アジアの風〜ビジネスの先を読む〜 広がる『グローサラント』

盒馬鮮生の競争力の一つとなっているグローサラント(上海で)

自宅で調理するのではなく、総菜をレストランや屋台で買って持ち帰り、家族で食卓を囲む「中食」文化はアジア、とりわけタイやベトナムなどの東南アジアでは根付いた食文化といえる。その延長線上で、肉・魚や野菜を売る店がその場で、客の買った生鮮品を調理して質の高い食事を提供してくれるサービスも珍しくはない。そうした生鮮品の販売・調理サービスは最近「グローサラント」と呼ばれるようになった。

野菜や食肉など生鮮品を販売する「グローサリー」と「レストラン」を複合した造語である。

日本では高級食品スーパーの「成城石井」やデパートなどが実験店舗を展開し始めている。だが、最もホットな試みは中国で進んでいる。この連載でもたびたびご紹介しているアリババが展開する生鮮食品スーパー、「盒馬鮮生(フーマーシエンション)や中国のEコマース2番手の京東(ジンドン)系の「7Fresh」などが店内にフードコートを設け、購入したばかりの生鮮品を調理するサービスを提供しており、集客の目玉にもなりつつある。日本なら、せっかく買った高価な素材は自宅で丁寧に、家族好みの料理にしたい気持ちが働くが、同時に「おいしそうなものはすぐ食べたい」「家で調理するのは片付けも含めて面倒くさい」という心理も働いてしまう。

中国で広がる「グローサラント」は一見、生鮮食品の販促のための有償サービスのようにみえるが、少し掘り下げてみると、生鮮食品の「後工程」を生鮮スーパーが握ることで、顧客を巧みに誘導していることがわかる。

「この牛肉と野菜を使うとこんな料理ができます」という提案は、裏を返せば「この牛肉と野菜を売り切ってしまいたい」というスーパー側の意図でもあるからだ。その場で調理してもらわない顧客も湯気が上がり、おいしそうな香りを振りまく料理を横目でみれば、影響される。

アリババや京東は野菜や食肉を農家に委託生産しているほか、AI(人工知能)で肥育管理する養豚場、養鶏場や植物工場の展開にも乗り出している。自社で計画的に生産した生鮮食品をタイミングよく販売する、垂直一貫型の生鮮流通モデルを指向しているのは間違いない。アジアの伝統の「グローサラント」は、中国で新たなステージに入っている。その波は近代的な食品スーパーと西洋風料理が庶民レベルにまで入り込み始めた東南アジア、インドにも確実に広がるだろう。

後藤 康浩(ごとう・やすひろ) 亜細亜大学 都市創造学部教授 早稲田大学政経学部卒、豪ボンド大学MBA取得。1984年日本経済新聞社入社、国際部、産業部のほかバーレーン、ロンドン、北京などに駐在。編集委員、論説委員、アジア部長などを歴任した。2016年4月から現職。アジアの産業、マクロ経済やモノづくり、エネルギー問題などが専門
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