江戸時代に徳川御三家の一つ「紀州藩」の城下町として栄えた和歌山市。自然と都市が共存するこのまちで、地域の持続可能な発展を目指すムーブメントが静かに広がっている。それが、和歌山商工会議所青年部(以下、和歌山YEG)が掲げる「ローカルファースト」の挑戦だ。2025年2~3月にかけて「LOVE和歌山 SPECIAL MONTH」と題したデジタルスタンプラリーを開催。その取り組みの裏側、込められた思いをインタビューした。
地元を知り、地元を愛す「ローカルファースト」の真意
「ローカルファースト」とは、単なる地域内消費促進ではない。 「このまちに住む私たち自身が、地域の価値を再発見し、誇りを持って暮らしていけるようにするための考え方。地元の魅力を知ること、それが地域経済の循環にもつながっていきます」
そう語るのは、2025年度和歌山YEG会長の鳥﨑寛司さん。和歌山YEGでは、この理念に基づき、地域密着型の実践を続けてきた。20年に実施した地元での買い物を推進するイベント「LOVE和歌山9Days」では、134店舗が参加し、約3000万円の経済効果を創出した。
この活動の原点には、2019年度から続く“「BUY LOCAL」=地元で買い物をしよう!”という事業がある。地元での購買を通じてお金を地域内で循環させ、雇用や再投資を生むという考え方だ。これには全国チェーン店などを排除するわけではなく、日常の選択の一部を地元店舗に向けるだけでも、地域経済や、まちの景観、個性は大きく変わるはずという思いがある。
デジタルとリアルの融合戦略で若者に届ける
さらに、今年2~3月に開催したデジタルスタンプラリー「LOVE和歌山 SPECIAL MONTH」では、115店舗が参加し、デジタルスタンプは2884件を記録。参加者は1500人を超え、その多くが「新しい地元の魅力を知った」と高評価だった。
デジタルスタンプを導入したのは、若者にこそローカルファーストの価値観を届けたいとの思いからだ。二次元コードを読み込んで参加するこのイベントは、スマートフォン世代にとって親しみやすく、気軽に地元のお店を巡るきっかけを与えた。
景品で関心を引くことはローカルファーストの趣旨に沿うのかという議論もあったが、「参加する動機が景品でも、結果的に地元に足を運ぶなら意味がある。むしろ、地域に愛着を持つ第一歩になる」と、担当者は前向きに捉えた。実際に、景品応募時に実施したアンケートでは「和歌山に引っ越してきたばかりだけれど、今回のイベントで多くのすてきなお店を知れた」という声が多数寄せられたという。また、参加した事業者からは「普段とは異なる層のお客さまが来店し、新たな交流が生まれた」との声も聞かれた。市民と店舗それぞれの立場を超えた“つながり”が確かに芽吹いている状況だ。
もちろん、本イベントの全てが順調に進んだわけではなく、特に参加店舗や市民への周知には苦労したという。 「知らないお店に足を運んでもらうには、まず“存在を知ってもらう”ことが大切。だからこそ、YEGメンバーのお店を拠点に、来店されたお客さま一人一人に直接声を掛けていきました」と話す鳥﨑さん。その地道な積み重ねこそが、多くの参加者につながったのだろう。
また、実施後のアンケート結果を基に課題の洗い出しと改善にも取り組んでいる。参加するためのハードル、来店頻度の設定、デジタルスタンプの仕組みなど、これら全ての課題が、次回への学びとして蓄積されている。活動は単発に終わらず、「地域の魅力を見つけ、伝え合うこと」を継続的かつ発展的な運動として根付かせていく姿勢が、和歌山YEGの強みでもあるのだ。
和歌山から全国へ 第一歩を踏み出す
こうした取り組みは、地域を越えて注目を集めつつある。NHKやテレビ和歌山、和歌山経済新聞などのメディアに取り上げられ、和歌山市の尾花正啓市長も「ローカルファースト」を市政のキーワードとして発信するまでに至った。
最近では神奈川県の茅ヶ崎商工会議所との連携が生まれ、今年10月には、和歌山YEGが茅ヶ崎商工会議所会員大会のパネルディスカッションに参加し、ローカルファーストについて議論する予定だ。“和歌山モデル”を全国へ発信する絶好の機会となるだろう。さらに和歌山YEGは、来年、創立20周年を迎える。記念冊子の発行、記念シンポジウムなども計画されており、地域の声を一層強く全国に届ける年となる。
和歌山の事例は、単なるイベントの成功にとどまらない。地域の課題に対し、青年経済人が真正面から向き合い、行動を通じて変化を生み出した一つの証しであり、他地域にとってもヒントと刺激に満ちているであろう。
地域の未来を切り開く 「ローカルファースト」の決意
最後に、鳥﨑会長はこう語った。 「ローカルファーストは、“選ばれるまち”になるための第一歩です。私たちがこのまちを好きになり、大切に思い、自ら選び続けること。それが結果として、地域を豊かにし、次の世代にもつながる。YEGの活動は、そのきっかけをつくる役割を担っていると考えています」
「地域を支え、地域に支えられる」―。「LOVE和歌山 SPECIAL MONTH」を通じて見えたのは、単なるまちのイベントにとどまらない、地域の未来を切り開く“意志”そのものだった。
【 和歌山YEG 】
会 長 : 鳥﨑 寛司
会員数 : 230人
創 立 : 2006年
スローガン :「夢に挑戦~勇ましく そして 大胆に~」
HP:http://wakayama-yeg.com/
編集後記
和田貴彬(奈良YEG)
今回の取材を通じて、商工業の振興から、さらに「ローカルファースト」の価値観を共有し、地域社会の全ての方々と豊かさを分かち合い、持続的な地域の発展に貢献する和歌山YEGのエネルギーに圧倒されました。「LOVE和歌山 SPECIAL MONTH」の参加者の心が豊かになって、地域の魅力が高まり、素晴らしい事業だと思いました。
私も、まちの役に立つ選択をするというローカルファーストの考え方を理解して、自分たちの住むまちに誇りや愛情を持ち、少しでも選択や行動を変えていきたいと思います。
取材:日本商工会議所青年部(日本YEG)広報委員会 石垣チーム/写真提供:和歌山商工会議所青年部

