いわゆる3K労働とは、「きつい・汚い・危険」の頭⽂字を取った⾔葉で、建設業界周辺で言われてきた。しかし近年、社内環境の整備やDX導⼊といったイノベーションに挑み、「給与・休暇・希望」を備えた“3K企業”に変貌し、人材確保や業績アップにつなげている企業もある。このような企業の考え方や手法は、他業界にも通じる部分があるのではないか。
農業をサイエンスでマニュアル化 労働時間は削減、収量はアップ
熊本県益城町(ましきまち)に本社を置く果実堂は、主にベビーリーフの大規模生産と販売、そしてそのノウハウを生かした農業技術コンサルティングを行っている。「休める農業・稼げる農業」の実現を目指し、2019年からは特にIoTやRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を活用した業務の効率化を加速させてきた。その革新的な取り組みは、日本DX大賞2024のSX(サステナビリティトランスフォーメーション)部門で大賞に選ばれるなど、農業界全体の変革をけん引する存在として注目を集めている。
異色の人材が進めた「農業DX」の体系化
果実堂は、創業者の井出剛さんが2005年に設立した農業ベンチャーで、当時は「3Kの会社」という側面もあった。そこで10年頃より、建築士から農業へ転身した異色の経歴を持つ農業コンサルタント、高瀬貴文さんが同社の立て直しに携わるようになった。11年に同社へ入社した高瀬さんは、建築学の知見と、土壌を握るだけで水分量を判断できる「触診」の技術を駆使して、水管理を科学的に分析した。さらに、土壌分析による栄養価の可視化を行い、無駄な肥料を減らすなど、栽培方法の「マニュアル化」に挑んだ。 「当初、現場からは『農業は天候に左右されるからマニュアル化はできない』という反対もありました。でも、建築も天候に左右されますが、マニュアルがあります。農業もできないはずがないと考えていました」と語る高瀬さん。反対されても続けるうちに、「作業が楽になった」「収量が上がった」という声が聞かれ、従業員の信頼を得ていった。
高瀬さんが重要視するのは、土壌や植物を理解する「サイエンス」、人材育成やマニュアル化を行う「オペレーション」、そしてセンサーやIoTなどの「テクノロジー」という順番である。サイエンスやオペレーションという「アナログの部分」を整備した上でテクノロジーを投入することで、初めて相乗効果が生まれ、生産性向上につながるという考え方である。
19年、高瀬さんは同社の社長に就任し、同年からIoTやRPAを活用した業務の効率化を加速させた。
