トランプ第2期政権が予想通り、世界に向け、牙をむいている。日本およびアジアに影響するのは、まず「鉄鋼・アルミへの25%関税」と、米国と相手国の関税を同率に引き上げる「相互関税」の導入だ。
世界の鉄鋼生産(粗鋼ベース・2023年)の54%は中国が占め、2位にインド、3位に日本、6位に韓国、12位にベトナム、13位に台湾、14位にインドネシアなどアジア勢が上位に並び、世界のおよそ4分の3をアジアが生産している。米国の鉄鋼輸入先ではカナダ、ブラジル、メキシコがトップ3で51%を占め、アジア勢は合計で24%に過ぎないが、第5位のベトナムは生産量の7%超の鉄鋼を米国に輸出しており、関税による輸出減少の打撃は小さくない。トランプ関税を回避した中国、韓国、ベトナムの鉄鋼製品がアジア市場にあふれ、過剰供給となれば、日本もあおりを受けるのは確実だ。
相互関税がどこまで現実性を持つのか、世界貿易機関(WTO)加盟の際に各国が交渉して決めた関税率との矛盾をどうするのかという問題はあるが、それもトランプ大統領がWTO脱退を宣言してしまえば解消する。トランプ政権は既に世界保健機関(WHO)からの脱退を表明しており、米国のWTO脱退の可能性も十分にある。日本企業が米国市場で商品を売ろうとすれば、高関税を受け入れるか、米国に拠点を持ち、国内生産に切り替えるしかない。多くの日本企業はベトナム、タイなど東南アジアの低関税国への生産シフトを計画していたが、トランプ2・0はそれを追い越して先に行った。
トランプ大統領の対外政策の根幹は①広範な原則と二国間での例外と妥協②中国の産業競争力削減③ロシアの軍事力削減|にある。その意味で、対中、対ロのけん制カードとなるインドを特別扱いし、相互関税などの対象から外す可能性がある。日本もEU諸国も米国の同盟国だが、相互関税を課しても同盟関係が崩れる懸念はなく、妥協が必要な相手には見られていない。日本製鉄のUSスチール買収についての対応はそれをよく示している。
日本の中小企業にとって全く先の見えない五里霧中の状況だ。こういう環境では手探りしながらゆっくり進むしかない。インドに大きな可能性があるとしても、当面、大きな意思決定は遅らせ、「トランプ2・0世界」の様子が見えるまで待つしかない。グローバル市場の見通しが良い時には「選択と集中」が意思決定の規範となったが、先を見通せない深い霧の中では「探索と分散」こそ意識すべきだ。