Q 顧客の中に、商品や接客に対するクレームとして、長時間暴言を述べて土下座を要求したり、SNSへの投稿をほのめかしたりし、謝罪対応として迷惑料などを要求する者がいます。相手が顧客であるため対応に苦慮していますが、どのような対応を取るべきでしょうか。
A 顧客の不当要求(カスタマーハラスメント)は社会問題となっており、企業にて対応方針を定める必要があります。また、2025年6月の改正労働施策総合推進法により、事業主には従業員を保護する措置を取ることが義務付けられました。カスハラ対応は心理的負荷が大きく、従業員のメンタル不調を招く恐れもあります。顧客などへの対策のみならず、従業員保護のため適切な体制を確保しましょう。
2025年6月11日に公布された改正労働施策総合推進法は、カスタマーハラスメント(カスハラ)を次のように定義しています。
①職場において行われる顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の利害関係者が行う、
②社会通念上許容される範囲を超えた言動であって、
③労働者の就業環境を害するもの
事業主はカスハラの被害者である一方、カスハラ対策となる雇用管理措置を取るべき義務者とされており、この改正法は公布から1年半以内に施行されます。
カスハラの判断基準
カスハラは、企業側の何らかのミスや落ち度を端緒として発生することが多く、顧客などの正当なクレームか、カスハラかの判断には困難を伴います。カスハラに該当するか否かは、一般的には次の二つの基準で判断します。
①要求内容の妥当性
顧客の要求に正当性があるか。具体的には、
・提供した商品・サービスに過失や瑕疵(かし)があったか
・過失や瑕疵に対するクレームとして要求が過大でないか
②手段・態様の妥当性
顧客などが一定の要求を行うことへの理解ができる場合でも、
・要求を実現するための手法に違法性・不当性がないか
・企業側が社会通念から見て合理的な説明、謝罪、解決案の提案などを行っても、顧客などが解決への歩み寄りをせず、当初の要求や不合理な要求に固執していないか
事業主が取るべき対応
カスハラが収束しない場合に担当者個人に対応を委ねることは、不当要求の増加・長期化につながる恐れや、担当者のメンタル不調を招く恐れがあります。
そこで事業主は、事前対策として次のような内容を定め、従業員へ周知・共有することが必要です。
①カスハラの判断基準
②組織としての対応策
③カスハラ相談窓口の整備
④契約内容や顧客とのやりとりに関する記録方法
実際にカスハラと考えられる問題が生じた場合は、次のような対応を検討すべきです。
①基本的な対応方法
不当要求の場合、応じられない要求は断る。不確かな事実に推測で回答しない。要求が執拗(しつよう)な場合や、罵声・暴言を伴う場合、録音などで記録する
②暴力、脅迫、セクハラ行為
犯罪に該当し得る行為であり、警察への通報を検討し、従業員の安全確保を含めた対応を行う
③長時間の電話、どう喝・暴言を伴う不当要求行為
組織として対応し、対応可能な時間帯・曜日を区切るなどして必要以上の対応はしない。毅然(きぜん)とした態度で対応をやめることも検討する
④SNSでの誹謗(ひぼう)中傷
弁護士に相談の上、発信者情報の開示請求や、警察への被害相談を行う
また、こうした顧客などへの対応に加え、改正法により、対応した従業員のケア(例:相談窓口での対応のほか、必要に応じ、産業医や臨床心理士などの専門家へ相談できる体制を確保すること)や、再発防止に向けた対策(例:カスハラの情報共有、従業員研修、発端となった商品・サービスの改善検討)を行うことが、事業主の義務となりました。
事業主が講ずべき具体的な措置の詳細などは、今後、指針によって示される予定です。
(弁護士・増澤 雄太)
