アジアの風〜ビジネスの先を読む〜 アジアのウイスキーブームが示すもの

本場スコッチを超える評価 台北市内の酒屋で販売されている「KAVALAN(カヴァラン)ウイスキー」 写真提供:共同通信社

一国の経済水準や社会の成熟化度合いを測るために、その国で愛好されるアルコール飲料の種類に着目する方法がある。途上国が高度成長期に入ったとき、需要が真っ先に伸びるのはビールである。日本も1950年代後半から70年代にかけて、ビール全盛期を迎えた。中国は度数の高い「白酒」や日本でもおなじみの「紹興酒」など中国独自の酒が豊富な国だが、90年代後半からビール消費が庶民の間で盛り上がり、2003年に米国を抜いて世界トップのビール消費国になった。その後もトップの座を守ってはいるが、この数年はマイナス傾向にある。17年は前年比マイナス3・9%、18年はマイナス2・0%と落ち込んでいる。

ビール消費が減退したのは、明らかにアルコールに対する嗜好(しこう)の変化といえる。最近、上海や深圳で目に付くのはウイスキーブームである。しかも、「アイラ島」や「ハイランド」など通なスコッチのシングルモルトを並べた店のカウンターで、ストレートで味わう中国人客を見ると隔世の感がある。90年代に中国人が飲む洋酒はブランデーで、ウイスキーは人気がなかった。シングルモルトを好む大人の増加は、中国社会の成熟を映し出しているのだろう。

ウイスキーブームは台湾、タイ、インドなどにも広がっている。注目のブランドは台湾のシングルモルト「KAVALAN(カヴァラン)」。台湾北東部の宜蘭県で生産され、原料は輸入に頼るものの、すべての工程を国内で完結しており、08年に最初のボトルを発売した新しい蒸留所である。スコットランドや日本では、寒冷地が主産地のウイスキーを台湾でつくると、気温が高いため寒冷地の2倍の速度で熟成し、「熱帯の果実」とも評される独特の香りになるという。

インドはあまりアルコールのイメージがない国だが、ウイスキー消費量は圧倒的に世界トップで、バーボン大国・米国の3倍以上を消費している。英国植民地時代に根付いた文化で英国からの輸入が多いが、最近は「アムルット」などインドの国産ウイスキーが品質を高め、消費が伸びている。

アジアには高成長の中で嗜好の多様性が生まれ、アルコールを文化として嗜(たしな)む傾向が生まれている。今、日本産のウイスキーの評価が世界的に高まり、20年超の熟成ものは驚愕(きょうがく)の値付けになっているのも、アジアにおけるウイスキーブームが背景にあるのだろう。ウイスキーが飲まれるようになった国では、経済成長のステージ転換、それに伴った売れ筋商品の変化が起こることを意識すべきだ。

後藤 康浩(ごとう・やすひろ) 亜細亜大学 都市創造学部教授 早稲田大学政経学部卒、豪ボンド大学MBA取得。1984年日本経済新聞社入社、国際部、産業部のほかバーレーン、ロンドン、北京などに駐在。編集委員、論説委員、アジア部長などを歴任した。2016年4月から現職。アジアの産業、マクロ経済やモノづくり、エネルギー問題などが専門
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