日本の産業活動を日々支えているのは、銅、アルミ、亜鉛といったベースメタルである。産業の基盤として大量に使われるこれらの金属は、レアメタルより需要量も市場規模も大きい。なかでも銅は、電線から自動車、電子機器、インフラまで、日本のものづくりを幅広く支える基幹素材だ。日本は、銅の原料の多くを海外に依存しながら、国内で電気銅を生産し、その一部をアジア諸国にも供給している。このように銅を「輸入して使う」だけではない点に、日本の銅産業の特徴がある。 独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)で長年、金属資源の上流・中流支援に携わってきた原田武さんと神谷夏実さんに、ベースメタル、とりわけ銅の現在地を聞いた。
日本は世界有数のベースメタル消費国
―ベースメタルという言葉は、どのように定義すればよいのでしょうか。
原田武さん(以下、原田) 特に明確な定義があるわけではありませんが、「産業のベースとして大量に使用される金属」と理解するのが一般的です(図1)。金やプラチナのような貴金属、あるいはリチウムやニッケルのようなレアメタルとは区別して考えます。ベースメタルは、需要量と市場規模が大きく、LME(ロンドン金属取引所)のような透明性の高い市場があることも特徴です。価格が公開され、誰でも参照できる点は、レアメタルにはない特徴です。
―日本は銅をどこから、どのような形で確保しているのでしょうか。
原田 「日本は銅を海外に依存している」という印象を持たれがちですが、正確には、海外に依存しているのは原料となる銅鉱石です。銅は、国内の製錬所で生産しています。海外から銅鉱石を輸入し、日本国内で電気銅(電解精錬により純度を99・99%以上に高めた銅)をつくり、その一部を海外に輸出するという構造です。
神谷夏実さん(以下、神谷) 日本の鉱石の調達先を見ると、2025年の実績ではチリが46%と最大で、次いでペルー17%、米国9%、豪州8%、パプアニューギニアが7%という順です。半分以上を南米に依存していますが、複数の国に分散していることは、リスク管理上の強みです。一国依存の度合いが非常に強いレアメタルとは、そこが大きく違います。
(注)JOGMEC「鉱物資源マテリアルフロー2024銅(Cu)」によると、23年の世界の銅鉱石生産量は約2237万t。国別ではチリが23%で最大、ペルーとDRコンゴがそれぞれ12%で続く。銅地金の生産量は世界全体で約2650万tに達し、中国が45%を占める。日本の生産量は約150万tで、世界の約6%。国内消費は約80万t、輸出は約70万tで、主な輸出先はインド、中国、台湾、タイなどのアジア地域だ。日本は、銅の消費国であると同時に、アジア向けの供給国でもある。この構造を踏まえると、海外鉱山の探査から採掘、選鉱、製錬、利用、再生に至る流れの中で、上流の権益確保と中流の製錬機能の双方が重要になる。銅は「買えば済む」資源ではない。日本として、どの段階から関与し、どのように原料を確保するかが問われる。
この20年で銅価格はどう動いたのか
―銅価格は、足元の需給だけで動くわけではない。中国の需要増、鉱山トラブル、関税政策、市場心理、投機資金の動きなど、複数の要因が重なって変動する。では、この価格変動をどの時間軸で捉えればいいのでしょうか。
原田 価格変動は、20年くらいで俯瞰(ふかん)したほうがよいと思います。大きな転換点は、中国の経済成長が本格化した2000年代初頭です。それ以降、世界の銅価格は、中国の景気や生産動向に強く左右されるようになりました(図2)。
消費量で見ると、中国は現在、世界全体の大きな割合を占めています(図3)。価格の大きな上下には、投機筋の流入も影響しています。需要と供給だけではなく、金融市場の動きも価格に反映されるのが、銅の難しいところです。
―2025年は、銅価格が大きく動きました。何が起きていたのでしょうか。
原田 インドネシア、チリ、DRコンゴの主要鉱山でトラブルが重なり、鉱石の供給不安が強まりました。ここが同時に不安定になると、市場への影響は避けられません。そこに米国の輸入関税政策を巡る動きが重なって、価格が急騰しました。銅価格は景気循環だけでなく、政策や市場心理によっても大きく動きます。
―単なる景気変動だけではなく、構造的な変化もあるのでしょうか。
神谷 大きいのは世界的な電動化への流れです。EV(電気自動車)や再生可能エネルギーの設備、データセンターなど、電気を多く使う分野が広がれば、銅の需要も増えていきます。これは景気の波だけでは説明できない構造変化です。
―世界的な電動化などにより、2030年頃までは銅需要の上昇基調が続くと見られている。需要は増えやすい一方で、供給はすぐには追いつかない。需要の増加に合わせて、供給を柔軟に増やすことはできないのでしょうか。
原田 鉱山は、掘り続ければ資源が減っていきますし、新しい優良鉱山の発見も簡単ではありません。発見から開発まで十数年かかることも珍しくありません。加えて、地元コミュニティの理解を得ることも年々難しくなっています。需要が増える一方で供給はすぐには増えない。だから、単に購入するだけではなく、その前の段階で、継続的な鉱山投資を行い、権益を確保することが欠かせないのです。
(注)銅資源の開発は、探査から生産まで長い時間を要する。人工衛星によるリモートセンシングで有望地域を絞り込み、現地の地質調査や物理探査、ボーリング調査を経て、鉱床の規模や経済性を評価する。さらに、フィジビリティ・スタディ(事業化調査)、資金調達、環境影響評価、地域社会との関係構築も必要になる。需要が増えたからといって、短期間で供給を増やせるわけではない。鉱山開発は、成果が出るまでに長い時間を要し、民間企業だけではリスクが大きい。調査や技術、資金面から資源開発を支えるJOGMECの役割は、そこにある。
日本の産業を支える銅 上流・中流支援の重要性
―銅は、産業の中でどのような役割を担っているのでしょうか。
原田 銅は使用量が多く、用途も広い金属です(図4)。産業のベースになっている金属だと言えます。特に今後、電動化が進む上では、重要性がさらに高まっていくと思います。
―今後、銅需要を押し上げる要因は、どこにあるのでしょうか。
神谷 EVの普及、GX(グリーントランスフォーメーション)、半導体関連などの動きが、銅需要の増加要因です。特に、自動車の電動化が進めば、電線や関連部材に使われる銅の需要も増えていきます。
―JOGMECは、銅の安定供給に向けて、技術開発の面でどのような支援を行っているのでしょうか。
原田 例えば、チリのメジャー企業と共同で、銅の不純物分離技術のサンプル試験を行うなど、日本企業の競争力強化につながる取り組みを進めています。
(注)銅は、電線や電気・電子機器、自動車、建材、熱交換器など、幅広い分野で使われている。電気伝導率が高く、熱を伝えやすいことに加え、加工しやすいことも特徴だ。電気を運ぶ用途では、銀は銅より電気伝導率が高いものの、非常に高価なため、大量利用に向きにくい。銀では銅の代替は容易ではないのだ。銅の供給不安や価格高騰は、巡り巡って日本経済全体のコスト構造を揺さぶる。資源の確保、国内製錬、技術開発を一体で考える必要があるのはそのためだ。
都市鉱山とリサイクルの現実 鍵を握るのは「採算」
―銅の安定供給を考える上で、都市鉱山やリサイクルは、どのような位置付けになるのでしょうか。
原田 都市鉱山は重要な論点ですが、一次資源を直ちに置き換えるものではなく、当面は補完的な供給源と見るのが現実的です。JOGMECの役割は、主に上流の鉱山と中流の製錬へのファイナンスや技術支援ですが、製錬所がスクラップを受け入れるプロセスには接点があります。
―銅地金に占めるリサイクル原料の割合は、どのように見ればよいのでしょうか。
神谷 製錬原料に占めるリサイクル原料の割合は、おおむね2割程度と考えられます。例えば、1tの地金をつくるとき、そのうち200㎏分がスクラップ由来であれば、リサイクル原料の割合は2割という考え方です。製錬所によっては、この比率を将来的に5割近くまで高める計画もあります。
―リサイクル原料を増やす上で、難しい点はどこでしょうか。
神谷 銅の製錬炉は、鉱石に含まれる硫黄の酸化反応熱を利用して操業しています。一方、銅スクラップや電線スクラップには硫黄が含まれていません。そのため、炉の熱バランスを保つためには、鉱石とスクラップを組み合わせる必要があります。構造上、スクラップだけで炉を回すことはできません。リサイクル原料の比率を高めるには、こうした制約があります。
―技術的に回収できることと、事業として成り立つことは別の問題なのでしょうか。
原田 大事なのは、技術的に回収できるかだけではなく、回収して採算が合うかどうかです。貴金属は、価格が高いので成り立ちやすい。銅も量がまとまれば成り立ちます。一方、レアメタルは市中に十分な量が流通していないものも多く、そこが難しいところです。
(注)都市鉱山は、日本にとって重要な供給源である一方、直ちに一次資源を置き換える切り札ではない。スクラップを受け入れる製錬炉の構造、回収量、採算性がそろって初めて、リサイクルは安定供給の一部を担うことができる。一次資源、製錬、リサイクルをどう組み合わせるかが現実的な論点になる。
価格変動を読むより影響の受け方を見極める
―銅は、需給だけでなく、鉱山トラブル、政策、市場心理によっても価格が揺れる金属です。また、需要は電動化や再生可能エネルギー、データセンターなどの構造変化で増えます。一方で供給は、鉱山開発の長い時間軸や地域社会との調整に縛られます。価格が変動しやすい背景には、この需給構造の違いによる影響が大きいといえます。中小企業にとって、銅の相場を予測するのは難しいことですが、まずは、自社がどこで大きな影響を受けるのかを見極めておくべきなのでしょうか。
原田 一般論として言えば、金属のサプライチェーンは、非常に複雑です。銅の素材を直接輸入している企業は、LME価格の変動を強く受けます。一方、部材や完成品を調達している企業では、その影響は途中で緩和されることもあります。自社がどの段階で銅の価格の影響を受けるのかを把握することが大切です。
―金属を直接扱わない企業にも影響があるのでしょうか。
神谷 建設、物流、設備、エネルギーなど、さまざまな産業で電動化や高機能化が進んでいます。そうした流れの中で、銅需要は増えています。金属を直接扱っていない企業でも、設備投資や工事コストの上昇を通じて、間接的に影響を受ける可能性はあります。
(注)自社を守るためには、価格転嫁、調達条件、在庫の持ち方、取引先との関係を含めて、銅の価格変動に耐える経営を組むこと。その際、JOGMECの「鉱物資源マテリアルフロー」調査も、サプライチェーン全体を把握する手がかりになる。ベースメタルの問題は、資源の話であると同時に、経営管理の話でもある。
レアメタルとの関係から考える資源供給リスクの現実
―中国がレアメタルの輸出管理を強化したことで、各種鉱物資源の供給リスクが改めて意識されるようになった。銅とレアメタルでは、供給リスクの現れ方にどのような違いがありますか。
原田 銅は市場規模も大きく、産出国も複数に分散しています。これだけの規模があると、サプライチェーンを構成する企業も多くなります。特定の国の動きによって市場全体が直ちに崩れるリスクは、相対的には小さいと言えます。
一方、レアメタルは市場規模が小さく、特定国への依存度が極めて高いものが多い。輸出規制が起きると、市場への影響が一気に表れやすいのです。
―日本が銅鉱石について、特定国に依存するリスクをさらに下げるには、どのような視点が必要でしょうか。
原田 JOGMECの役割でいえば、日本企業が上流・中流の案件に参画する際のファイナンス支援や、優良案件の発掘が中心です。ただ、上流だけを多角化しても、それを買い、使い、つないでいく下流がなければサプライチェーンは成り立ちません。上流から下流まで一貫してつなぐ視点が必要です。
(注)資源供給リスクは、鉱山の場所だけで決まるものではない。採掘、選鉱、製錬、分離・精製、加工、利用まで、どこに依存や詰まりがあるのかを見極めなければ、実態をつかむことはできない。ベースメタルは、上流から下流までを一体で捉える必要がある。その中でも銅は、わが国の成長分野にも深く関わる。日本経済の足元を支える銅の重要性は、今後さらに増していくはずだ。
