2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)は4月13日の開幕から3カ月がたち、連日盛況を博している。さらに盛り上がることが見込まれる夏休みを前に、ぜひ来場をお薦めしたいパビリオンが、「REBORN」をテーマとした大阪ヘルスケアパビリオンである。今回は、同パビリオンの見どころと、そこに出展する関西企業の技術力の高さ、各社の狙いを紹介したい。
廃棄されている「未利用魚」をAIで自動選別する装置を展示
堺市にある東洋水産機械は、水揚げされた魚の骨や内臓を自動で取り除き、切り身やすり身にするなど、各種の水産加工機械を開発・販売してきた。同社は自社技術を応用し、大阪府内の企業と協力して、廃棄されている「未利用魚」をAIで自動選別する装置を開発した。大阪・関西万博の大阪ヘルスケアパビリオンで10月7~13日に展示する。
水産加工の世界的な技術 魚体処理のスペシャリスト
東洋水産機械は、1963年に創業者がスウェーデンの会社と技術提携し、日本で初めて魚体処理機の製造を開始した。その後、大手水産会社の大型漁船に採用されて本格的に販売を始め、78年に法人設立した。現在は、米国にも拠点を構え、世界各地の漁業拠点で同社の機械が稼働している。 「それぞれの魚の特徴を捉えて、それを生かして機械を開発しています」というのは、三代目社長の塚越智頼さんである。同社では、水揚げされた魚の大きさをそろえ、自動で骨や内臓を取り除く、といった基本的な加工から、かまぼこの原料となるすり身に関する独自の技術まで、水産物に関わる幅広い機械を開発・製造してきた。特に、魚のうろこや腹の柔らかさを利用して、魚の向きを自動でそろえる技術は、特許を取得している。
魚のすり身に関する同社の特別な技術は、歩留(ぶど)まりを大きく向上させる点にある。一匹の魚から食用部分をどれだけ効率的に取り出すかというこの技術は、長年の経験と研究によって培われた。また、骨を取り除いて切り身にする機械の分野でも高い技術力を誇り、ドイツの競合メーカーと肩を並べる世界的な存在である。魚を丸ごと投入すれば、卵や骨、身を瞬時に選別し、効率的に加工する技術は、人手に頼らず高速で処理できるため、現代の水産加工業において必要不可欠となっている。
6社の得意分野を融合させ 未利用魚問題の解決へ
同社が大阪・関西万博に出展するきっかけは、「リボーンチャレンジ」という枠組みだった。これは、大阪商工会議所が中心となって、中小企業やスタートアップが持つ革新的な技術やアイデアを万博で披露する機会を提供するものである。塚越さんは当初、万博への出展にはあまり興味がなかった。しかし以前より交流のあった、大阪商工会議所の職員から熱心な誘いがあり、万博関連の会議に参加した。その会議で、大阪府内にあるAIシステムを開発するソフトウエア会社と出会ったことが、出展への原動力となった。 「以前から、当社の機械にAIを導入しようと検討していたのですが、私たちが考えているように開発してくれる会社がありませんでした。でも、その会議で理想のAIを開発してくれる会社と出会うことができました」と言う塚越さん。その後、堺市内の企業も合わせた6社共同で展示物を制作することになり、2023年5月から協議を重ねた。
出展テーマは、水産業界が抱える共通の課題を解決しようと「AIによる未利用魚の自動選別機」に決まった。未利用魚とは、漁獲されるものの、小さすぎる、傷みやすい、量が少ないなどの理由で、食用にされづらく流通に乗りにくい魚である。これまでは廃棄されることが多かった未利用魚に、新たな価値を与え、持続可能な水産資源の活用を目指す。
展示する機械は、魚をカメラで撮影し、AIが種類を判別して選別するシステムである。人間が目視で判別できる魚であれば、AIも学習によって判別できるという点が特徴で、複雑なプログラミングを必要とせず、多くの画像を学習させることで精度が向上する。万博での展示に当たっては、会場の展示スペースの制限や生魚が使用できないなどの制約があるため、選別機のデモ機と魚の模型、実際の選別機の映像を使い、分かりやすく表現する。魚の模型が機械の中を流れ、AIによって自動で選別される様子を会場で再現。さらに、未利用魚が廃棄される現状から、AIによって選別され、活用されるまでの未来を描くアニメーション映像も放映予定である。
持続可能な未来へ 自社製品にAI技術を導入
このプロジェクトは、同社を含む6社それぞれの企業が持つ強みを持ち寄り、ボランティアベースで費用や技術を提供することで、万博への出展を実現させた。東洋水産機械は、長年培ってきた魚の知識や機械の設計技術を提供し、AIシステムを開発する会社がそのソフトウエアを提供するといった形で、異業種連携の成果を万博で披露する。
今後、このAIによる選別技術が、同社のビジネスにおいて重要な役割を果たすと、塚越さんは考えている。 「水産加工業界では、魚の判別作業を熟練の技術者が手作業で行っていますが、高齢化や人手不足が深刻化しています。その作業をAIが代替することで、より効率的な生産体制を構築できるようになります」と言う塚越さん。万博を契機に、このAI技術を実機に搭載し、より多くの水産加工現場で活用することが今後の目標だ。魚種判別だけでなく、骨の有無や鮮度など、さまざまな判断基準をAIに学習させることで、より高度な選別が可能になる。AI技術を核とした新たな水産加工機械の開発は、未来の食を支える重要な一歩となる。
会社データ
社 名 : 東洋水産機械株式会社(とうようすいさんきかい)
所在地 : 大阪府堺市中区八田寺町476番地9号
電 話 : 072-273-9351
HP : https://www.tosuiki.co.jp
代表者 : 塚越智頼 代表取締役
従業員 : 15人
【堺商工会議所】
※月刊石垣2025年7月号に掲載された記事です。