不動産不況、雇用悪化など低迷する中国経済の中で、部分的に急成長し、明るさを示す分野がある。自動車のBEV、PHVなど「電動経済」、ドローンを使って低高度空域でビジネスを開発する「低空経済」、高齢者向けの商品やサービス、介護といった「銀髪経済」などである。中国経済全体を持ち上げるほどの力はないにせよ、特定分野が伸びることで活気を維持する「セグメント型成長」に中国経済は移行しつつある。
2024年の中国の自動車販売台数は過去最大の3143万台となったものの、前年比では4・5%増と勢いはない。だが、EVとPHVを合わせた電力を駆動力とする車は35・5%増の1286万台と好調で、自動車販売全体の40・9%を占めるまでになった。伸び悩む自動車産業を「電動経済」がけん引する姿がはっきりし始めた。
中国政府は16年に「一人っ子政策」を廃止したが、出生率は上がらず、むしろ少子高齢化が加速している。紙おむつ市場で幼児用を高齢者用やペット用が上回る、いわば「幼老逆転」「人獣逆転」が近づきつつある。逆に考えれば、高齢者やその予備軍の銀髪世代の市場は急拡大しつつある。この銀髪世代は中国が豊かになって消費の楽しみを知った世代のため、高付加価値商品への関心が高い。
世界の商用ドローン市場で70%のシェアを握るDJIなど、中国は世界のドローン市場をけん引しているが、ハードだけではなく用途開発も急展開している。当初の空撮用から物流の“ラストワンマイル”対応、人的輸送を担う「空飛ぶタクシー」、上空からの監視やインフラの保守・点検・修理、さらに農薬・肥料の散布、種まきなど農業利用も拡大している。こうした高度1000m以下の空域をビジネスに活用することを中国では「低空経済」と呼び、さまざまな業種の企業が参入を始めている。
中国経済は、輸出型製造業が担った「世界の工場」モデルが壁にぶつかり、インフラ建設や不動産開発による「内需刺激」も財政赤字やバブル崩壊で限界に達した。24年のGDP伸び率は5・0%と発表されたが、高度成長期は終焉(しゅうえん)し、年率2~3%に向け低下が続いていくだろう。とすれば、日本の中小企業が狙うべきは中国全体でも、特定地域でもなく、高成長する特定セグメントであり、その姿ははっきり見え始めている。「電動」「銀髪」「低空」のキーワードに加え、やや広すぎるが環境配慮型の「緑色経済」、物流高度化・資源開発・レジャーなどの「海洋経済」も視野に入れておくべきだ。