 実際につくれなかったものや売れなかったものは少なくないというが、そうした失敗を積み重ねたことが次の開発のヒントになり、財産になっている。今後も顧客の声を聞いて課題解決を提供していくとともに、さらにグローバル展開に力を入れていきたいそうだ。 「特殊ねじといっても機能はシンプルなので、国ごとの特徴はあまりないんです。つまり、日本で困っていることは世界でも困っているはずです。現在は中国、米国、シンガポールなどに輸出していますが、今後さらに販路を広げて、日本のねじの技術や品質の高さを世界に知らせたいですね」と、丹羽さんは締めくくった。
会社データ
社 名 : 鍋屋バイテック会社
所在地 : 岐阜県関市桃紅大地1
電 話 : 0575-23-1162
HP : https://www.nbk1560.com/company
代表者 : 岡本友二郎 代表取締役社長
設 立 : 1940年
従業員 : 447人
【岐阜・関商工会議所】
※月刊石垣2025年5月号に掲載された記事です。