アジアの風〜ビジネスの先を読む〜 政治の安定は成長の礎

クアラルンプール近郊の執務室で新聞社と単独会見する、マハティール元首相(2017年4月)

マレーシアで1957年の独立以来、初めての政権交代が起きた。それだけで驚きのニュースだが、万年与党を破った野党の新首相が1981年から2003年まで首相を務めた後、引退していた92歳のマハティール氏であったことがさらなる驚きを世界に与えた。

二重の驚きが起きた原因は、与党であった統一マレー国民組織(UMNO)を率いるナジブ前首相の腐敗問題である。ナジブ前首相が政府系金融機関「1MDB」から巨額の資金を引き出し、私的流用していたという疑惑で、日本では新聞やテレビではほとんど報じられていなかったが欧米のメディアは疑惑を追及していた。2016年にはスイスの司法当局がナジブ氏の送金に関与した銀行を刑事訴追し、米司法省も136ページにわたる報告書でナジブ首相の疑惑を指摘、不正資金で購入された米国内の資産を差し押さえるなどの段階にまで進んでいた。

ナジブ政権は国内での疑惑の追及を強引な手法で抑え込み乗り切ろうとしたが、マハティール氏の政界復帰で民主的な手法を使い、権力の座から引きずり降ろされた。アジアでは1960年代以降、経済発展を効率的に進めるためには強権的な手法も許されるという「開発独裁」の政権が台頭した。インドネシアのスハルト大統領、フィリピンのマルコス大統領、シンガポールのリー・クアンユー首相、韓国の朴正煕大統領はその典型だろう。だが、一定の成長を果たしたのち退場し「開発独裁」の時代は終わったかにみえた。ところが、過去10年、強権的な政権が再登場した。マレーシアのナジブ氏に加え、クーデターで政権に就いたタイのプラユット首相、中国の習近平国家主席はまさに典型で、フィリピンのドゥテルテ大統領にもその要素はある。途上国の段階を終えたか、終えつつある国での強権的政権の再登場は「開発後独裁」とも呼べる。

政治の混乱はビジネスにとって最悪の出来事であり、現地での生産、販売が停滞し、予想外の業績悪化に見舞われたり、場合によっては現地への投資が毀損(きそん)する恐れもある。大きなリスクを取ってアジア進出した中小企業にとってはなおさらだ。海外展開の進出先を人件費や土地コスト、市場としての魅力など経済要素だけで判断すると思わぬ落とし穴に落ちる。アジアでの有望投資先には意外なほど多くの政治リスクがあることをしっかり認識し、現地に足を運び、地元の人に話を聞き、地元メディアから情報を得て判断することが必要なのだ。

後藤 康浩(ごとう・やすひろ) 亜細亜大学 都市創造学部教授 早稲田大学政経学部卒、豪ボンド大学MBA取得。1984年日本経済新聞社入社、国際部、産業部のほかバーレーン、ロンドン、北京などに駐在。編集委員、論説委員、アジア部長などを歴任した。2016年4月から現職。アジアの産業、マクロ経済やモノづくり、エネルギー問題などが専門
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