日本商工会議所は13日、提言「国と地域の再生に向けた観光振興について」を取りまとめ、関係各方面に提出し、提言内容の実現を働き掛けた。提言では、地方創生の観点から重点的に取り組む事項として、地域観光の核となる「交流拠点都市」(仮称)の構築による全国各地への旅行者の分散・拡大の推進などを盛り込み、「国内観光」と「インバウンド」の両輪による観光振興の促進などを訴えている。(関連記事はこちら)
Ⅰ 基本的な考え方
観光は、地域社会の価値向上と、需要拡大、雇用創出など地域経済の活性化をもたらす。観光振興は、地方創生の重要な鍵であり、日本の経済再生の原動力といっても過言ではない。
訪日ビザ発給要件の緩和、免税制度の見直しや円安などによって伸びがみられるインバウンドに比べ、わが国観光消費額の約9割を占める国内(居住者)の観光は、低迷から脱しえていない。また、内外旅行者は、首都圏や関西圏などの大都市圏に集中する傾向が目立ち、その効果に地域格差が見られる。
観光を地方創生に最大限生かすためには、旅行者を全国各地に幅広く分散・拡大させ、均衡のとれた観光を推進していくことが必要である。
以上の考えに基づき、以下の3つの観点から、提言を取りまとめている。
1.「国内観光」と「インバウンド」の両輪による観光振興の促進
2.観光関連産業のイノベーション促進と地域内産業間の連携と協働
3.関係府省庁、国と自治体、自治体間の垣根を越えた推進体制の構築・強化
Ⅲ 全国的な取り組みに関する具体的な要望事項
1.「国内観光」と「インバウンド」の両輪による観光振興の促進
(1)社会資本の整備・活用と連動した観光振興の推進
①まち歩きに適した歩行者空間の整備
②歴史的建造物、特別史跡などを観光資源として活用するための利用許可基準の緩和
③「空き建築物」を観光資源として有効活用するための規制の見直し
④電線の地中化・無電柱化の推進
⑤水辺空間の整備と舟運ネットワークの構築
(2)市町村域、県域を越えた広域連携観光の促進
①「観光」と「まちづくり」の関係機関の協働促進
②二次交通網の整備による地域への誘客促進
(3)地域におけるニューツーリズムの推進
(4)日本人の国内観光需要の喚起
①体験型プログラムを取り入れた国内教育旅行の促進
②地域の観光資源としてのプロスポーツの有効活用
(5)空港・港湾の整備・強化
①国際拠点空港の容量拡大・整備、地方空港とのネットワークの強化
②港湾の整備促進によるクルーズ船の受け入れ拡大
(6)訪日ビザ発給要件などのさらなる緩和
①訪日ビザ発給要件の緩和
②外国人の長期滞在促進に向けた在留資格の見直し
③寄港地上陸許可制度などの活用による訪日外国人旅行者の増大
(7)空港・港湾における出入国手続きの迅速化・円滑化
(8)訪日外国人旅行者受け入れ促進のための環境整備
①免税店の拡大に向けた制度の周知徹底と許可要件の明確化
②観光案内所の増設および観光案内機能の強化
③観光案内などの多言語対応推進に向けた支援強化
④公共交通機関における多言語表示・アナウンスの拡充
⑤対象国ごとの対応マニュアルの作成と普及
(9)「クールジャパン」や「ビジット・ジャパン」と連動した海外観光プロモーションの強化
(10)ビジネス需要の拡大と地域活性化に向けたMICEの促進
①地方都市へのMICE誘致の促進
②MICEに関する一元的な情報収集・提供体制の構築
③MICEの魅力向上に向けたユニークベニュー・公共空間の活用促進
(11)日本人の旅行需要喚起によるツーウェイツーリズムの実現
(12)観光を通じた東日本大震災被災地復興の促進
(13)2020年オリンピック・パラリンピック開催効果の全国への波及
2.観光関連産業のイノベーション促進と地域内産業間の連携と協働
(1)観光統計の整備と利用の促進
(2)地域限定旅行業への参入促進
(3)ツアーオペレーターの資質向上に向けた認証制度の普及
(4)耐震改修支援など旅館の活性化の促進
(5)観光人材の育成
①通訳案内士の育成強化と特例ガイドの全国への認定拡大
②観光ボランティアの育成
③外国人技能実習制度の活用
④外国人学生に対する就労活動の制限緩和
(6)規制などの撤廃・緩和
①貸切バスの営業区域規制および料金制度の緩和に関する道路運送法の改定
②国際観光ホテル整備法の改定
③水辺空間活用促進のための河川占用許可期間の延長
④河川観光船の弾力的な運航を促進する海上運送法の規制緩和
3.関係府省庁、国と自治体、自治体間の垣根を越えた推進体制の構築・強化
(1)観光庁の観光施策に関する総合調整・情報発信機能の強化
(2)観光振興に関する予算の拡充
(3)国、地方自治体、民間事業者間のさらなる連携強化
(4)JNTO(日本政府観光局)の機能強化
(5)旅行者に対する危機管理体制の構築
Ⅱ 地方創生の観点から重点的に取り組むべき事項
1.交流拠点都市の構築による観光の振興
●地域観光の核となる「交流拠点都市」を国が指定し、税財政措置などの重点的支援により、そこを拠点として周辺地域に旅行者を行き渡らせる。併せて、戦略的プロモーションの推進により、国全体の観光の量的・質的充実を目指す。
(1)交流拠点都市の指定に備えるべき要件
政府は、原則として以下の条件を満たす都市を「交流拠点都市」として、公募により10カ所程度を指定する。
○成田、関西、羽田、福岡、中部、新千歳、那覇の7空港に次ぐ国際線就航が可能な地方空港や高速道路、新幹線等の高速鉄道が利用可能な都市。
○自地域内や周辺地域に優れた観光資源を有し、二次交通などのアクセス、宿泊施設の容量など、周辺地域を含めて、内外の旅行者を集客することが潜在的に可能な都市。
○インバウンドとアウトバウンド(日本人の海外旅行)の双方向の送客システム(ツーウェイツーリズム)の構築が見込まれる都市。
(2)交流拠点都市における取り組み
交流拠点都市の自治体は、空港、航空会社、鉄道会社、旅行会社、商工会議所、関係団体などと連携して、以下の取り組みを推進する。
【交流ネットワークの強化】
○首都圏空港・国際拠点空港などと、交流拠点都市もしくは隣接都市に所在する地方空港との航空ネットワークの促進、ならびに同地方空港へのチャーター便やLCC誘致など路線の拡大を図る。
○三大都市圏などとの高速鉄道や高速バスなどによるネットワークの促進、路線の拡大を図る。
○地方空港や高速鉄道の拠点駅などから、周辺地域への二次交通(バス、鉄道)の整備を推進する。
【地域の観光開発、魅力の向上】
○免税店の増大によるショッピングツーリズムの推進など地域での観光関連消費の拡大を図る。
○地域の観光資源を磨き上げ、産業観光、エコツーリズム、医療観光、スポーツツーリズムなど、地域特性に応じた新しい観光開発を促進する。
○税制・財政などの優遇措置を活用し、ホテルなどの観光施設の開発・誘致、観光関連産業の育成を促進する。
【広報・プロモーションの強化】
○インバウンドの誘致対象国を定め、JNTOおよびクールジャパン機構との連携により、海外から交流拠点都市への誘客促進のキャンペーン、ファムトリップなどのプロモーションを推進・強化する。
(3)交流拠点都市に対する政府の支援
①交流拠点都市に必要な財政・金融・税制上の措置を講じるものとする。
【想定される支援策】
・交流拠点都市と周辺地域を結ぶ二次交通や、交流拠点都市内の鉄道・バスなどの交通システムの育成・強化への重点的な支援
・ターゲットとするインバウンド対象国からの旅行会社・航空会社の招へい、旅行客誘致戦略の策定・実施に関する専門家の派遣など、誘致活動への強力な支援
・海外メディアにおける交流拠点都市・周辺地域の特集番組の放映、主要誌への掲載、国際展示会への出展、海外メディアの当該地域への招へいなど、拠点地域に特化した海外プロモーション事業実施への支援
・その他、交流拠点都市が計画する事業に対する必要な支援
・ホテル、旅館、土産品小売店、飲食店など観光関連施設の新設、増設に必要な設備資金の低利融資・利子補給・観光関連事業の創業に必要な運転資金の低利融資
・観光関連施設・設備の投資に対する法人税の特別償却または税額控除および特例措置を受ける事業実施者の所得控除
②国家戦略特区、総合特区、構造改革特区、観光圏などで実施されている観光関連の特例措置を、交流拠点都市において、全国に先駆け先行適用する。 なお、上記支援に必要な立法措置を講じるものとする。
2.観光ネットワークの構築による観光の広域展開
●周辺地域においては、業種を越えた連携・協働関係の構築などにより、地域固有の資源を生かした新たな観光商品・サービスの開発を推進していくことが必要である。
(1)周辺地域の重要性
○訪日外国人旅行者を広く各地に行き渡らせるためには、大都市や交流拠点都市などからの旅行者の受け入れ先となる魅力ある周辺地域が必要・不可欠である。
○同周辺地域は、地域資源を活用した観光開発などにより、まずは、国内旅行者の集客において競争力を備えていることが必要である。
(2)周辺地域における取り組み
○交流拠点都市とその周辺地域は、地域の特色を活かした観光圏を形成し、さまざまな観光商品・観光サービスの造成・開発を促進する。
○周辺地域においては、歴史・文化・伝統・産業を生かした教育旅行・体験ツアーや、自然や食を生かしたグリーンツーリズムなど、旅行者のニーズに対応して、地域資源を活用した新たな観光商品・サービスの開発を促進する。
○交流拠点都市および他の周辺地域と連携のうえ、宿泊を伴う観光あるいは日帰り観光のいずれをターゲットとするかなど、地域の特性、実情に適した観光戦略を策定・推進する。
○交流拠点都市および他の周辺地域との連携により、それぞれの地域にしかない観光資源や祭りなど、期間限定の観光商品や季節ごとのイベントを組み合わせることで、旅行者の訪問時期や地域を分散化させ、地域全体の観光のボリュームの拡大を図る。
○交流拠点都市などを軸とした、2地点間のライン型からその発展型となる3地点間のトライアングル型、それ以上の多地点間のラウンド型など、地域の特色を反映した広域観光ルートを開発し、情報発信・受け入れ体制の整備を図る。
(3)周辺地域に対する政府の支援
・地域における観光戦略策定の参考となる観光統計データの整備・提供
・ニューツーリズム開発のための専門家の派遣などの支援
・地域資源を活用した特産品、観光商品の開発のための支援の拡充・コミュニティバスなどの域内交通システム整備への支援
なお、訪日外国人旅行者の主たる入口となっている三大都市圏や豊富な国際路線を有する空港の所在都市においては、空港とそのアクセス整備、CIQのさらなる改善、多言語案内表示や無料公衆無線LANの一層の向上など、グローバル観光都市としての受け入れ体制の強化が必要である。
3.観光関連産業のイノベーションと産業間連携の促進
●「観光客数」のみならず、観光関連産業を通じて「観光消費額」を拡大させ、地域経済の活性化につなげる。
(1)観光関連産業の育成・強化
○自然・風景、コト(歴史・伝統・芸能・文化)、食など地域固有の資源を、ストーリーを付けて編集・開発し、域外から多くの人々を呼び込むことは、地域に消費・雇用の拡大などの経済的な効果をもたらすだけでなく、地域文化の普及、向上にもつながる。こうした点を踏まえ、観光関連産業を育成していくことが必要である。
○それぞれの地域における産業特性を踏まえつつ、観光を通じたさまざまな産業の協働・補完体制を構築し、地域内の雇用の拡大、投資の促進につなげていくことが必要である。
○工場視察、農作業体験など、それぞれの産業の観光要素を有する取り組みを推進し、ビジネスにつなげることで、産業のイノベーションを図っていくことが重要である。
○歴史的建造物や文化施設のレストラン、カフェなどとしての利用など、地域素材の新たな観光資源としての有効活用の促進が求められる。そうした取り組みにより起業した中小・零細企業を、観光クラスターとして形成することにより、魅力的な観光の創造と地域産業の育成を促進する。
○地域内のインフラ整備、都市機能強化という観点から、地元自治体、関係団体、住民の協働による、まちづくりと一体となった観光振興の取り組みが重要である。
○こうした観光関連産業の育成や観光を通じた多様な産業の協働・補完体制の構築には、人材が不可欠であり、自治体、大学、専門学校、企業などが一体となった人材育成の仕組みづくりが必要である。
(2)政府による支援・観光関連産業の創業や企業育成のための財政・税制上の支援
・観光人材の育成に向けた研修システム、助成制度の構築などの支援
・PPP(官民パートナーシップ)の推進による公用・公共保存施設や公用地などの観光振興への活用の促進
・地域の観光素材となる郷土芸能・文化・祭りなどの保存・育成のための補助・助成制度の拡充
・農山漁村体験ツアーの促進に向けた旅行業法の見直し
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