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アジアの風〜ビジネスの先を読む〜 感染症とアジア

ベトナムでも新型肺炎を警戒して、マスク姿の人が目立つ(2月13日ホーチミン市内で)

中国・武漢に始まったコロナウイルスによる新型肺炎が、アジア全体を覆っている。2003年のSARSを上回る感染者・死者を出しただけでなく、世界経済への打撃もSARSをはるかに上回る。鳥インフルエンザや豚コレラも含めれば、アジアは感染症が日常的に生活や経済を揺さぶる時代に入った。SARSのときにはまだ、アジア、特に中国が世界に供給する製品・部品は労働集約型が大半で、生産がまひしても世界経済に与える打撃は限定的だった。だが今、アジアが一手に世界に供給するのはパソコン、スマホ、5G基地局設備、電子部品など高度かつ先端的な商品で、デジタル化が進む世界経済への影響は極めて大きい。

新型肺炎の最中、ベトナム・ホーチミンに出張してやや驚いたのは空港の職員からホテルの従業員、通りを歩く人々まで大半の人が使い捨ての不織布のマスクを着けていたことだ。東南アジアでは、車の排気ガス対策でバイクに乗る人たちが布製マスクをするのは当たり前だったが、まち行く人たちが使い捨てマスクを着ける姿はアジアの新しい様相でもある。今回、中国からの旅客の入国制限をする国も多い。医療設備が未整備で、感染症が広がれば手の打ちようがないと自覚する国は、差別批判や外交関係の悪化を恐れず、自衛的に入国制限に踏み切った。アジアの国と国の関係も、感染症によって揺さぶられている。

一方、日本企業にとって感染症はアジア各国での生産、販売への打撃になるだけでなく、社員の安全確保が深刻な課題になっている。感染地域から社員やその帯同家族をどのタイミングで帰国させるか、誰を現地に残すのか、という伝統的な海外リスクから、現地社員との公平性という21世紀的な課題が浮上しているからだ。現地社員が平常通り勤務し、業務を続ける中で、日本人社員だけが帰国していいのか。日本企業がこの数年追求する「根を張った現地化」との整合性を考えれば、日本人社員の撤退は一段と悩ましい問題だ。

感染対策で武漢市が封鎖される前の1カ月間に500万人の市民が市外に脱出し、うち2万人近くが来日したといわれる。それが個人の自衛策として広く理解されるならば、日本企業の現地社員が日本に脱出したいと要求したとき、企業はどう対応するのか。現地の人と結婚した日本人社員と家族への対応を含め、日本企業には原則を持つときが来ている。

アジアは感染症と戦いながら、新しいアジアの一体性を構築しようとしている。

後藤 康浩(ごとう・やすひろ) 亜細亜大学 都市創造学部教授 早稲田大学政経学部卒、豪ボンド大学MBA取得。1984年日本経済新聞社入社、国際部、産業部のほかバーレーン、ロンドン、北京などに駐在。編集委員、論説委員、アジア部長などを歴任した。2016年4月から現職。アジアの産業、マクロ経済やモノづくり、エネルギー問題などが専門

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