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アジアの風〜ビジネスの先を読む〜 アジアと新たなモビリティー

中国はじめアジア諸国では電動自転車が急増している(上海の繁華街)

上海や北京など中国の大都市を歩いていると、電動自転車が音もなく近づいてきて間近を走り去ったり、横道から突然飛び出してきて、ぶつかりそうになったりして、ヒヤリとすることが頻繁にある。電動自転車は、中国では年間3000万台も販売されており、今やエンジンで走る二輪車の方が少数派に転落した。

電動自転車は免許が不要で、車両価格は安く、法定点検や車検もない。ほとんど自転車と変わらない感覚のため劇的に普及した。ただ、高性能化した電動自転車やエンジンをモーターに転換した電動バイクによる深刻な事故も増えたため、大都市では規制が始まった。ナンバープレート制度が導入され、3~5年の移行期間後には規制適合車でなければ走れなくなる。とはいえ、電動自転車の普及が自動車のEV化以上のスピードで進むのは確実だ。

中国だけではない。「バイク天国」と目されるベトナムやタイでも、エンジンバイクに混じって、電動バイクを見掛けるようになった。家庭やカフェの軒先、コンビニ店頭で簡単に充電でき、ガソリンよりも割安である点が受けている。都市内の移動であれば、1日に30~40㎞走ることができれば十分という事情もある。

問題は、エンジンバイクのシェアが日本メーカーの独壇場ともいえる東南アジアで、電動バイクが、その需要を奪ってしまう可能性があることだ。ベトナムではかつて「ホンダ」や「ヤマハ」がバイクの代名詞だったが、電動自転車や電動バイクになるとブランドは多種多様で、中国や地場メーカーのプレゼンスが一気に高まる。ベトナム初の乗用車生産に乗り出したビン・ファスト社は昨年11月、電動バイクの生産・販売を始め、好調な売れ行きを示している。電動バイクの生産はエンジンバイクに比べ参入障壁が低く乱戦模様で、日本の二輪車メーカーにとって新たな対応が必要だ。

欧州で爆発的に広がった電動キックスケーターも、アジアの街で見掛けることが増えた。バイクに比べ駐車が楽で、移動に使用しないときは簡単に持ち運びできる。アジアの街のモビリティーは、中国のDiDiや東南アジアのGrabなどスマートフォンアプリによる配車に加え、電動自転車、電動キックスケーターなどの台頭で短期間に激変している。それは地下鉄、モノレールなど公共交通機関とは異なる新しい都市のモビリティーモデルであり、環境負荷(環境に与えるマイナスの影響)の低いモデルにもなるだろう。

後藤 康浩(ごとう・やすひろ) 亜細亜大学 都市創造学部教授 早稲田大学政経学部卒、豪ボンド大学MBA取得。1984年日本経済新聞社入社、国際部、産業部のほかバーレーン、ロンドン、北京などに駐在。編集委員、論説委員、アジア部長などを歴任した。2016年4月から現職。アジアの産業、マクロ経済やモノづくり、エネルギー問題などが専門

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