日本は、毎年のようにさまざまな自然災害に見舞われている。地域とともに成り立つ企業にとって、従業員はもちろん地域全体を守るための防災・減災対策は必須となっている。今号では、今後、地域企業が意識していくべき「レジリエンス」とは何かを解明するとともに、企業方針として自社と地域を守るさまざまな活動を行っている「レジリエンス企業」の取り組みに迫った。
*レジリエンス(Resilience)とは「弾力」「回復力」を意味する。企業活動においては、災害などの困難に直面した時の備えや迅速な行動=強靭化を指す
災害から強靭に、しなやかに回復できる 企業の防災・BCPをトータルサポート
防災・BCPのトータルサービスを提供する、スタートアップのレジリエンスラボ。同社の、企業・団体を対象とした、災害時に必要な燃料・非常用電源などの備蓄のシェアリングサービスが、2022、23年と連続でジャパン・レジリエンス・アワード優秀賞を受賞し、注目を集めている。中小企業におけるレジリエンスとは何か、レジリエンスラボの取り組みを通し、大規模震災などのリスクに備える、〝今、やるべきこと〟を探る。
災害時の早期の回復力が企業価値として問われる
防災対策の領域において、BCP(Business Continuity Plan)=事業継続計画の必要性は、中小企業の経営者にも広く認知されてきた。災害時における従業員やその家族、ひいては地域社会の防災、減災対策も地域企業として求められつつある。そうした文脈で、今、企業におけるレジリエンスの重要度が高まっている。 「レジリエンスとは、直訳すると『弾力性』『回復力』『強靭化』ですが、企業活動においては、災害時に受けたダメージから、いかに早く立ち直って通常業務を再開できるか、その強靭的な回復力を表す表現として用いられるようになってきました。企業の精神力、経済力は、突き詰めれば企業を形成する一人一人の気持ちの在りよう、生活力に直結します。BCPを策定すればいい、経営者や現場責任者が防災意識を持っていればいいということでは決してありません。気候変動や地球温暖化、国内外の自然災害が多発する昨今、首都直下地震や南海トラフ地震なども、いつ来てもおかしくないといわれています。大規模災害が現実味を帯びる今、全社一丸となって万が一に備える、現場レベルの危機管理体制の構築が非常に大切です」
そう警鐘を鳴らすのは、レジリエンスラボの代表取締役CEOの沖山雅彦さん。企業のレジリエンスを高めるべく、BCPは重要視されているものの、実際に取り組んでいる事例は、会社の規模や業種を問わずまだ少ない。そうした現状を改善すべく、同社が注力しているのが、「うちは大丈夫」と楽観的な経営者の意識改革と、防災・BCPの知見とスキルを高める講演やセミナー、従業員研修だ。
事業会社での実績を生かし 防災・BCP対策を支援
レジリエンスラボは、2021年8月設立のスタートアップだ。起業して約4年だが、取引実績には住友重機工業や日立物流などの大手企業が名を連ねる。各地商工会議所からの講演やセミナーのオファーも多い。なぜか。それは沖山さんのキャリアにある。
沖山さんは、前職の大手電機メーカーで、BCP構築を一から手掛け、推進してきた。その功績が評価され、20年5月には、日本のBC(事業継続)の普及や実践に貢献した企業・団体を表彰するBCAO(NPO法人事業継続推進機構)の「BCAOアワード」で、優秀実践賞を受賞している。さらにさかのぼれば、物流会社在籍時に「大災害時の燃料調達BCP」をテーマに同賞を受賞。BCPのコンサルティング会社ではなく、事業会社の一社員としてBCPの構築、運用をしてきた。沖山さん自身、東日本大震災の被災経験もある。マニュアル通りには進まない会社の内情や、被災地の状況に当事者として直面してきた経験を持つ、防災・BCPのスペシャリストだ。
また、レジリエンスラボが〝出向起業〟で誕生した点も興味深い。これは会社に在籍したまま起業する手段で、経済産業省の「出向起業等創出支援事業」の助成金制度も活用している。子会社よりも経営の自由度が高く、起業準備や計画が立てやすい利点がある。 「前職、前々職でもそうでしたが、多くの企業では、経営陣は防災・BCPにコストをかけたくないですし、営業、製造部門など実務を担当する部署には、余計な仕事を増やさないでほしいという本音があります。取り組むべき大事なことであるのは分かっているけれど、目の前の実務で精いっぱい。仮にBCPを作成しても、それを生かしきれていない企業がほとんどです。経営者のBCPに対する意識は二極化しており、アンケート調査をしても、BCPに関心のない経営者のコメントとして①何から始めていいか分からない②BCPの知識がない③BCPに割く人員がいない―が毎回上位を占めます。そこで、私が膨大な予算と時間をかけて培ったBCPの知見やスキルをオープンソース化し、スピード感を持って提供すべく、レジリエンスラボを立ち上げました」
経営者の防災意識と感度がレジリエンスを決定づける
レジリエンスラボの事業は、大きく二つある。①BCP対策デザイン事業②備蓄シェアリング事業―だ。
①では、依頼先企業の規模や業種、課題に応じて、最適かつ実効性のある防災・BCPのトータルコンサルティングやソリューション支援を行っている。 「防災とBCPは一緒くたにされますが、厳密には異なります。防災は、有事の際の人命や財産を守るための対策で、具体例としては、備蓄の確認や補充、避難訓練などがあります。一方、BCPは事業を継続するための、いわゆるレジリエンスを高めるための計画です。この二つがきちんと機能するように、教育や訓練、備蓄の調達などを全面的にサポートしています」
BCPの策定は、日々の業務が優先され、つい後回しにされがちだ。だが、沖山さんは「平均して10カ月〜1年あれば構築できる」と説く。 「経営者の従業員への安全配慮は義務です。BCPを適切に策定せずに被災した場合、裁判となり敗訴になった事例が実際にあります。従業員を守ることは、経営者である自分自身を守ることとイコールです。分厚いBCPマニュアルをつくるのが目的ではなく、有事に役立つ自社独自のBCPを構築し、適切な行動へと移せるかが大事です。年に1、2回はBCPに基づく防災訓練を実施したり、新人研修に組み込んだり、企業の年間行事として繰り返していくことで、社内に浸透させていく。それが企業価値を高める知見・スキルという財産になっていくのです」
備蓄燃料を分配し合う 斬新なシステムを構築中
コンサル事業に加えて、レジリエンスラボが着々と開発を進めているのが②の備蓄シェアリング事業だ。大規模災害により長時間停電した際の電源や燃料などをシェアリングする全国規模の仕組みを整えつつある。 「災害時の備蓄というと、食料や飲み物に意識がいきますが、電気が使えなければパソコンやスマートフォンでの情報収集や情報発信もままなりません。当社が構築した『BCPチャージ®』は、燃料会社と弊社が連携して、全国数カ所に共同備蓄拠点を設置。そこから被災した会員企業に電気やオイルを速やかに配送するサービスです」
燃料備蓄には、危険物取扱者の届け出などが必要で、管理や保管も難しい。燃料会社との契約は基本的に大口契約のため、中小企業の一社単位の量では受け入れてもらえない。だが、複数の企業による共同備蓄なら可能だ。それも自社に必要な備蓄量に応じた会費(月額払い)で、被災時に使った分のみ実費となる。いわば〝備蓄燃料の保険〟といえるシステムだ。 「企業の場合、被災時に経営者が災害本部長になるのがほとんどです。そうは言っても、平時に災害時のことばかり考えているわけにはいきません。だからこそ、もしもの時に適切な指示を出せるように、役立つBCPを策定し、年間行事に組み込んで従業員のリテラシーを高め、十分な備蓄を確保することが重要になってくるわけです。備えが万全であれば、おのずと日々の業務に専念でき、レジリエンスの高い企業として社外評価も高まります」
BCPチャージ®は、レジリエンス性や公共性、持続性や継続性などが評価され、22年に「ジャパン・レジリエンス・アワード」(強靭化大賞)の優秀賞を受賞し、翌年にも同賞を「ゼロからBCP・BCM(事業継続マネジメント)を構築・浸透させ、その実務ノウハウをオープン化するまで」で受賞している。同アワードは、内閣官房国土強靭化推進室のガイドラインに基づき、事業継続の取り組みを積極的に行う団体を認証する「レジリエンス認証」の普及と制度の運営に当たる、レジリエンスジャパン推進協議会が主催したもの。受賞後に事業は大きく進展し、24年には備蓄シェアリング事業関連の装置やシステム、管理体制で特許を取得。25年2月には神奈川県横浜市のみなとみらい地区で、BCPチャージ®の実証実験が実施されるなど、年内の一部地域での事業化に向けて動き出している。 「近年の若者の間では、企業の福利厚生とともに、レジリエンスも会社選びのチェック項目になりつつあります。弊社が目指すのは、大規模災害時にしなやかに立ち上がれる企業を増やし、レジリエンスの高い社会をつくっていくことです」
日本のどこで大規模な自然災害が起きても不思議ではない。備えあれば憂いなし。少しでも防災・BCPに関心を持ち、行動を起こして、会社の強靭化を図りたい。
会社データ
社 名 : 株式会社レジリエンスラボ
所在地 : 神奈川県横浜市中区桜木町1-101-1 クロスゲート7F
E-mail : info@resilab-jpn.com
代表者 : 沖山雅彦 代表取締役CEO
【横浜商工会議所】
※月刊石垣2025年9月号に掲載された記事です。
