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アジアの風〜ビジネスの先を読む〜 農業と生鮮流通のデジタル化に、日本企業のチャンスあり

広州市内にオープンしたテンセントの生鮮食品スーパー「超級物種」の店内

この連載の昨年12月号で、中国の小売り業界で起きているイノベーションをご紹介した。それからまだ4カ月もたっていないが、中国ではさらに進化が起きている。まず、アリババの生鮮食品スーパー、「盒馬鮮生(フーマーシエンション)」を追うように、中国のEコマース2番手の京東(ジンドン=JD.com)が「7Fresh」という生鮮食品専門のスーパーの1号店を北京に開店。さらに中国最大のSNS、微信(ウェイシン=Wechat)を運営するテンセントが「超級物種(チャオジーウージョン)」を今年1月、杭州(浙江省)に開店、本拠の広東省で多店舗展開を開始した。

中国のネットビジネスの強者がそろって生鮮食品の小売りに進出したのには幾つか理由がある。第1は、家電、日用品、衣料品などのネット販売では過当競争で、利益が出せなくなっている。生鮮食品の流通は調達や鮮度管理にノウハウと設備投資が必要で、参入障壁が高く、高収益分野にできる可能性がある。第2に、消費者との直接的な接点だ。Eコマースでは顧客に関する膨大な情報は得られても、生の声を現場で聞く機会はない。生鮮食品スーパーは店内で来店客の動きをカメラで追っており、ある商品を買いかけたが、別の商品に変えたなどのプロセスを把握できる。第3に、農業分野はドローンや自動運転農機からLEDを使った植物工場、養豚、養鶏への人工知能(AI)活用、施肥と水分などの土壌管理までデジタル化が急速に進んでいる。アリババ、テンセントなど研究開発力のあるIT企業の得意分野に近づいている。

日本のメディアでもアリババ、京東などの店舗が紹介され話題になっているが、どうしてもRFIDタグで商品を認識し自動決済する「無人レジ」やそれぞれの野菜や食肉の産地をその場で表示する「スマートミラー」、買い物客がスマホで買い物用カートに登録すると店内でその客を自動追尾して運ぶ「自動カート」など表層的なものに目を奪われ、本質を理解できていないものばかりだ。農業と生鮮流通のデジタル化という大きな流れが中国で始まったことを理解する必要がある。

そこに日本企業がどう入るか。

一つのチャンスはやはり日本の生鮮食品の品質、安全性とそれで築かれたブランド力にある。それに応えるには、中国市場向けの改良やトレーサビリティーの確立が必要だ。こうしたチャンスは物流やパッケージ、調味料など周辺にも広がるのは間違いない。

※食品の安全を確保するための「追跡可能性」または「生産履歴追跡」

後藤 康浩(ごとう・やすひろ) 亜細亜大学 都市創造学部教授 早稲田大学政経学部卒、豪ボンド大学MBA取得。1984年日本経済新聞社入社、国際部、産業部のほかバーレーン、ロンドン、北京などに駐在。編集委員、論説委員、アジア部長などを歴任した。2016年4月から現職。アジアの産業、マクロ経済やモノづくり、エネルギー問題などが専門

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