Q 弊社の採用担当者が、就活生に「和やかな雰囲気で話を聞きたい」と述べ飲酒を伴う食事に誘い、セクハラ行為に及んだと苦情がありました。弊社は職場外での面接は指示しておらず、担当者の勝手な行動となりますが、個人的な行為についても弊社は法的責任を負うのでしょうか。
A 事業主の使用者責任は、実際に職務の範囲かどうかではなく、外形から職務の範囲に見えるかで判断がされるため、採用活動という企業に必要な活動に付随し担当者がセクハラを行った場合、事業主も損害賠償責任を負う恐れがあります。2025年6月の法改正により、事業主には就活セクハラの防止措置が義務付けられ、採用選考に関して行動規範を創設する、就活セクハラの防止研修を行うなどの対策が求められます。
就活セクハラの定義は、通常のセクハラと基本的に同様であり、「就職活動に関連して、求職者など(インターンシップを含みます)の意に反する性的な言動が行われ、これに対する求職者などの反応により利益・不利益が生じることや、当該言動により求職者などの環境が害されること」をいいます。具体的には、性的な冗談やからかい、食事やデートへの執拗(しつよう)な誘いなどが該当します。
セクハラ発生時の使用者責任
採用面接の中で就活セクハラが発生した場合、業務中にセクハラがなされたこととなるため、民法上の使用者責任(民法715条)を負う事業主は、セクハラの内容によって面接官と共に損害賠償の責任を負います。
問題は、採用面接や社内でのインターンシップを外れて、社外で個人的に食事の機会などが持たれた場合です。使用者責任は、実際に職務の範囲かどうかではなく、外形から職務の範囲に見えるかどうかによって判断されます。そのため、業務外で採用担当者が勝手に行った個人的な違法行為である場合でも、事業主は使用者責任を問われ、損害賠償請求などが生じる可能性があります。例えば採用担当者が、追加で話を聞きたいと偽って求職者などに食事の誘いをした場合、社内での面接とは別の場で二次的な面接を行うことはあり得る上、就活生などは採用担当者の心証を害さないために応じざるを得ない可能性が高いので、外形的には、採用面接の延長として事業または職務の範囲内の行為(少なくともそれに密接に関連する行為)とされ、事業主も使用者責任を負う恐れが高いといえます。
就活セクハラ防止対策の義務化
2025年6月に改正された男女雇用機会均等法では、就活セクハラを防止するために必要な労務管理上の措置を取ることを事業主に対し義務付ける規定が新設されました(26年12月までに施行予定)。事業主が取るべき措置は、今後、厚生労働大臣が定める指針によって具体的に示されますが、以下のような具体例が想定されます。
①組織的対応方針の策定:全従業員に対し就活セクハラの禁止および処分方針を周知徹底する。特に採用担当者に対しては、個別の行動規範やマニュアルを作成して順守させるとともに、権限乱用を防ぐため、客観的な選考基準を整備・表明し公正な採用体制を構築する。
②求職者などの情報の適切な管理:採用担当者による悪用を防ぐため、求職者などの連絡先は選考に要する情報とは別管理とし、採用担当者に開示する情報の範囲を制限する。
③相談対応窓口の設置:就活セクハラについて組織的に対応していることを求職者などに示し、就活セクハラから求職者などを守る。
なお、当然のことながら、就活セクハラの相談に協力した従業員に対し、事業主が不利益な取り扱いをすることは禁止されています。
企業としては、就活セクハラを防止する観点だけでなく、優秀な人材を確保する観点、自社の損害賠償リスクやレピュテーションリスク(企業の評判を落とす恐れ)を防ぐ観点から、早急に防止措置に取り組む必要があるといえるでしょう。防止措置の整備に当たっては、厚生労働省が公表している「就活ハラスメント防止対策企業事例集」も参考になります。
(弁護士・増澤 雄太)
