米中対立は激化と緩和を繰り返し、長期化の様相を深めている。歴史を振り返れば大国間の対立には争点となる象徴的な商品がある。かつては石油や小麦だったが、米中対立では半導体と大豆、レアアースが象徴となった。トランプ政権は先端半導体とその製造技術を中国封じ込めの切り札とし、中国側はレアアース輸出と大豆輸入で米国を揺さぶっている。
大豆は、かつては日本が世界最大の輸入国だった。1973年には米ニクソン政権が日本への大豆輸出を停止して、大混乱が起きた。今は、中国が年間1億t前後の大豆を輸入する最大の輸入国である。対中輸出では長年、米国とブラジルが競り合っていたが、トランプ第1次政権以降、中国は大豆の「脱米国」を進め、昨年は輸入の75%がブラジル産となった。トランプ政権は昨年10月、中国に2500万tの大豆輸入を認めさせたが、米国は中国需要の多くを失い、大豆農家は経営危機に直面している。
そこでトランプ政権が目を付けたのが、東南アジア向け輸出。関税交渉でも米国産農産物の輸入拡大が取引材料となった。昨年はタイが420万t、ベトナムが280万t、インドネシアが275万tの大豆を主に米国から輸入、ベトナムの大豆輸入は2010年に比べ3倍以上に膨れ上がった。
大豆は日本人には豆腐やしょうゆ、みその材料の印象が強いが、世界では搾油し、搾りかすを家畜飼料や肥料にするのが一般的だ。タイをはじめとして、東南アジアでは鶏の飼料として需要が伸びている。昨年の鶏肉生産量は、タイが10年比75・9%増の359万t、ベトナムが同3倍の140万t、インドネシアも3倍近い伸びで275万tに達した。途上国では経済水準の上昇とともに食肉消費量が伸びるが、東南アジアでは低価格で、イスラム教などの宗教規範にも適合している鶏肉の需要が急増。大豆を売り込みたい米国にとって、魅力的な新市場となっている。
重要なのは、東南アジア11カ国の総人口がすでに中国の半分の7億人を突破、中国を追うように巨大市場に変貌しつつあることだ。インドネシア、マレーシア、フィリピンなど中国に比べ圧倒的に若年層の人口比率が高く、人口自体も急増している国がある。「中国市場を失ったら生き残れない」という時代から「東南アジアに軸足を移して、今後の成長を捉える」戦略が十分成り立つ時代に入ったのである。

