子供服や子供用品を手掛ける神戸のアパレルメーカーは3世代にわたるファンが多い。神戸で単身赴任中に「母に買ってもらった物を娘にも買い与えたい」と熱心に話す女性の言葉を聞き「消費者から長く信頼を得ることが企業にとって重要だ」と強く感じた記憶がある。顧客生涯価値(LTV)という経営指標がある。「平均購買単価」「購買頻度」「継続年数」を要素とし、各要素の改善を通じて、LTVを高めることが企業の中長期的な成長を支えるとされる。このアパレルメーカーはその流れに沿った経営をしているといえよう▼
しかし、消費者の好みが多様化する時代に、長年にわたり「ごひいき」でいてくれるとは限らない。まして企業同士の取引や融資をする金融機関との関係は、先方の判断で大きく変化する可能性がある。「先代からの親しい仲じゃないですか」と訴えても、それだけでは関係維持に向けた説得材料にならない▼
大企業だけでなく、中小企業であっても「中長期的な戦略」が必要だと指摘するのは一橋大学大学院の鈴木智子教授。きちんとした戦略を持つことで、取引先企業や金融機関との関係強化ができるのではないか。「温情」「しがらみ」に頼っていては、そうはいかない▼
転職が当たり前になっている今、ワークライフバランスの改善や休暇の取りやすさだけで、従業員を確保し続けるのも容易でなくなりつつある。従業員に対しても取引先に対しても、その事業は何のために行っているのか、「目的」を明確化することが欠かせない。鈴木教授は、従業員、顧客から「選ばれる存在になること」こそ、大事なポイントだと指摘している。経営者は肝に銘じるべきだろう
(時事総合研究所客員研究員・中村恒夫)