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こうしてヒット商品は生まれた! ドッグバス

ペット用入浴剤「ドッグバス」タブレットタイプ。ピュアシャンプーやフローラルソープなど4種類の香りがある。1袋14錠入りで1296円(税込)

明治43年に蚊取り線香の製造で創業した紀陽除虫菊。自然由来の成分を生かし、「人や環境に優しい」をモットーに、防虫剤や害虫駆除剤、洗浄剤、入浴剤などを次々と生み出してきた。その中で注目を集めているのが、「ドッグバス」だ。文字通り犬用の入浴剤だが、市場ニーズは限定的との当初予測を覆し、ペットサロンなどを中心にタブレットタイプが8万錠、パウダータイプが30万包と売れ行きを伸ばしている。

蚊取り線香メーカーがつくった犬用入浴剤

和歌山県の北部沿岸部に位置する海南市は、古くから工芸のまちとして紀州漆器や和傘づくりが盛んな一方、たわしやスポンジといった家庭で使われる日用品の一大産地としても知られる。そんな地に、蚊取り線香の製造で明治43年に創業したのが紀陽除虫菊だ。社名にある「除虫菊」とは、蚊取り線香の主原料に使用されている花で、和名を「シロバナムシヨケギク」という。マーガレットに似た白く可憐な外見をしているが、花の子房には天然殺虫成分「ピレトリン」が含まれており、人間には毒性がないため、昔から虫よけとして用いられてきた。

「戦後、合成殺虫剤が登場してからは、除虫菊の蚊取り線香はめっきり姿を見なくなりました。しかし、当社では今も天然の除虫菊末を主原料とし、とうもろこしのでんぷんなどをつなぎに使って、人にも環境にも優しい蚊取り線香をつくり続けています」と同社社長の小久保好章さんは説明する。

そうした企業理念の下、防虫剤や害虫駆除剤、洗浄剤や入浴剤などを製造販売してきた同社が、昨年の5月に発売した新商品は意表を突くものだ。

それは犬専用の入浴剤で、名前も分かりやすく「ドッグバス」。ペット用のバスタブに30~38℃のお湯を入れて商品を溶かし、そこに犬を浸からせるだけ。すると重炭酸イオンの湯が皮膚や毛穴、被毛(動物の体を覆う毛)の汚れをきれいにし、炭酸ガスが血行を促進。セラミドとアミノ酸の働きで保湿効果があり、毛並みもよくなる。さらにすすぎが不要なので、入浴後すぐに乾かすことができ、心地よい芳香でリラックス効果も得られるという。犬にとっても飼い主にとっても、まさに至れり尽くせりの商品なのである。

ペットサロンからの問い合わせがきっかけ

商品開発のきっかけは、地元のペットサロンからの問い合わせだった。「ペットも高齢化してきて、シャンプーをするにも負担が掛かってしまう。それを軽減して、健康にも良いペット用品はないか」というものだ。予想外のオーダーではあったが、同社では長年入浴剤を扱ってきたこともあり、大手ペットショップの現場の意見などのヒアリングを試みた。

「何度目かのミーティングで、体臭のきつい犬や老犬には、人間用の入浴剤をシャンプー前に使用したり、シャンプー後の仕上げに使ったりするという有益な情報を聞くことができました。入浴剤を使うと、なぜかシャンプーの泡立ちがよく、被毛もフワフワになるというんです。そもそも入浴剤には、重曹や芒硝(ぼうしょう・硫酸ナトリウム)が使われていて、皮膚の老廃物や皮脂を除去して新陳代謝を活発にしたり、血流を促す作用があるので、犬用にも応用できると確信しました」

同社ではすでに、重曹とクエン酸を固めた硬質のタブレット入浴剤の製造に成功しており、技術的な不安はなかった。しかし、犬用入浴剤の市場ニーズは未知数である。実際、犬の散歩をしている飼い主などに意見を求めたところ、10人中9人に「犬用の入浴剤?」と冷笑された。

「一つ間違うと、ニッチを狙いすぎた〝オタク商品〟になってしまうリスクがありました。しかし、私自身数々の家庭日用品を扱ってきた経験から、市場の常識に一石を投じるおもしろい商品になるんじゃないかと思ったんです」

こうして平成26年2月、開発に着手した。

予想を越える反響に海外進出も視野へ

開発の過程で問題となったのは、犬の皮膚の厚みが人間の皮膚の3分の1から5分の1と薄く、非常にデリケートなこと。また、被毛の生え方にはシングルコート(一重)とダブルコート(二重)があり、ダブルコートの犬ではすすぎ残しの恐れがあることもネックとなった。そこで獣医の監修の下、原料の配合割合を調整しながら試作品をつくっては、ペットサロンで試用した感想や意見を募った。すると、白いダブルコートの犬の被毛に、入浴剤の色が移ってしまうというトラブルが発生した。

「サロンからカットした犬の被毛を手に入れて、同じように実験してみたんですが、色移りは見られませんでした。そこで原因を突き止めようと、日本獣医生命科学大学に問い合わせたところ、被毛にリンス成分が残っていると、それが入浴剤の色素成分と反応して色が付くことが分かりました。つまり色移りではなかったわけです。しかし、リンス成分が被毛に残るケースは十分に考えられるので、入浴剤には色素を配合しないことにしました」

こうしてさまざまな状況を想定しながら注意深く開発を進め、昨年に入ってようやく商品は完成した。5月にペット用浴用料として発売すると、すぐに注目を集める。特にサロンの期待は大きく、大型チェーン店から個人サロンまで、多くの店がメニューとして導入に乗り出している。また、雨の日の散歩後に足を洗ってあげたり、入浴の難しい介護犬や老犬には、入浴剤入りのお湯で絞ったタオルで拭いてあげるなどの使用法もあり、一般ユーザーのニーズも増えている。

「現在、日本のみならず中国や韓国など、アジア諸国からの問い合わせも増えており、ペット市場の勢いと広がりを感じています。今後もニーズの隙間を突くアイデアで商品をつくり、市場をアッと驚かせていきたいですね」と抱負を語った。

会社データ

社名:紀陽除虫菊株式会社

所在地:和歌山県海南市下津町上1135

電話:073-492-0010

HP:http://kiyou-jochugiku.co.jp

代表者:小久保好章 代表取締役

設立:昭和27年

従業員:84人

※月刊石垣2016年10月号に掲載された記事です。

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