2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)は4月13日の開幕から3カ月がたち、連日盛況を博している。さらに盛り上がることが見込まれる夏休みを前に、ぜひ来場をお薦めしたいパビリオンが、「REBORN」をテーマとした大阪ヘルスケアパビリオンである。今回は、同パビリオンの見どころと、そこに出展する関西企業の技術力の高さ、各社の狙いを紹介したい。
万博から発信する大阪の町工場の底力、“やってみなはれ”精神で未来を開く
「大阪ヘルスケアパビリオン」は、「『人』は生まれ変われる」「新たな一歩を踏み出す」という意味を込めた「REBORN」がテーマ。そこで、未来の医療技術やヘルスケア、食と文化を題材に、大阪府・大阪市、経済界、企業、大学、府民・市民が一体となって出展している。大阪商工会議所副会頭であり、本パビリオンの企画運営にも携わる廣瀬恭子さんに、今回の見どころを伺った。
大阪ならではの創造力と行動力が集結
─大阪商工会議所(以下、大商)は万博誘致から関わり、これまで機運醸成および大阪ヘルスケアパビリオンの企画運営を行ってきたと伺っています。ここに至るまでの思いを聞かせてください。
廣瀬恭子さん(以下、廣瀬) 大商は地元の経済団体として、国や自治体、2025年日本国際博覧会協会と一致団結して万博の準備をしてまいりました。その中で一番大きな課題となったのは、地元はもちろん、全国でいかに万博を盛り上げていくかという機運醸成でした。これについては、商工会議所のネットワークを使い、日本商工会議所をはじめ全国の商工会議所の皆さまにご協力いただきました。現在、全国の商工会議所の多くの方々に視察にお越しいただいており、大変感謝しております。
─このパビリオンでは大商はどのような役割を担っていますか?
廣瀬 大阪ヘルスケアパビリオンにおいては、21年に立ち上がった企画組織に設立当初から参画しています。このパビリオンは、建設を大阪府と市が担い、運営を民間が手掛けるという官民連携で推進しています。
先端技術を駆使した展示や、大阪の中小企業・スタートアップによる出展など、大阪ならではの創造力と行動力が集結しています。
─大阪ヘルスケアパビリオンはいつも来場者でいっぱいだと伺っています。どのような展示内容なのでしょうか。
廣瀬 大阪ヘルスケアパビリオンは「REBORN」をテーマに、未来の医療やヘルスケア、暮らしの在り方を体感できる多彩なコンテンツを提供しています。目玉の一つが「リボーン体験ルート」で、最新の測定機器による身体データを基に、25年後の自分のアバターと対面することができるほか、未来のヘルスケアや都市生活が体験できます。
若者に人気なのは、「モンスターハンター ブリッジ」という没入型エンターテインメント空間で、有名なゲーム『モンスターハンター』の世界を360度の映像と音響などによってリアルに体験できます。
大阪府・市の中小企業とスタートアップも出展
廣瀬 パビリオン1階中央の「アトリウム」では、iPS細胞でつくった動く「心筋シート」を展示しています。また、全自動入浴装置の「ミライ人間洗濯機」など、先端医療とケア技術の成果も見られます。その隣の「リボーンチャレンジ」ゾーンでは、万博期間中、26週間にわたり週替わりでテーマを設定し、合計で400社以上の中小企業やスタートアップが未来に向けて開発した技術や製品を順次出展していきます。
そして、「ミライの食と文化」ゾーンでは、健康でおいしく、持続可能な“未来の食”を購入・体験できます。屋外には、球体の循環型生産システム「アクアポニックス」を展示しています。これは水耕栽培と陸上養殖を組み合わせた食料生産の試みで、環境に優しい持続可能なモデルです。
複数の企業が共同開発して夢のあるアイデアを実現
─中でも大商として最も注目してもらいたいゾーンは何ですか?
廣瀬 大商と大阪産業局が共同で企画・運営している「リボーンチャレンジ」です。ここは、6カ月の間に多くの中小企業・スタートアップに出展していただこうという趣旨から、毎週のテーマに合った開発を行っている複数の企業に1週間単位で出展していただいています。この構成により、1社でも多くの企業に新技術や新製品を披露できるチャンスを提供しています。
大阪には、中小企業同士が連携してものづくりに取り組む文化があります。1社単独では開発能力に限界があるため、複数社が協力し合うことで新たな技術や製品を生み出してきました。今回の万博のテーマの一つである「共創(共に創る)」とも合致するのが、「リボーンチャレンジ」です。単なる展示ではなく、中小企業同士の協力や挑戦していく力をここで示していきたいと考えています。
─「リボーンチャレンジ」の展示の中で、特に注目すべき内容について教えてください。
廣瀬 大商は、このゾーン全体の企画・運営に関わっていますが、5週間分のテーマも担当しています。例えば10月7~13日には、大阪信用金庫と共同で「身近な課題や世界のお困りごとを大阪の町工場が解決します!」をテーマに84社が出展します。これは大阪の町工場が協力して、さまざまな課題を解決する新たな製品を開発する企画です。
─今後の展示の中での見どころについて教えてください。
廣瀬 大商が担当するテーマでの出展では、空飛ぶトラックとして活用できる飛行船「Zipang」プロジェクト、災害備品を備え多目的スペースにもなる「防災ロッカー」、温かいおにぎりを握る自動調理機などがあります。革新的技術としては、自然分解する植物由来のバイオマス塗料、ゴムやガラスにも加飾できる塗装技術、電磁石の反発で宙に浮いて歩ける「宙に浮く靴」、種子を植えた生地の「光合成する服」、景色を投影して透明に見える服などがあり、「月面探索電動バイク」は災害現場での活用も期待されています。
これらのいくつかは複数の企業が共同開発しており、大商が伴走支援を行っています。実用化はこれからのものも多いですが、こうした夢のあるアイデアの実現を目指すことが重要だと思っています。
─これから学校が夏休みに入り、万博に来る子どもたちが増えてくると思います。大阪ヘルスケアパビリオンでは、子どもたちにどのようなところを見てもらいたいですか?
廣瀬 子どもたちにとって、産業や新技術への関心を持ち、挑戦する意欲を育むきっかけになればと考えています。例えば、iPS細胞心筋シートやミライ人間洗濯機のような最先端技術の展示は、楽しみながら学び、刺激や気付きを得られる内容になっています。実際、有名な研究者が1970年の大阪万博をきっかけに研究の道を志したという話も聞いており、今回の展示も子どもたちの貴重な体験になることを期待しています。
会場外でも、さまざまなイベントでまちを盛り上げる
─今回の万博では、会場外でも万博を盛り上げるためのさまざまなイベントを行っているそうですが、どのようなものですか?
廣瀬 まず「まちごと万博」では、万博の盛り上げに取り組む人たちの活動を私たちが一体的に情報発信し、まち全体を巻き込むムーブメントを目指しています。次に、主に民泊で大阪に滞在している方々向けに、商店街の喫茶店で朝食を楽しんでいただく「Osaka Morning~商店街で朝食を~」や、大阪の飲食店が万博にちなんだメニューを提供する「くうぞ、万博。」、そして、夜の大阪を楽しんでいただくための「夜のパビリオン」と称して、若手クリエーターたちがまちの中に用意した交流拠点「EXPO酒場本店」(キタ(梅田)とミナミ(心斎橋)に1店舗ずつ)を支援しています。
─これには、どのような狙いがあるのでしょう?
廣瀬 インバウンド(訪日外国人)の方々に向けて、大阪の夜の過ごし方の選択肢がもっと欲しいという意見を以前からいただいており、これらを通じて、昼も夜も大阪のまちににぎわいを生み出し、地域住民と観光客、参加国のスタッフの方々が交流できる場を広げることを目指しています。
─最後に、万博後の展望になりますが、大阪ヘルスケアパビリオンでの経験から、大商は今後、どのようなことに取り組んでいきますか?
廣瀬 「リボーンチャレンジ」により、夢のあるアイデアを複数の企業で「共創」する動きが生まれており、これをさらに広げ、支援していきます。2023年度から大商が展開している中期計画「挑戦都市 やってみなはれ!大阪プラン」どおり、やってみなはれの精神で、より多くの企業が新しいことに挑戦していける土壌をつくっていくことが、われわれの一番大きな使命と思っております。そして、万博に来た方々がSDGsやその先にも関心を持ち、今後の行動変容につなげていただくことがレガシーのひとつであり、「いのち輝く」未来社会へつながると思います。
大阪ヘルスケアパビリオンの詳細はこちら https://www.expo2025.or.jp/domestic-pv/osaka-pv/
団体データ
団体名 : 大阪商工会議所
所在地 : 大阪府大阪市中央区本町橋2-8
電 話 : 06-6944-6211
HP : https://www.osaka.cci.or.jp
※月刊石垣2025年7月号に掲載された記事です。