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平成30年度経済財政白書(概要) IT人材の育成が重要 学び直しで生産性向上を

図1 名目総雇用者所得

内閣府はこのほど、「平成30年度年次経済財政報告(経済財政白書)」を公表した。サブタイトルは「『白書』:今、ソサエティー5・0の経済へ」。第4次産業革命が進む中で日本経済が競争力を高め、新技術・システムの社会実装を進めていくためには、IT人材の育成が重要と指摘。加えて高齢者や女性も柔軟に仕事ができる環境の整備を進め、労働生産性向上にスピード感を持って対応するべきとも指摘した。特集では、白書の概要を紹介する。

第1章 景気回復の現状と課題

日本経済は2012年末から緩やかな回復が続き、回復期間が戦後最長に迫っている。

2000年代はデフレ下での回復であったが、今回はデフレではない状況を実現する中で、企業収益は業種や企業規模にかかわらず幅広く改善。

雇用所得環境は着実に改善し、GDPギャップがプラスに転じており、今後は、潜在成長率の引き上げが重要。

⑴名目および実質GDP成長率

〇今回は名目の伸びが実質の伸びを上回る。

⑵企業収益の増加額

〇大企業、中小企業とも収益改善。

⑶名目総雇用者所得

〇賃金、雇用者数とも増加。(図1)

⑷就業者数

〇女性、高齢者が大幅増。(図2)

⑸実際のGDPと潜在GDP

〇GDPギャップはプラスに転じている。

家計部門の動向と課題:消費の状況と構造変化

サービス消費の堅調さもあり個人消費は持ち直し。インターネット消費は高齢者の利用拡大の余地が大きい。

個人消費は持ち直し。サービス消費が堅調な背景には、携帯電話の普及による通信費の増加や単身・共働き世帯の増加による外食の好調さなど構造変化も影響。

高齢者世帯のインターネット消費利用率は低いものの、利用世帯のインターネット消費額は他の年齢層と大きな差はない。衣類、家具、家電などの財は、インターネットでは価格の安い製品が購入されている可能性がある。

⑴財別の個人消費の動向

〇耐久財が持ち直す中、サービス消費が継続的に消費を下支え。

⑵サービス消費の増加品目

〇通信費、外食などを中心に増加。

⑶年齢別に見たネット消費の動向

〇ネット利用世帯に限れば、どの年齢層もほぼ同じ水準。

⑷ネット消費利用者と非利用者の消費額の差

〇財は価格の安い商品が購入されている。

企業部門の動向と課題:人手不足への対応

人手不足の企業の多くは収益が増加しているが、一部に影響がみられ、生産性向上が課題。

人手不足の企業の多くは収益が増加しているが、一部の企業では業務縮小などの影響もみられる。

人手不足感の高い企業では生産性の向上が大きな課題。従業員の人的資本投資や省力化投資を促進し、労働生産性を高めることが重要。

⑴労働者過不足判断DI

〇運輸などサービス業で、特に人手不足感が強い。

⑵経常利益上昇率と人手不足感

〇人手不足感が強いほど、経常利益上昇率が高い。

⑶人手不足に伴い業務量調整を行った企業

〇一部の業種では人手不足により業務量を調整。

⑷労働生産性と人手不足感

〇人手不足感が強いほど、労働生産性が低水準。(図3)

⑸人手不足への主な対応策

〇人材育成や省力化投資など生産性向上の取り組みも見られる。(図4)

デフレ脱却:経済再生に向けた課題:物価と賃金

物価は緩やかに上昇しているが、デフレ脱却・経済再生に向けて賃上げの継続が必要。

1.物価の動向

物価はゆるやかに上昇している。国際的に見ると、財価格の動向には大きな差はないが、賃金動向を反映して日本ではサービス価格の上昇率が相対的に低い。

⑴消費者物価とGDPギャップの動向

〇消費者物価、GDPギャップ共にプラス

⑵物価、賃金動向の国際比較

〇賃金やサービス価格において日米で大差。

2.賃金の動向

業績の改善や生産性向上がベア実施につながる傾向。

将来の業績見込みも企業の賃上げ姿勢に影響を及ぼすことから、企業の長期的な展望が改善することも重要。

⑴ベアの実施確率の要因分析

〇利益、生産性、人手不足感が高まるとベア実施確率が上昇。

⑵ベースアップをしない主な理由

〇今期だけでなく将来の業績懸念も企業の慎重な姿勢に影響。

第2章 人生100年時代の人材と働き方

技術革新による業務の代替の可能性や働き方の変化が見込まれる。

1.技術革新の労働市場への影響について

今後、AI(人工知能)などの新技術の進展により、定型的な作業などが代替される一方、専門性の高い業務や接客などのコミュニケーション能力が必要な業務が増える可能性がある。

新技術の導入によりテレワークなどの柔軟な働き方が増える可能性がある。

⑴企業がAIなどに代替を考えている業務

〇定型的な業務が代替される可能性がある。(図5)

⑵企業がAIなどにより増えると考える仕事

〇技術職などの専門性の高い業務や接客などのコミュニケーションが必要な業務が増える可能性がある。(図6)

⑶ITの活用と定型的な作業

〇ITの活用が進んでいる国では定型的な作業が少ない。

⑷柔軟な働き方に積極的に取り組んでいる企業の割合

〇新技術への対応をしている企業では、柔軟な働き方を積極化する傾向。

人生100年時代の人材育成

技術革新に向け、大学などの柔軟な対応や企業内訓練の充実が重要。

1.IT人材育成の必要性

専門的なIT人材は不足しており、IT人材の育成が必要。IT分野はスキルの陳腐化が早いので、リカレント教育を含め、大学などの役割の強化が必要。

⑴IT人材が就業者に占める割合

〇日本のIT人材の割合は国際的に低い。(図7)

⑵現在の業務で必要な知識を学んだ場所

〇情報系で働く人は大学などで学習した割合が低い。

2.企業の教育訓練とその効果

リカレント教育などの学び直しを促進することで、企業内訓練が生産性を高める効果が上昇。

⑴総労働時間に占める訓練時間(OJT・OFF‐JT)の割合

〇平均12%。

⑵企業の労働者1人当たりの人的資本投資額

〇訓練に費した時間の機会費用(賃金コスト)を含めて推計すると1人当たり年28万円。

⑶人的資本投資額が1%増加したときの労働生産性に対する効果

〇労働生産性上昇効果が自己啓発支援により上昇する可能性。

人生100年時代の社会人の学び直し

自己啓発の効果は高い。今後は、学び直しの機会の充実や適切な評価制度が重要に。

1.自己啓発の効果

学び直しなどの自己啓発の実施は働き手に成果をもたらす可能性が高いが、日本は国際的に見て学び直しを行う人が少ない。学び直しを促進していくことが重要。

⑴自己啓発実施後の年収の変化(就業者)

〇自己啓発により2年後以降に年収が増加した。

⑵自己啓発実施後の就業確率の変化(非就業者)

〇非就業者の就業確率が10~14%ポイント増加した。

⑶教育機関での学び直しの割合(25~64歳)

〇日本は学び直しが少ない。

2.学び直し促進に向けた課題

より実践的で質の高い学び直しの機会を大学などが提供することや、ワークライフバランスの促進、企業側が自己啓発を適切に評価することが重要。

⑴学び直しの際に重視するカリキュラム

〇社会人が重視する内容と大学などの重点にずれ。

⑵労働時間が1%減少した時の生活時間の増加への効果(正社員、平日)

〇労働時間の削減により、自己啓発などの時間が増加。

第3章 「ソサエティー5・0」に向けた行動変化

第4次産業革命に向けたイノベーションが進展しているが、わが国は活用に一部遅れも見られる

1.新技術の進展状況

第4次産業革命に向けた取り組みは、クラウドサービスの利用は進んでいるが、IoTやAIの活用は一部の企業にとどまる。

⑴クラウドサービスを利用する企業の割合(OECD調査〈16年〉)

〇クラウドサービスの利用が主要国で進展しており、日本は第3位の利用率。

⑵新技術に関する取り組みを行っている日本企業の割合(内閣府調査〈18年〉)

〇IoT・ビッグデータ、AIなどの新技術の活用は一部の企業にとどまっている。

2.インターネット販売・電子決済利用状況

日本では、新技術を活用したインターネット販売や電子決済などの利用が限定的。

⑴インターネット販売の利用率(16年調査)

〇日本はインターネット販売の利用率がやや低い。

⑵電子決済の家計消費支出への割合(16年)

〇日本はカードなどによる電子決済の利用率が極めて低い(図8)

イノベーションの進展と日本の競争力

わが国は、イノベーションの源泉となる基礎力を有するが、それを効果的に活用する適応力が弱い。

1.イノベーションの基礎力

日本は、イノベーションの基礎力は高いが、研究開発の進め方が漸進的な志向であり、オープン化が進んでいない。

⑴AI関連特許総数に占める各国シェア(12~14年)

〇日本はAI関連特許シェアが世界第1位。

⑵製造業の付加価値に対するロボット(ストック額)の比率(15年)

〇日本の製造業ロボット化率は世界第2位。

⑶日本の研究開発の進め方の特徴点

〇日本は、漸進的なイノベーションを好み、研究開発における国際連携が少ない。

2.イノベーションへの適応力

日本は、デジタル新時代に対応した組織体制、人材育成、起業家精神、企業の新陳代謝などの面でイノベーションへの適応力が低い。

⑴最高情報責任者(CIO)を経営者の直下に専任で設置している企業の割合

〇日本は、経営者の直下に設置された専任のCIOが少なく、デジタル新時代に対応した組織体制になお向上の余地がある。(図9)

⑵人的資本投資(11~12年)と起業家精神(17年)

〇日本は、人的資本投資の水準が低く、起業家精神も低い

⑶企業の開業率・廃業率(15年)

〇日本は企業の参入・退出が不活発な状況となっている。

イノベーションの進展と労働分配率・生産性

イノベーションの進展により、わが国の労働分配率は低下。人材育成などによる生産性の向上が課題。

1.イノベーションの進展による労働分配率の低下

日本の労働分配率の低下には、主にイノベーションの進展によって、資本コストが低下し、労働が代替されたことが影響。

⑴各国の労働分配率の推移(SNAベース)

〇日本以外の国でも労働分配率が低下。イノベーションの進展による労働代替など、さまざまな要因が指摘されている。

⑵資本コスト・グローバル化などによる労働分配率への影響

〇日本企業の労働分配率の低下には、イノベーションの進展によって、資本コストが低下し、労働が代替されたことが、最も大きく影響している。

2.イノベーションの進展と生産性成長率

イノベーションに対応した人材育成や企業の新規参入などの促進によって、生産性を一層高めるとともに、その成果を賃金や人材投資に還元することが期待される。

⑴IoT・AIと人材育成の組み合わせによる生産性の上昇効果

〇新技術の導入は、生産性を高める効果があり、これに教育訓練も合わせると生産性の一層の向上が望める。

⑵日本企業の生産性の要因分解

〇企業の新規参入による生産性の押し上げ効果は縮小傾向。一方、平均より生産性が高い企業が退出し、平均より生産性が低い企業が存続している可能性がある。