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こうしてヒット商品は生まれた! 大人の鉛筆

素朴な木目の風合いを生かした大人の鉛筆(中央)は、ボディ部に着色を施した「彩(いろどり)」(両側)など新シリーズも展開中。単品で580円、専用の削り器とセットで680円(ともに税抜き)

昭和26年に鉛筆中心の文房具メーカーとして誕生した北星鉛筆が、創業60周年を記念して開発・製造した「大人の鉛筆」。鉛筆ともシャープペンシルともいえぬ外見ながら、書き心地の良さや使い込むほど手になじむつくりがファンを獲得し、発売から3年間で、こうした商材では破格の60万本を売り上げ、快進撃を続けている。

工場見学者のひと言がきっかけに

子どもたちの使う筆記具。シャープペンシルが鉛筆に取って代わったのは、いったいいつのころからだろうか。

「昭和50年を過ぎたあたりでしょうか。シャープペンシル自体はその60年ほど前に日本に誕生していたんですが、50年代に入ると性能が上がって0・5㎜の細い芯でも折れなくなり、急速に普及していったんです」と専務取締役の杉谷龍一さんは説明する。

そうした変化から、昭和30年代をピークに鉛筆の出荷数は下降線をたどり、現在は3分の1にまで減少。同社の業績も落ち込み、製作過程で出るおがくずを利用したねん土を開発するなど経営努力を続けてきた。

また、鉛筆が東京の地場産業であることをもっと世にアピールしようと、平成22年に、鉛筆の歴史や製造過程を学ぶことができる「東京ペンシルラボ」を工場の隣に開設。工場見学ブームの追い風もあり、来場者は徐々に増えていった。

そんなある日、子どもを連れて見学に来ていた母親のひと言が杉谷さんの耳に残った。「大人向けの鉛筆があればいいのに」というつぶやきだった。

「長年小学生向けの鉛筆をメーンにつくってきたので、大人向けといわれても難しいなというのが正直な感想でしたが、新たな可能性も感じました。当社は昭和29年に『ノーカットペンシル』という、芯を押し出す方式の鉛筆を発売したことがあるんですが、それを創業60周年の記念製品として復活させてはどうだろうかと社長が乗り気になったんです」

地元の会社と連携して「最高の書き味」を目指す

鉛筆は、芯とそれを挟む軸が一体になっているが、同社がかつて開発したノーカットペンシルは、芯が軸の中をスライドする仕組みになっており、必要に応じて出した芯をホルダーで固定して使うというものだった。当時はまだ鉛筆の方が一般的だったことや、紙に強く押し当てると芯が凹むことがあるなどの難点があったため、わずか1年で販売終了となった。だが、改良すれば鉛筆とシャープペンシルの良さを併せ持つ商品になると考えた杉谷さんは開発に着手した。

社長で父の杉谷和俊さんとともにアイデアを出し合い、軸には使い込むほど手になじむアメリカ産の木材・インセンスシダーを採用。芯には折れにくく書き味滑らかな2㎜芯を用いて、シャープペンシル同様のノック式にすることを決めた。

製作過程で特に苦労したのが、芯をくわえ込む「メカ」と呼ばれる部分だという。緩ければ紙に強く押し当てたとき凹んでしまうし、きついとノックしづらい。書き味を左右する要の部分だけに、都内のメカ専門工場に依頼し、試作を繰り返した。また、ノックキャップ(ノックする部分)やクリップ、芯削り器の歯といった金属部分も、区内の金属加工会社と共同で開発を進めた。

「軸づくりや組み立ては当社が行いましたが、既存の製造ラインを工夫して使ったので、ほとんど設備投資をせずにすみました。芯削り器も1からつくると金型代がかかるので、シャープペンシルの芯ケースをそのまま活用するなど、なるべくコストをかけずにつくり、その分価格を低く抑えることもコンセプトのひとつでした」

こうして「鉛筆屋による、鉛筆好きのための筆記具」は完成し、「大人の鉛筆」という名前で平成23年4月に発売した。

シンプルなデザインが「大人」の支持を得た

発売当初は従来の販路に限られていたため、新たな消費者の目に留まる機会が少なかった。しかし、その年の7月に日本文具大賞・デザイン部門優秀賞を受賞したのを機に人気に火がついた。東急ハンズなどの大手量販店で扱われるようになり、雑誌などでも取り上げられたことから知名度が上昇。半年で3万本を売り上げた。

「当社にはデザイナーがいないので、地の色をどうするか、社名や絵柄を印刷するかなどずいぶん悩みました。結局シンプルが一番ということで木目の風合いをそのまま生かし、色も印字もないデザインに落ち着きました。そこが評価されたのが、なんだか不思議な気分でしたね」と杉谷さんは振り返る。

そのシンプルさが奏功し、店舗販売のほかにもイベントや企業の記念品として特注品のオーダーが舞い込むようになる。工場見学にも年間1万人近くが訪れるようになり、お土産に買っていく人も増えた。

その後も、詩や俳句、写譜など趣味に活用する団塊世代を中心にコンスタントな売れ行きを保っていた。さらに昨年3月に、商品をランキング形式で紹介するテレビ番組で取り上げられると、人気が爆発。現在までの累計販売本数は60万本を超えた。

「こんなに売れるとは思っていませんでしたが、大人の鉛筆のおかげで会社の業績も10%ほどアップしました。もちろんそれも目的の一つですが、私たちが真に目指しているのは、鉛筆をつくり続けること。先代の残した『我が身を削って、人のためになり、真ん中に一本芯が通っている。そんな人間形 成をするために鉛筆は必要。だから利益のためだけでなく続けろ』という言葉を守るために、これまでずっとがんばってきました。鉛筆づくりというのは分業制で、軸の製作、芯の製作、色付けなど、各工程を請け負う会社が連携してできあがります。そうした会社が葛飾区にはたくさんある。当社だけ でなく、地域が今後も鉛筆をつくり続けるにはどうしたらいいか、考え続けていきたいです」

それを実践すべく、同社はスマートフォンやタブレットなどに使えるタッチペン機能付きの姉妹品など、時代に合った新商品を発売。じわじわと売り上げを伸ばしているという。

IT機器がどんなに普及しても、文字を書く文化は廃れないでほしい。そう願う人のためにも、書くことが楽しくなる筆記具のさらなる誕生を応援したい。

(文・和田 真弓)

会社データ

社名:北星鉛筆 株式会社

住所:東京都葛飾区四つ木1-23-11

代表者:杉谷和俊 代表取締役社長

創業:昭和26年

資本金:6000万円

従業員:28人

※月刊石垣2014年4月号に掲載された記事です。

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