運動会などで活躍した拡声器、子どものおもちゃ、マッチや畳など、一時は暮らしや娯楽に欠かせなかった商品を扱う企業も、今や廃業の危機……。いやいや、培ってきた技術と時代に合わせた発想で“レトロ商品”をアップグレードして、新たな販路を切り開くことは可能だろう。老舗の誇りを賭けたものづくり企業の生き残り戦略に注目だ。
拡声器の「ノスタルジー」が武器 専門メーカーが挑むBtoC市場
大阪府枚方市(ひらかたし)にあるノボル電機は、防災行政無線(Jアラート)や選挙の街頭宣伝車、船舶用スピーカーなど、業務用拡声音響装置の専門メーカーである。創業から80年の歴史を持つ同社は、2020年に新ブランドを立ち上げ、BtoC商品の開発に乗り出した。拡声器をもとにしたノスタルジックなデザインと音が話題となっている。同社のBtoC市場への参入には、意外な波及効果があった。
消費者向け市場への挑戦と社内の冷ややかな視線
ノボル電機は、1945年創業で、長年、防災行政無線や船舶用スピーカーなど、業務用拡声器を中心とした製品づくりを行い、堅実な経営を貫いてきた。
しかし、2011年の東日本大震災後の特需が落ち着くと、防災設備の普及が一巡し、自社ブランドの売り上げが減少に転じた。
「当社は、日本全体がどんなに不景気でも、拡声器を水平展開した商品ラインナップで、緩やかに右肩上がりを続けてきました。だから、これはどうしたことかと危機感を抱きました」と三代目社長の猪奥元基(いおくもとき)さんは振り返る。19年、猪奥さんは先代と共に経営資源の棚卸しを行い、80年間未踏だった「BtoC(一般消費者向け)」市場への進出を決意した。
20年、猪奥さんは新ブランド「ノボル電機製作所」を立ち上げた。BtoC進出の足掛かりとなったのは、同年に採択された「大阪商品計画」である。これは大阪府内の中小企業に対し、専門家がブランドコンセプトの見直しから販路開拓まで、伴走支援する大阪産業局のプロジェクトだ。
猪奥さんと先代は、新商品のアイデアを出し合い、「スマホ用無電源スピーカー」を新ブランドの第一弾として具現化することになった。
電気を使わず、拡声器の原理で音を増幅させる「無電源スピーカー」は、拡声器をもとにしたデザインと、ノスタルジックな音が特徴だ。21年、東京のギフトショーで、この商品を発表したところ、来場したバイヤーらの反応が良かった。そこでクラウドファンディングに挑戦し、150万円以上の支援を集めた。また、この商品は優れた技術に裏打ちされているとして、府知事による「大阪製ブランド」の認定も受けた。
しかし、社内の反応は冷ややかだった。同社は、全国の官公庁や大企業を顧客とする、保守的な社風である。一般消費者向けの商品開発は理解されにくく、無電源スピーカーについても、社員から冷笑された。それでも猪奥さんは「大阪製ブランド」というお墨付きを盾に突き進んだ。
