カンボジアと聞けば、1970年代後半に起きたポルポト政権による170万人ともいわれる自国民の虐殺を思い起こす人も多いだろう。内戦終結後、陸上自衛隊の国連平和維持活動(PKO)への初参加、文民として派遣された岡山県警の高田晴行警部補(後に警視に昇進)の殉職など、戦後日本の国際貢献活動の転機にもなった地である。人口約1750万人と東南アジアでは小ぶりな国であり、タイとベトナムという地域大国に挟まれ、歴史的にも圧迫を受けてきた。近年は「一帯一路」に位置づける中国の投資ラッシュで、中国の影も濃くなった。
そうした新旧のイメージを持って、3月にカンボジアを十数年ぶりに訪問した。現実は大きく異なっていた。まず驚いたのはプノンペン中心部に高層ビルが林立し、街路などの整備も進んでいたことだ。確かに漢字の表示も多く、中国の影響を感じるが、夜の繁華街の空気はむしろバンコクに近い。コンビニの商品もタイ製が優勢に見えた。
日本企業のカンボジア投資の先駆けとなったイオンは、プノンペン市内に3店舗のモールを出店している。第1号店を土曜日の午後に訪問した。バンコクやハノイなどのショッピングセンターの雰囲気と変わらず、商品は生鮮食品も含め、隣国や日韓豪からの輸入品が中心。値段はカンボジアの庶民の購買力を大きく超えているのは確かだが、かなりのにぎわいで、アッパーミドル以上の所得層の増加を明確に示している。
ロイヤルグループの経営するプノンペン経済特区(SEZ)は東南アジアの標準的なSEZで、豊田通商、ミドリ安全グループなど日本企業44社が既に進出あるいは土地を契約済み。トヨタの商用車「ハイラックス」とSUVの「フォーチュナー」を年間1400台組み立てる豊田通商の拠点を見学したが、コンテナで搬入されたセットパーツの荷ほどきから在庫管理、ライン投入、組み立て、検査まで見事に整流化されており、ワーカーの資質の高さがうかがえた。
トランプ政権の関税政策、対中封じ込め戦略で日本企業はアジアの生産拠点の再配置を迫られ、ベトナム、タイ、インドなどに殺到している。カンボジアは労働力不足とインフラ未整備により注目度は高くないが、ベトナム、タイの拠点、部品メーカーとの高速道路、メコン川水運、シアヌークビル港を使った連携を考慮すれば、サプライチェーン上でユニークな力を発揮する可能性がある。日本の中小企業にとって有望な国と感じた。