日本商工会議所は2月1日から8日まで、三村明夫会頭を団長とする経済ミッションを、オーストラリアとニュージーランド(NZ)の2カ国に派遣した。本ミッションでは、両国政府要人や経済界との懇談などを実施。再生可能エネルギー、先端技術、インフラなどさまざまな分野での協働を再確認するとともに、森林火災が発生したが、オーストラリアでのビジネスは滞っていないことを確認した。特集では、本ミッションの概要を紹介する。
ロバートソン財務大臣 日本からの投資を歓迎
2月3・4日に訪問したニュージーランドでは、ロバートソン財務大臣、ウッズエネルギー・資源担当大臣との懇談のほか、地元経済界とのセミナーや産業視察を通じて、包摂的社会(マオリ族との共生、女性登用など)を実践するとともに温暖化対策(温室効果ガス排出ゼロ目標など)などの将来の課題に取り組み、自由貿易体制の枠組みの中で研究開発を通じた技術立国を目指す姿を実感するものとなった。
2月3日午後、ビジネスニュージーランドとのネットワークランチョンで懇談したロバートソン大臣は「昨年秋に、日本で開催されたラグビーワールドカップでは、アーダーン首相や私を含め多くの閣僚が訪日し、これを機に両国の関係は一層強化された。ニュージーランドは日本からの投資を歓迎している。従来の森林、農産物における協力に加えて、エレクトロニクス、再生可能エネルギー、宇宙分野、ロボット関連、水素エネルギーなど新分野で協力を拡大することができる。高齢化や地球温暖化といった両国共通の課題でも協力し、共に経済成長していきたい」とあいさつした。 その後の懇談では、伊東副団長(本田技研工業)、朝田副団長(丸紅)、倉内顧問(三菱UFJ銀行)、矢嶋顧問(王子ホールディングス)が、ニュージーランドにおける各社の事業・取り組みを紹介するとともに、「PPPを活用したインフラへの協力」「森林資源の有効活用のための未加工木材の海外輸出制限」の提案がなされた。
これに対して、ロバートソン大臣からは「再生可能エネルギーが全電力に占める割合を100%にすることを目標にしている」「グリーン水素など新分野への投資拡大を目指している」「日本の自動車メーカーによる投資は両国の相互補完性を物語る好事例」「丸太を輸出するだけではなく、国内加工にもバランスよく供給されることが重要」「道路や鉄道整備計画、上下水道インフラなど、PPPによる大型政策パッケージを発表した」といった説明がなされた。
ウッズエネルギー・資源担当大臣 住宅、科学、宇宙分野で協力を
2月3日午後、国会議事堂にウッズエネルギー資源大臣を表敬訪問した。
冒頭、三村団長からのあいさつの後、斎藤副団長(IHI)、市川副団長(住友林業)、北村副団長(国際石油開発帝石)が、ニュージーランドでの各社の取り組みについて紹介した。その後、ウッズ大臣からは「再生可能エネルギー、住宅、科学分野で両国は協力できる余地が大きい」「アーダーン首相が昨年訪日した際、バイオ燃料、AI、ロボットなどの分野でイノベーションパートナーシップの覚書を締結した」「地熱分野でGNSサイエンスとの協力の継続を歓迎する。政府としても研究プロジェクトを進めている」「グリーン水素に関するビジョンを発表した。産業界から良いフィードバックを期待している」「宇宙産業はNZにとって重点分野であり、日NZ首脳間でも宇宙分野での政府間協力が議論された」「住宅問題に関し、日本企業による効率的な住宅を供給についての提案は興味深い」といった発言があった。
モリソン連邦政府首相 近々の訪日を希望
訪問したオーストラリアでは、モリソン連邦政府首相を表敬したほか、テイラーエネルギー・温室効果ガス・排出量削減大臣、アンドリュース産業・科学・技術大臣、バーミンガム貿易・観光・投資大臣と懇談、CO2削減と経済成長の両立、先端技術を通じた日豪間の協力可能性が示された。
2月5日午後、国会議事堂にモリソン連邦政府首相を表敬訪問した。
冒頭、三村団長が「森林火災をとても心配している」「1月のモリソン首相の訪日延期は残念であったが、今後の来日を楽しみにしている」と安倍首相から託されたメッセージを伝え、モリソン首相は、この時期のミッション訪問を歓迎するとともに「(訪日延期)を残念に思っている。今年の前半に訪日できるよう調整している」と述べた。三村団長は「両国の経済関係を深化させるためには、自由貿易の構築、第三国でのさまざまな共同プロジェクト、水素サプライチェーンを含めた資源・エネルギー分野の協力推進の3点が重要」と説明し、「安倍首相はインド太平洋地域でリーダーシップを発揮できる優れた人だ。この地域での経済圏を形成する可能性が生まれた。インド太平洋にはインドネシア、インド、日本、米国、韓国など重要なパートナーが数多く存在している。このインド太平洋地域におけるつながり、相互依存関係を確立したい」と語った。
その後、北村副団長(国際石油開発帝石)によるイクシスプロジェクトの進ちょく状況の説明に対し、モリソン首相から投資への感謝とプロジェクトへの期待が述べられた。
最後に、モリソン首相が日本経済界の日豪関係のための努力に対する謝辞を述べた後、安倍夫妻との夫婦での再会と東京オリンピック成功への期待が語られた。
テイラーエネルギー・温室効果ガス・排出量削減大臣 CO2の削減と成長を両立
2月5日午前、国会議事堂にテイラー大臣を表敬訪問した。
冒頭、三村団長からあいさつとともに連邦政府による国家のエネルギー政策の取りまとめの必要性についての問題提起がなされた上で、北村副団長(国際石油開発帝石)と倉内顧問(三菱UFJ銀行)、平井団員(双日)らが事業を説明し、その中で「温室効果ガス排出削減のためのLNG利用の必要性に対する国民理解の重要性」が語られた。
これに対して、テイラー大臣は「われわれのチャレンジは、ガス供給に加えて水素を活用した新たなサプライチェーンを構築することであり、日本企業にも協力してもらう必要がある」「連邦政府としては州政府と連携して、CO2の排出削減を推進していく」「パリ協定の目標にコミットして2030年までに26%の排出量削減を目標としている。その目標を達成するために経済が減速するようなことがあってはならない。CO2排出ゼロと経済成長は両立させる」「各州に天然ガス利用を促しながら再生可能エネルギーに移行していく」「水素燃料の開発には、精製、輸送、貯蔵に課題があるが、将来の重要なエネルギーであり、水素燃料を輸出できるまでに事業を育てたい」と語った。
バーミンガム貿易・観光・投資大臣 森林火災のリカバリーに支援を
2月5日午後、国会議事堂にバーミンガム大臣を表敬訪問した。
今井団員(伊藤忠商事)から自社の豪州における事業概要について説明がなされた後、藤田団員(日本航空)から、森林火災へのお見舞いとともに「森林火災の影響を受けた豪州の観光業のリカバリーと被災した地域への視察ツアーなどのサポートをする」ことが述べられた。
アンドリュース産業・科学・技術大臣 宇宙産業、日常にも恩恵
2月5日午後、国会議事堂にアンドリュース大臣を表敬訪問した。
冒頭、三村団長から、日豪間で「イノベーション・フレームワーク」の下、医療、AIおよびスマートシティーのためのIoTなどで二国間協力が進んでいること、オーストラリア政府が宇宙庁を創設し、宇宙産業の強化に取り組んでいること、これが産業分野のみならず日常生活にも恩恵をもたらすとの考えを述べた。
これに対してアンドリュース大臣は「日豪間の協力のチャンスは多い」「宇宙分野では森林火災などの自然災害に地球観測やGPSを活用できる。他国とのパートナーシップを通じてさまざまな技術を利用できれば、災害時の安全確保、通信の確保ができ、適切な避難誘導が可能になる」「今年の後半、日本に行くのでこの続きを議論したい」と語った。
バーACT首席大臣 高等教育機関に投資を
2月5日午後、在オーストラリア日本大使館を訪れたバー大臣を表敬訪問した。
バー大臣は、首都地域の業務、キャンベラ地域の概要を説明した上で、「オーストラリア国立大学(ANU)、NSW大学キャンベラキャンパス、キャンベラ大学、キャンベラ工科大学など高等教育機関が充実し、学術レベルは国内最高」「キャンベラは国防の拠点であり、サイバーセキュリティー、情報通信研究も行われている。宇宙関連企業の4分の1はキャンベラにあり、ANUやNSW大学が宇宙研究を行っている。政府や大学をパートナーとした事業も多く投資のチャンスも多くある」と語った。
ベレジクリアンニューサウスウェールズ(NSW)州首相、エアーズ雇用・投資・観光大臣 西シドニー開発へ参加を
2月6日午後、NSW州議事堂にベレジクリアンNSW州首相、エアーズ雇用・投資・観光大臣を表敬訪問した。
冒頭、三村団長が森林火災へのお見舞いとNSW州プレゼンテーション開催のお礼を述べた後、西シドニー開発計画に関してファウンデーションパートナーとしてNSW州政府とMOUを締結した4社(UR、三井住友銀行、日立製作所、三菱重工)から、「各プロジェクト(空港、鉄道、道路などの関連インフラ)がシナジー効果(相乗効果)を発揮するために、各プロジェクトチーム代表者によるステアリング・コミッティーの設立」「プロジェクトへの企業参加を促すために、NSW州の知名度の向上に向けた努力」「デジタル技術を利活用し住民の生活の質を向上させるために、公的機関所有データを関係者間で共有する枠組みの創設」「エネルギーを所管する官庁の権限や縦割りのバランス調整」といった意見・要望が政府に対して述べられた。
ベレジクリアンNSW州首相からは、「日本に新たにトレードコミッショナーを設置して日本企業のサポートをする」との説明とともに、西シドニー開発への参加への謝辞が述べられた。また、この後、開催された州政府・豪日経済委員会によるレセプションでのあいさつで、同首相は、森林火災に対する日本政府・企業の支援、西シドニー開発プロジェクトへの参画、州に対する日本企業の経済面での貢献に対して、改めて謝辞を述べた。
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