農林水産省はこのほど、平成30年度食料・農業・農村白書(通称農業白書)を取りまとめ公表した。今回の白書では、通常の分析項目に加えて、自然災害からの復旧復興、スマート農業、農福連携を特集するとともに、トピックスとして輸出増大、規格・認証・知的財産、ジビエなど一般に関心の高い事項についても触れた。特にスマート農業については、今後の農業における生産性の向上や人手不足解消につなげる切り札と位置付けている。特集では、白書の概要を抜粋して紹介する。
特集1 平成30年度に多発した自然災害からの復旧・復興
〇2018年は、平成30年7月豪雨、台風第21号、北海道胆振東部地震、台風第24号などにより甚大な被害が発生し、農林水産関係の被害額は、東日本大震災(2兆3841億円)のあった11年を除くと過去10年で最大。
〇農林水産省では、プッシュ型の食料・飲料支援や被災地方公共団体への人的支援を行うとともに、被災による離農者が出ないよう、現場の要望などを聞きながら、きめ細かな支援対策を従来より迅速に決定してきており、被災した農林漁業者の1日も早い経営再開に向けて対応。
〇今後発生し得る自然災害に備え、防災・減災、国土強靱化のための緊急対策を3年間で集中的に実施するほか、農作物などの被害防止に向けた技術指導の徹底や農業者に対する農業保険への加入を推進。 (以下省略)
特集2 現場への実装が進むスマート農業
〇わが国は、農業者の急激な減少による労働力不足が深刻化する一方、グローバルな食市場は急速に拡大。世界全体の多様なニーズを視野に入れ、わが国の農業を活力ある産業へと成長させていくことが必要。
〇このような課題を解決するため、生産性の向上や規模拡大、作物の品質向上、新規就農者などへの技術の継承、高度な農業経営を実現するスマート農業技術の実装が進展。
〇人手に頼る野菜・果樹などの分野での技術開発を進めるとともに、共同利用などのシェアリングやリースなどのコスト低減の取り組みも組み合わせながら、規模の大小にかかわらず農業現場の実態に即してスマート農業技術の実装を進めていくことが必要。(以下省略)
特集3 広がりを見せる農福連携
〇近年、農業分野と福祉分野が連携して障害者や生活困窮者、高齢者などの農業分野への就農・就労を促進する「農福連携」の取り組みが各地で盛んに。
〇農福連携は、障害者などの農業分野での活躍や農産物の加工・販売などを通じて、自信や生きがいを創出し、社会参画を促進。
〇農業側も働き手の確保だけでなく、生産工程や作業体系を見直す機会となり、生産の効率化や良質な農産物生産につながる効果が期待。(以下省略) トピックス1 農産物・食品の輸出拡大
〇2018年の農林水産物・食品の輸出額は、過去最高を更新。19年の1兆円目標達成に向け、オールジャパンで取り組むとともに、輸出に意欲的に取り組む農林漁業者・食品事業者を支援する取り組みを推進。
〇成長が見込まれる世界の食市場の獲得に向けて、成長著しいアジア諸国と購買力の高い欧米の大市場も重視。
トピックス2 規格・認証・知的財産の活用
〇わが国の農林水産物・食品は、一定のブランド力を持つ中で、海外の商品との競争力維持や差別化を図る必要。
○JASや品種登録制度に加え、近年普及が進むGAP(農業生産工程管理)、HACCP(危害要因分析・重要管理点)、GI(地理的表示)保護制度などの規格・認証制度や知的財産制度を適切に活用し、国際市場における競争力を強化
・GAP(以下省略)
・HACCP
HACCPは、食品の製造・加工工程ごとに、微生物汚染などの危害要因を分析し、特に重要な工程を継続的に監視・記録する衛生管理システム。世界的にHACCP義務化の動き。
18年6月に公布された食品衛生法の一部を改正する法律では、原則として全ての食品事等業者がHACCPに沿った衛生管理に取り組むことが義務化(21年までに完全施行)。
一般財団法人食品安全マネジメント協会(JFSM)が策定したJFS-C規格(注)が、18年10月に国際規格としてGFSI承認を取得(注国際的な規格と整合性のある製造セクターの規格)
・GI保護制度
GI保護制度は、地域ならではの特徴的な産品の名称を知的財産として保護する仕組み。18年度末時点で76産品が登録され、この1年間で17産品増加。
日EU・EPAで合意したより高いレベルでの相互保護実施のため、GI法を改正。協定発効と同時に、日本側48産品、EU側産品の相互保護が開始。(以下省略)
トピックス3 消費が広がるジビエ
〇野生鳥獣による農作物被害額は、近年、減少傾向にあるものの農山村に深刻な影響を及ぼしており、被害の防止などを目的としたシカやイノシシの捕獲が全国各地で進展。
〇捕獲されたシカやイノシシをジビエとして有効活用することで、農山村の所得の向上や有害鳥獣の捕獲意欲の向上により、農作物被害や生活環境被害の軽減につながることに期待。(以下省略)
第1章 食料の安定供給の確保
1.食料自給率と食料自給力指標(以下省略)
2.グローバルマーケットの戦略的な開拓
農林水産物・食品の輸出拡大
※特集3のトピックス1を参照
日本食・食文化の海外展開
○日本産食材を積極的に使用する海外のレストランや小売店を認定する日本産食材サポーター店は、4112店
○日本食・食文化の魅力を広く国内外に効果的にPRする「日本食普及の親善大使」は国内外で92人が活躍。
○13年に開設された日本食魅力発信ポータルサイト「Taste of Japan」では、海外の日本食レストラン4708店、日本食材を購入できる販売店1068店を掲載。
規格・認証・知的財産の活用
※特集3のトピックス2を参照
3. 世界の食料需給と食料安全保障の確立
世界の食料需給の動向
○世界の穀物生産量は小麦が乾燥などの影響により減少したことから2年連続で減少、消費量は人口増、所得水準の向上などにより増加。
総合的な食料安全保障の確立
○国内生産の増大を基本に、輸入・備蓄を組み合わせて食料の安定供給を確保するとともに、不測の事態に備えてリスクを定期的に分析・評価。
○食品産業事業者向けモニター調査によると、自然災害に関する事業継続計画(BCP)を策定していた事業者は9・7%であるなど、自然災害を想定した備えが必要。
農産物の貿易交渉
○TPP11協定、日EU・EPAが発効し、18年度末時点で18のEPA/FTAが発効済・署名済。
○国家貿易制度の維持、関税割り当て、関税削減期間の長期化など、農林水産業の再生産を可能とする国境措置を確保するとともに、体質強化対策など万全の国内対策を実施。
4.食料消費の動向と食育の推進
○2人以上の世帯の食料消費支出は、世帯主の年齢が高いほど多い傾向。
○10年前に比べると生鮮食品は減少し、調理食品が増加。
○世帯主が60歳以上の2人以上の世帯は、主要食品の購入単価が高い傾向。(以下省略)
5.食の安全と消費者の信頼確保
食品の安全性向上
○科学的根拠に基づき、食品の生産から消費までの必要な段階で有害化学物質・微生物の汚染防止や低減を図る措置を策定・普及。
○18年12月に改正された農薬取締法では、農薬の安全性向上の観点から、最新の科学的知見に基づく再評価制度などを導入。
消費者の信頼確保
○原産国名や原料原産地名などの表示の適正化を図るため、食品表示法に基づき、地方農政局などの職員による監視・取り締まりを実施。(以下省略)
6.食品産業の動向
食品産業の現状と課題
○食品産業の国内生産額は、近年増加傾向で推移しており、17年は前年並みの99兆円。
○食品産業は国内の農林水産業と密接に関係しており、国産食用農林水産物の仕向先の7割が食品産業。
○17年の製造品出荷額は、9道県において全製造業に占める食品製造業の割合が1位となるなど、地域経済において重要な役割。
○農林水産省が18年4月に公表した「食品産業戦略」では、食品製造業の課題などが整理され、20年代において目指すべき目標を提言。
食品流通の効率化や高度化
○18年6月に「卸売市場法及び食品流通構造改善促進法の一部を改正する法律」が公布。○17年8月に施行された農業競争力強化支援法に基づき、18年度は飲食料品の製造業5件、卸売事業3件の事業再編計画を認定。
環境問題などの社会的な課題への対応
○わが国の食品ロスは年間643万トンと推計され、国民1人当たり年間51キログラム、1日当たりに換算すると139グラム。
○SDGsを踏まえ、食品リサイクル法の基本方針の見直しの中で、事業者から発生する食品ロスの削減目標を検討中。
○食品ロスの削減に向けては、食品関連事業者、消費者、地方公共団体などのさまざまな関係者が連携し取り組みを展開。国はこれを支援。
○17年では903万トンのプラスチックが廃棄され、その14%に当たる128万トンが焼却や埋め立てにより処理。
○食品産業では、使用量削減に向けた容器の軽量化・薄肉化、リサイクルが容易な容器包装への転換などの取り組みを実施。
○農林水産省は、プラスチック資源循環を促進するため、食品産業の取り組みについて情報発信。
(以下省略)
7.生産・加工・流通過程を通じた新たな価値の創出
○農業者による加工・直売などの取り組みである農業生産関連事業の16年度の年間総販売金額は、前年度に比べ595億円増加の2兆275億円。
○16年度の農産物の加工、農産物直売所の1事業体当たりの年間総販売金額は、11年度と比べいずれも増加。
○市町村段階では、取り組み方針の検討や商工業者、大学などの地域の多様な主体が連携することで、地域ぐるみの6次産業化を推進。
第2章 強い農業の創造
1.農業産出額と生産農業所得等の動向
(以下省略)
2.農業の構造改革の推進
農地中間管理機構の活用などによる農地の集積・集約化
(以下省略)
担い手の育成・確保と人材力の強化
○18年における販売農家の基幹的農業従事者数は、前年比3・8%減少の145万1千人で、平均年齢は67歳
○農業経営体数は、前年比3・0%減少の122万1千経営体。農業経営体数が減少する一方、法人経営体数は、従業員を集めやすい、経営継続がしやすいなどの利点から、4・1%増加の2万3千経営体
○ 体経営耕地面積が10ヘクタール以上の層の面積シェアは、年々増加し、18年には52・7%。
○17年の49歳以下の新規就農者数は2万760人で、4年連続で2万人超。
○農業分野の労働力不足は深刻な状況。試算では、17年時点で約7万人の雇用就農者が不足。
○18年12月に公布された「出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律」では、一定の専門性・技能と日本語能力を有している外国人材の受け入れを目的とした新たな在留資格「特定技能」が創設。農業を含む14分野が対象。
女性農業者の活躍
○16年4月に改正された農業委員会法などにより、農業委員や農協役員の女性の割合が増加。特に農業委員では、18年度の女性の割合が11・8%になるなど指導的地位に占める女性の割合が増加。
○13年に発足した農業女子プロジェクトが18年11月で5周年。18年度末時点でメンバー数は740人、参画企業は34社となり、メンバーの活躍の場も拡大。
収入保険の実施
(以下省略)
3.農業生産基盤の整備と保全管理
(以下省略)
4.米政策改革の動向
(以下省略)
5.主要農畜産物の生産などの動向
(以下省略)
6.生産現場の競争力強化などの推進
(以下省略)
7.気候変動への対応などの環境政策の推進
(以下省略)
8.農業を支える農業関連団体
(以下省略)
第3章 地域資源を生かした農村の振興・活性化
1.社会的変化に対応した取り組み
○平地、中間、山間の各農業地域では都市的地域に先行して高齢化と生産年齢人口割合の減少が進行。総戸数9戸以下の小規模集落が増加し、一部集落で機能維持が困難の恐れ。○一方で、東京圏からの転入が進む山間部や離島も一定数存在。
○農村の地域資源を活用した6次産業化など、雇用と所得を創出する取り組みが各地で展開。
○政府は、生活サービス機能を集約・確保する「小さな拠点」を中心に、住民主体で地域の生活を支えるさまざまな取り組みを推進。
○農村の課題解決にICTなどの活用が期待。農林水産省は、ICTを活用し定住条件の強化に取り組む優良事例集を作成。
2.中山間地域の農業の振興
(以下省略)
3.農泊の推進
○農泊は農山漁村においてわが国ならではの伝統的な生活体験と非農家を含む農山漁村の人々との交流を楽しむ農山漁村滞在型旅行。
○インバウンド需要は堅調に拡大。外国人延べ宿泊者数に占める地方部の割合は4割超。
○農泊をビジネスとして実施できる地域を20年までに500地域創出する目標を掲げ、現場体制の構築、古民家などを活用した滞在施設や農林漁業・農山漁村体験施設の整備などを支援。
○農泊地域の情報を一元的に集約・発信する「農泊ポータルサイト」などの開設支援を実施。
○地域の食と農林水産業を核に、訪日外国人旅行者を中心とした観光客を誘致する「SAVOR JAPAN」認定地域は21地域に。
4.農業・農村の有する多面的機能の維持・発揮
(以下省略)
5.鳥獣被害への対応
(以下省略)
6.再生可能エネルギーの活用
○「長期エネルギー需給見通し」では、総発電電力量に占める再生可能エネルギーの割合を30年度までに22~24%にする目標が示されており、17年度は前年度から1・5ポイント上昇の16・1%。
○地域の特色を生かしたバイオマス産業を軸とした環境に優しく災害に強いまち・むらづくりを目指す地域であるバイオマス産業都市は、18年度は5市町が選定され、全国で83市町村。
7.都市農業の振興
(以下省略)
第4章 東日本大震災・熊本地震からの復旧・復興
(以下省略)
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