創業13年目、埼玉・北浦和を拠点に5店舗を展開し、「家族の笑顔」をテーマに婦人服、子供服と雑貨を商う「COSUCOJI(コスコジ)」を営む小杉光司さんを久しぶりに訪ねたのは今年の初め。10年前に取材したときと品ぞろえは変わっていても、同店のミッションである「家族の笑顔」の実現にさらに磨きがかかっていることを確認した矢先、新型コロナウイルスが日本社会を襲い、多くの店が危機に直面している。
店はなぜ滅ぶのか?
2020年版「中小企業白書」によると、小売業、宿泊業・飲食サービス業という実店舗ビジネスは廃業率で上位を占めており、開業率も高いという“多産多死”の業種であり、労働生産性も高くはない。多くの起業者が夢を追い、そして夢破れていく現実がある。
小杉さんもここまで、けっして順風満帆な航海ではなかった。加えて襲いかかったのが、新型コロナウイルス禍である。それでも彼は事業理念を見失うことなく、大切なものを大切にし続けている。理念を全ての店に張り出している理由を、彼は自身のブログに次のようにつづっている。
「本当にいろいろなことがあると、俺は何のためにこのお店を始めたんだっけなって、よく分からなくなる時があるのね。そんな時にこの理念を何度も何度も読み返してきたの。今でもそう。立ち返るの。オープンしたあの日に。僕は戻れる」
本日開店の朝に誓った志を忘れないため、迷ったら原点に戻るため、コスコジでは事業理念を掲げているという。
昭和を代表する商業経営指導者・倉本長治は、店と顧客と従業員、そして店主を次のように定義している。今では、顧客満足、従業員満足を誰もが声高にうたうが、終戦直後の日本において、いや世界中を見渡しても、彼の提起は極めて革新的であり本質的だった。
店は客のためにあり
店員と共に栄え
店主と共に滅びる
一行目は顧客満足であり、これこそ店の目的である。二行目は従業員満足を示しており、関わる人たちを幸せにすることを経営の使命と位置づけている。
そして三行目では創業の理念の大切さを説いている。創業時にゼロから何かを生み出そうとした“熱い志”を失ったとき、店はあっけなく滅びるのだと倉本はいさめている。
理念と事業の言行一致
新型コロナウイルス禍を乗り越えるために、小杉さんがまず行ったのがスタッフへの物心両面にわたる支援だった。その狙いは、接客という感染リスクを伴う業務につくスタッフに安心して休職してもらうことで、その家族の笑顔を守ること。つまり、そこには事業理念の裏づけがある。
資金繰りの手当て、テナント賃料の減額交渉、仕入れ先との納品・支払いの調整を済ませると、コスコジは4月19日より休業。スタッフへはその間の給与を100%保障し、休業中も小杉さんはスタッフ一人一人とコミュニケーションを取り続けた。
次に取り組んだのが、この災禍をきっかけにした事業の見直しである。「何があっても誰かのせいにせず、自分でやるべきことをやるだけです。そのとき大切なのは目先のことではなく、将来を見据えた事業のアップデートです」という小杉さんが店長たちと行うのが、品ぞろえ、店舗運営、販促などあらゆる業務の再構築である。
これまでにも、大切なものを守るために変わることを小杉さんは恐れなかった。否、恐れたかもしれないが、それでも高い壁を乗り越えてきた。品ぞろえを変えたのも、一つ一つ丁寧に店を増やしてきたことも、常に革新してきた同店の歴史であり、その営みに終わりはない。
休業明け、「業績は堅調」と小杉さん。同店を愛する顧客とスタッフとの絆がさらに固く結ばれたところに、その要因はあるようだ。
(『商業界』元編集長・笹井清範)
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