アジアの風〜ビジネスの先を読む〜 アジアの教育熱はどこに向かうのか

バンコク郊外の高速道路沿いにある英国名門パブリックスクールの広告

タイ・バンコクの中心部とスワンナプーム国際空港を結ぶ高速道路沿いには、巨大な屋外広告が立ち並んでいる。商品広告は企業や国の勢い、技術の方向性などを映し出し、眺めているだけでアジアの変化を読むことができる。その中で最近気になった広告は、英国のパブリックスクール、すなわち名門私立高校の一つ「ラグビー校」のものだ。その名の通り、ラグビー発祥の高校といわれ、「イートン校」と並び英国の政財官界に多くの人材を輩出している名門校だ。

その広告のキャッチコピーは“REAL EDUCATION NEEDS REAL SPACE”。英国のラグビー校への学生誘致ではなく、2017年に開設されたタイ分校の学生募集広告だからだ。バンコクでも英国と変わらないパブリックスクール教育が受けられるのが売りである。東南アジア各国の首都では豪州やシンガポールの経営大学院(MBA)や大学の広告は頻繁に見かけるが、英国のパブリックスクールまで広告を打つようになったのは意外だった。タイの超富裕層は子弟を英国の本校に留学させるだろうが、アッパーミドル層でも英国のパブリックスクール教育を受けさせたいという意欲が高まっていることが、同校のタイ分校開設の背景にあるのだろう。

つい数年前まで、教育内容の高さとともに人脈を広げられることが、アジア全体で米欧の有名大学・大学院に留学するメリットで、米国の大学院への留学者数は中国、インド、韓国がトップ3だった。それとは別に、ブランド志向だけではなく、リーダー育成を目的とした人格陶冶(とうや)や情操教育を根幹に置くパブリックスクール教育への関心がタイで高まっているとすれば、大きな変化といえる。アジアの、とりわけ儒教文化圏といわれる中国、日本、韓国、ベトナムなどは教育に熱心で、タイの華僑もその流れにあるが、儒教文化圏の教育熱は創造性、独創性よりも暗記詰め込み重視で、大学ブランドによる高学歴志向でもある。

戦後の日本に始まり、韓国、中国と続いたアジアの「奇跡の成長」の連鎖は、そうした画一教育で育てた人材が先行国家の背中を追ってがむしゃらに働くことで達成できた面がある。東南アジアでは、まだ詰め込み型画一教育を必要とする国も多いが、中進国レベルに達するにつれ、変化が求められている。創造性を高める教育が「中進国のわな」を突破する鍵になるかもしれないからだ。ちなみに、同校は22年に日本分校も開設する予定だ。

後藤 康浩(ごとう・やすひろ) 亜細亜大学 都市創造学部教授 早稲田大学政経学部卒、豪ボンド大学MBA取得。1984年日本経済新聞社入社、国際部、産業部のほかバーレーン、ロンドン、北京などに駐在。編集委員、論説委員、アジア部長などを歴任した。2016年4月から現職。アジアの産業、マクロ経済やモノづくり、エネルギー問題などが専門

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