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「下町育ちの再建王」の経営指南 従業員の質と経営者の劣化

大企業の不祥事が相次ぎ発覚して、日本企業に対する「誠実、厳格、精密」といった評価も低下し、日本製品の品質に対する〝神話〟が揺らいでいます。この問題について、私は根本的理由が二つあると考えています。

まず一つは、従業員の質。正社員・終身雇用の時代は工場に熟練工がいて、会社に対するロイヤルティー(忠誠心や忠義心)があり、自分自身のプライドも仕事の質に置かれました。しかし、経済危機をくぐり抜け生き残るために、企業に非正規社員が増え、アメリカ的組織になっていきました。これは日本ばかりの話ではなく、韓国なども同様です。

トップが利益を出すことばかり考えているうちに、企業の信用を支えてきた熟練技術者たちが定年やリストラで退職して、従業員の質が変わってきてしまいました。それと共に、日本の長い歴史の中で培われた〝仕事の理念〟〝帰属社会〟に対する思いや仕事における自尊心のあり方といった職場の文化が荒廃してしまいました。企業にとって最重要なソフトである文化が、希薄になってしまっているわけです。

もう一つは、経営者の劣化です。数字ばかりを見て、現場を見る目を持たない経営者が増えています。現場離れしてしまって、本田宗一郎さんのような現場を知る経営者が少なくなりました。不祥事を起こした大企業の会見で、社長が現場の事実を知らず、取り繕っている様子をテレビで見かけましたが、憐(あわ)れの一言。その会社の信頼は地に落ちました。

シゴトには、〝志事〟〝仕事〟〝私事〟〝止(死)事〟の四つがあると言われています。昔の社員は、社会のため、組織のため、良い製品のために、志を持って仕事をしていました。しかし今、組織の中には、会社や製品は関係なく、自分のためだけに時間の切り売りをしている人、仕事などどうでもよいと思っている人も、少なからずいます。教育してもどうにもならない人もいますが、教育で変わる人もいるはずです。

経営者が現場を大切にしなければ、従業員の質はますます低下していくでしょう。かつて舩井幸雄氏は「ミクロが分かってマクロを見ろ」と従業員たちに教えました。マクロしか見ることができない経営者はミクロで失敗します。

日本製品の品質に対する〝神話〟を取り戻すため、会社のアイデンティティーやロイヤルティーの重要性と、正規雇用と終身雇用の塩梅(あんばい)を、もう一度考え直す必要があります。企業体質を改善しないと、不祥事はこの先もまだまだ続くでしょう。

大企業の不祥事を対岸の火事と考えてはいけません。改革のチャンスとして自社をご覧になってみてください。

小山 政彦(こやま・まさひこ) 株式会社 風土 代表取締役会長 (前 船井総合研究所 代表取締役会長) 1947年、東京生まれ。開成高校卒。早稲田大学理工学部数学科卒業後、実家のディスカウントストア経営に携わる。84年、船井総合研究所に入社。6年後には売り上げ3億円のNo.1コンサルタントになる。2000年の社長就任後は大証2部から東証1部上場、離職率20%台を6%までに改善、賞与支給No.1企業など経営者としても手腕を振るう。10年には代表取締役会長に就任。13年3月をもって退任し、現在は㈱風土代表取締役会長を務める。著書に『ベタ惚れさせるマネージメント』(講談社)、『9割の会社は人材育成で決まる!』(中経出版)など多数

お問い合せ先

社名:株式会社 風土

TEL:03-5423-2323

担当:髙橋

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