航海に地図と羅針盤が必要なように、地域づくりにも現状を示す客観的なデータが欠かせない。今回は、北海道の北東、オホーツク海沿岸のほぼ中央に位置し、冬の流氷で知られる人口約2万人の紋別市について、まちの羅針盤(地域づくりの方向性)を考えたい。
このまちらしさを地域の力に
オホーツク海沿岸の数少ない天然の良港として栄える紋別市は、海と食、自然と暮らし、働く場と人のつながりが近い距離で重なり合う、この土地ならではの個性がある。だからこそ紋別市の地域づくりは、単なる人口対策や観光振興ではなく、「このまちらしさ」をどう地域の力に変えていくかが問われている。その際に大切なことは、地域の現状を見つめ直すことだ。
地域経済循環図からは、労働生産性は全国平均を下回るが、財政移転によって住民1人当たりの所得は全国上位にあること、来訪者の規模に比べて民間消費の流入が小さく消費機会が乏しいこと(2022年度で32万人を超える観光入込客)、主要産業である「食料品」が域外から所得を稼いで地域経済を支えていること(支出段階のその他支出は▲465億円ながら食料品の移輸出入収支額は+377億円にも上ること)などが分かる。言い換えれば、暮らしを支える基盤を持ちながらも、地域の中で付加価値をさらに生み出し、その価値を地域内でより大きく循環させていく余地が残っているということだ。
人口減少という現実があるが、だからこそ地域の経済循環を強く・太くし、1人当たりの所得や付加価値を高めていくこと。量の拡大が難しいからこそ、地域の質を高める戦略が求められる。
戦略の方向性はいくつかあるが、基本は、紋別市の地域資源をもっと分かりやすく、もっと高い価値で届けることだ。観光でも、集客だけではなく、「人数×消費単価×域内調達率=観光GRP(域内総生産)」を意識し、産業化を目指すことである。来た人が地域で体験し、食べ、泊まり、買い物をし、そのお金が域内を回ってこそ地域の力になる。
選ばれる理由を育てる
紋別市には、食や第1次産業をはじめとした強みがある。ただ、素材・加工品として外に出すだけでは、地域に残る価値は限られる。飲食として提供する、体験に変える、物語を添える、ブランドとして伝える。そうした工夫によって、同じ地域資源でも生み出す価値は大きく変わる。人口2万人規模の都市ながらGoogleマップで評点4以上の店が無数にある。にもかかわらず、「宿泊・飲食サービス業」の労働生産性が209万円と全国平均の8割弱にとどまり、民間消費の流入が少ない理由は、こうした工夫が足りていないからだ。
あるものを並べるだけではなく、磨き、組み合わせ、選ばれるようにアレンジする工夫が求められるが、こうした工夫に域内外のナレッジを呼び込むことも重要である。地域の未来は、産業だけでは決まらない。どんな仕事があり、どんな挑戦ができるのか、どのような希望が見えるかが大切である。多様な人材が関われる場をつくること、兼業・副業人材や移住者も活躍できる余地を広げること、創業しやすい環境を整えることも、地域が選ばれる理由になる。
具体的な事例は全国に数多くある。特に長野県小布施町は、栗や農の風景、まち並みといった地域資源を丁寧に磨き、「歩いて楽しいまち」としての魅力を育ててきた。人口減少に直面しながらも、「文化立町」と「農業立町」を掲げ、住民と行政の協働でまちの個性を編集してきた歩みは、地域の小さな魅力が大きな目的地に変わり得ることを示している。紋別市でも、一部の関係者だけではなく、行政や商工会議所、事業者、金融機関などのさまざまな主体が、得意とする領域で工夫を積み重ねることが求められる。
オホーツク海の恵みを生かし、また来たい、ここで暮らしたい、ここで働きたいと思える理由を一つ一つ増やしていく工夫を続けること、これが紋別市に求められる「まちの羅針盤」である。
(一般財団法人ローカルファースト財団理事・鵜殿裕)
