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まちの視点 価格で売るから、価値で売れるへ

長野・飯綱町の丘に立つサンクゼール本店。創業の志〝田舎の豊かさ、心地よさ〟を体現している

安さや値引きばかりを訴求する店には、そうした価格を目当てにするお客のみが集まる。他店の方が安ければ、そうしたお客はすぐに離れていく。

安さを追求する商いには資本力や企業規模が必要とされ、しかもその勝者は限られる。一方、独自の価値を追求する商いにおいてそれらは必ずしも必要でなく、しかも価値は多様であるから生きていく道も多様だ。

利益を削って「価格で売る商売」から、適正な利益を得て「価値で売れる商売」への転換が求められる今日、そうした取り組みで成果を上げる店を取材した。

創業の志への回帰

年商53億円、全国に64店を展開、食を通じて〝田舎の豊かさ、心地よさ〟を提供する食品製造小売業「サンクゼール」の歴史は、一つの手づくりジャムから始まった。

創業者の久世良三さんは昭和50年、かねてからの夢を叶え、長野県の斑尾高原でペンションを開業。そこで出会った妻のまゆみさんと共に励むものの、あまりの多忙さで家族生活がないがしろになることから経営を断念。ペンションの宿泊客に好評だったまゆみさんの手づくりジャムの販売を始めた。

経営が軌道に乗り始めたころ、夫妻はジャム事業の視察と、行っていなかった新婚旅行を兼ねて、ブルゴーニュ、ボルドーといったフランスの代表的な田舎を回った。そこで「歴史的にも有名なワインがこの田舎で、誇りを持った人たちによってつくられ、世界中に輸出されて付加価値が付いている」という姿に触れて感動した久世さんは、彼らの姿に自らのビジョンを重ね合わせた。

帰国後、長野県北部にある飯綱町の丘にジャム工場を建て、シードルやワインづくりのために農業生産法人を設立、自ら農業者となった。苦労の末にワイン醸造免許を取得し、レストラン事業も始めた。

しかし、ジャム事業以外は赤字が続き、借金は年商を優に超えるまでに膨らんだ。なんとか売上をつくろうと観光バスを誘致し、言われるままに観光客が購入するお土産品として漬物やまんじゅうも販売した。価格も安さを打ち出すようになっていた。

そんなある日、久世さんは「創業の原点に戻って本物を伝えよう」と決意し、ワイン醸造には自社畑や国内契約農家のぶどうを使い、その他の商品も化学調味料や防腐剤を入れないなど、本物のおいしさを追求。「本物を知らなければ本物をつくることはできない」と、社員にもヨーロッパやアメリカなどへの海外研修を実施して、本物を体験させている。こうした取り組みの結果として、今日の繁盛への道を歩んでいくこととなった。

勇気と努力の時代

久世さんが歩んできた事業の道のりを振り返るとき、小社創立者、倉本長治の遺した次の一文を思い起こす。

「他店より高く売るには勇気がいる。競合店より良い品を扱うには努力がいる。

同じ商品を格安に売っても経営が成り立つというには、相当の自信が必要であるし、ムリして安値を出すようでは、見せかけの廉売で本物の商売ではない。売価が安いということは、仕入れの安さの裏付けと、つつましいムダのない経営が伴わなければなるまい。

その点では、他店より高く売るためには、ただその勇気があればたりる。しかし、競争店よりも品質の良い品を売る段になると、それは勇気だけではダメだ。なみなみならぬ努力がいる。 商人の仕事に限らず、努力を伴うものほど人間にとってやり甲斐のあるものはない。それをやりとげた時こそ愉快であり、壮快なものである。商人の喜びは、そういうところにある」

いま、商人にはこうした勇気と努力が求められている。

(笹井清範・『商業界』編集長)

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