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まちの視点 ポストコロナ時代の商い

「パンデミックという深刻な危機に直面した今こそ〝他者のために生きる〟という人間の本質に立ち返らねばならない」

こう語るのは、ヨーロッパを代表する知性であり、フランスの経済学者・思想家のジャック・アタリ氏。フランス政権の頭脳として長く政権中枢で代え難い役割を果たしてきた人物である。先日、NHKの特番「パンデミックが変える世界」の中で、人類はどのようにして新型コロナウイルスを克服していくべきかというインタビュアーの問いに答えていた。

「利他主義という理想への転換こそが人類のサバイバルの鍵である」

利他主義とは善悪を優先すること

「損得より先に善悪を考えよう」

アタリ氏の発言を聞いて思い起こしたのが、昭和を代表する商業経営指導者、倉本長治が唱えた商人の行動訓「商売十訓」の第一項である。

自分にとっての「損得」より、他者にとっての「善悪」を優先する倉本の思想は、まさに利他主義の重要性をうたったもの。アタリ氏が提唱するポストコロナ時代の理念を、私たちはすでに心の中心に置き、実践に努めてきたことを忘れてならない。

コロナ災禍後、あらゆる産業は大きく自己変革を求められるだろう。これまでのように単に物財を生産または流通する機能だけを果たしてきた企業の存在意義は急速に色あせていく。生活者はコロナに向き合う過程で、自分にとって本当に必要な企業をその実践する理念によって知るからである。

規模が大きいとか小さいとかは関係ない。否、小さいからこそできることがあり、小さいからこそ変革が容易でもある。必要なのは、なんとしても生き延びるという意思と、あなたが大切にしたいお客さまに自分が何を提供できるかを改めて考え、実行する意欲にほかならない。

商いの北極星を見つめよう

航海する上で欠かせないものに座標軸がある。港をこぎ出して外洋に出ても、陸が見えている限り、自分がどこにいるかは分かる。しかし、陸を遠く離れ、周りに海しか見えなくなったとき、自分がどこにいるのか分からなくなる。

そんなとき頼りになるのが空に輝く太陽や月であり、夜空を飾る星々だ。特に北極星は常に動かずに、進むべき道を示してくれる存在である。それを折々に確認すれば、自分の位置と進むべき方向が分かる。

商いにも、そんな北極星がある。コロナという嵐で大荒れの中、経営の方針をどこに置き、何を大切にして、どこに向かって進むべきかに悩んだとき、空を見上げるように確認してほしいのが次の表だ。中央には事業を営む者が確認すべき座標軸を置き、左側にはこれまで通用した戦略と戦術を示した。ポストコロナでアタリ氏が提唱する利他主義の時代に、重要性を増すのが右側の在り方とやり方である。

例えば、経営目的で「利(損得)」のみに目を向けるのか、「義(善悪)」を優先するのか。行動軸を「他店・業界動向」に置くのか、「自店の顧客」に置くのか。こうした立ち位置の違いは、商いのありように大きな違いを生み出し、異なる結果をもたらすだろう。

右側に基づいて商いを実践したいところだが、軸がぶれるのが人の常。だからこそ学び、行いを通じて軸を確認、いま自分がどこに立っているのか見つめ直し、どこに向かおうとしているのかを知るべきなのである。コロナ災禍は私たちにその機会を与えてくれたのだと受け止めるべきである。

(『商業界』前編集長・笹井清範)

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