群馬県前橋市
船乗りに正確な地図と羅針盤が必要なように、地域づくりに取り組むためには地域の客観的なデータが欠かせない。国が提供している地域経済分析システム(RESAS:リーサス)のデータを活用することで、地域の特徴が分かり、取り組みの方向性が浮かび上がってくる。本連載では、日本商工会議所が実施している地域診断サービスを基に、RESASの読み解き方を示しながら、各地のまちの羅針盤を紹介する。
都市サービスが集まるまち
今回は、群馬県前橋市を診断し、地域づくりの方向性を検討する。
経済活性化のポイントの一つは、域外の需要を獲得して地域に経済の好循環を生み出すことにあるが、前橋市で純移輸出額が最も大きな産業は小売業である。新幹線の駅がある高崎市の化学、伊勢崎市の輸送用機械とは対照的である。また、少額ながらも農業の純移輸出収支額が黒字であることも特徴である。県庁所在地ながら緑豊かな自然があることが感じられる。
一方、地域の経済規模に占める第3次産業の割合は65%(群馬県平均は41%)と高く、サービス業が集まっている。それゆえであろうが、昼間の滞在人口は28万人(15~79歳)と国勢調査人口より2万人も多い(2018年平均)。
もう少し詳しく見てみると、19年2月平日14時の滞在人口は27万6378人となっている。そのうち前橋市に居住する人数は22万540人であり、通勤などで優に5万人を超える人たちが前橋市外から来訪してきている(このうち県外居住者の人数は1万2366人)。
これらから見えてくる前橋市の特徴は、自然が豊かで都市サービスが集まる高い拠点性である。もったいない点があるとすれば、滞在人口が多く民間消費額は流入傾向にあるが、その規模は全体の3~4%と、交流人口の大きさに比べ、ささやかなレベルにとどまっていることであろう。
今後の前橋市の人口は、34万人(15年)から28万人(45年)へと30年で2割近く減少すると試算されている。中でも働き手の中心となる25~64歳の人口は17万人から12万人へと3割も減少する。
官民で共有すべき都市の将来像
こうした中、地域経済を維持していくためには、生産→分配→支出と流れる経済循環を大きくしていく必要がある。前橋市は、あまり強くはない域外からの需要獲得力を伸ばすことはもちろんのことであるが、アントレプレナーシップの醸成などによって拠点性の高さをビジネスで強化していくという内発的な取り組みが何よりも求められることになる。
公共空間を活用してにぎわいを創出する「STREET&PARK MARKET」(豊田市中心市街地活性化協議会)のようなPPP/PFIの推進や、インキュベーション施設である「AOMORI STARTUP CENTER」(青森商工会議所)のような機能をまちなかに点在させることでリビング・ラボ(生活者も参加するオープンイノベーションおよびその拠点)を促進する取り組みも重要であろう。
現在、前橋商工会議所が「GREEN&RELAX」というビジョンを掲げ、行政は「前橋市アーバンデザイン」という官民で共有すべき都市の将来像を策定している。昨年11月には、まちづくりを担う組織として一般社団法人前橋デザインコミッションが設立された。今後、都市再生推進法人として認定される見込みであり、エリアマネジメントなど、新しい方策を取り入れて官民連携のまちづくりを進めようとするところである。こうした取り組みが着実に実施されていくことで、人口減少に負けない、強く太い地域経済循環が構築されるであろう。 (日本商工会議所地域振興部主席調査役・鵜殿裕)
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