今年も日本人研究者がノーベル生理学・医学賞と、化学賞を受賞し、日本が科学においてグローバル競争力を維持しているという自信を与えてくれた。日本人受賞者が唯一出ていない経済学賞は今年、米ノースウエスタン大のジョエル・モキイア氏ら米仏の3人に贈られた。受賞理由は「新技術が持続的経済成長を起こすメカニズムの解明」だった。国家を想定した研究だが、企業にも参考になる点はある。
モキイア氏は、イノベーションには「命題的知識」と「処方的知識」の異なる2種類の知識が必要と主張する。命題的とは自然界の法則やその背景にある原理の発見を意味し、処方的とはそれを利用し、実用化する手法、レシピなどを指す。大学や研究所が命題的知識を生み、企業や個人が処方的知識を考案し、新技術が日の目を見る。
日本のノーベル賞受賞者は大学だけでなく、ソニーの江崎玲於奈氏(1973年物理学賞)、島津製作所の田中耕一氏(2002年化学賞)、旭化成の吉野彰氏(19年化学賞)ら企業で研究に携わった人が目立つ。企業努力による処方的知識の創造が世界を大きく変え、人類への大きな貢献となることを示している。
残念ながら、自然科学の分野でアジアのノーベル賞受賞者は限られる。日本が27人(米国籍取得含む)と圧倒的だ。インドは、インド国籍は1人だが、インド系米国人を含めれば5人。中国は、中華人民共和国籍は1人だが、米国籍の華人などを含めれば5人だ。やはり米国の285人、英国の82人、ドイツの69人などに比べ少ない。
ただ注目すべきは、企業、研究機関が出願する国際特許の件数では19年以降中国が圧倒的なトップで、2位米国を挟んで3位日本、4位韓国が定位置になっていることだ。インドも6位に入っており、昨年の出願件数の伸びは前年比19・1%増とトップクラス。処方的知識におけるアジアの貢献の大きさを示している。それはTSMC、UMC、サムスン電子など半導体の実製造におけるアジア企業のシェアの高さを見れば納得できる。
個別企業では14年以降、中国のファーウェイによる国際特許出願件数の世界一が続いている。同社の昨年の研究開発投資は約4兆円で、売上高の20・8%。同社が米中対立に翻弄されながらも成長軌道から外れない要因である。
中小製造業の置かれた環境は厳しいが、独自技術の開発は続けなければならない。幸運に恵まれた一時的な成長ではなく、持続的成長の王道は「人の役に立つ技術やノウハウ」の開発にしかないからだ。

