平成27年10月、デビュー以来所属していたアイドルグループ「アイドリング!!!」を卒業し、現在はタレント・女優として活躍を続けている酒井瞳さん。高校時代に取得した簿記の資格を生かし、NHK Eテレの「高校生講座『簿記』」への出演を果たした。番組放映期間中の昨年12月には日商簿記検定3級にも合格した酒井さんに、簿記の魅力と今後の目標について伺った。
高校の授業の中で一番楽しかった簿記
高校時代、現在所属する芸能プロダクションのオーディションに合格。卒業後すぐに上京して芸能活動を始めた酒井さんだが、実は高校3年生になるまで、芸能界に入ることなどまったく考えていなかったという。
「私は高校を卒業したら地元で働くつもりでいたので、母の勧めもあり、就職に有利な商業高校に進学しました。最初は商業に興味はなかったのですが、学校の授業の中で一番楽しかったのが簿記だったんです。もともと私は数学が好きでした。数学の正解は一つだけです。簿記も同じで、絶対にこのようにしないと正しい答えにならないというものがある。貸方、借方が一致して初めて正解となるので、いろいろなものを解いていき、最終的に一つの答えを出すという楽しさが簿記にはありました」と、酒井さんは楽しそうな表情で話す。
高校時代、全商簿記検定1級を受ける際には、同級生とともに始業30分前に登校し、課外授業も受けていた。
「担当の先生は、今まで教えた中で落ちた生徒はいないと言って生徒にプレッシャーを与える、けっこう体育会系な先生でした(笑)。当時は怖かったのですが、すごく熱心で教え方も面白くて上手、あの先生に教えていただいて本当によかったなって思います」
当時の同級生の中には、高校を卒業して地元の銀行に就職した人もいるという。芸能界に入っていなかったら同じ道を歩んでいたかもという酒井さんだが、高校2年生のときにモデルのアルバイトをしたことから、進路は大きく変わっていくことになる。
「美容室の人にウエディングドレスのモデルを頼まれたのですが、そこで初めて人前でパフォーマンスをすると、すごく楽しくて。そのときに人前で何かをすることに興味を持ったんです。それからも美容師さんが新しい髪形を紹介するためのカットモデルをやったりして、撮影で周りの人から『きれい!』って言われて舞い上がった結果、今ここにいます(笑)」
芸能界で生きていくのは難しいと実感
高校卒業後に上京してすぐに、女性アイドルグループ『アイドリング!!!』の2期生メンバーとして加入し、平成20年4月から、アイドルとしての活動が始まった。
「何も知らない状態から始めたので、最初のうちはメンバーに一生懸命ついていくだけ。そこで気付いたのは、芸能プロダクションに入ったから芸能人なのではなく、そこで仕事をつかんで続けていけて初めて芸能人といえるのだということ。テレビに出ている人たちは、山のようにいる芸能人の中でたったひとつかみの人なのだと知り、芸能界で生きていくことは難しいんだなと感じました」
酒井さんは幸先よくアイドルとしてスタートを切ることができたものの、そこからは試行錯誤の連続だったという。
「グループの中で自分なりのキャラとして、ほかの人にないものを出していくためにいろいろやってみましたが、迷走しちゃうことが多くて。試してうまくいかなかったら次は違うことをやる、の繰り返しでした。ほかの人たちもみんな自分なりに考えてやっていましたが、お互いに相談し合ったりすることはなかったですね。グループ内でもお互いにやはりどこかでライバル意識がありましたから」
そんな中で、酒井さんはアイドルとしてどんなことを心掛けていたのだろうか。
「『アイドリング!!!』は、キラキラしたアイドルというイメージはなく、ライブで歌も歌うけど、MC(歌の合間のトーク)の方が面白いと言われるグループでした。だからライブでは、お客さまをいかに楽しませるかということを心掛けていました。私はトークがあまり得意ではなかったのですが、メンバーの行動をよく見て、その日にあった面白い出来事を話したりしていましたね」
その『アイドリング!!!』の活動も、〝卒業〟という形で27年10月末に終了した。
「アイドルとしてずっと突っ走ってきて、CDを発売して、写真集も出して、ライブもやってと、いろいろなことを次から次へとやってきました。それで、やっと自分が落ち着いて周りを見られるようになったというときに、グループが終わったという感じでした」
資格を取ってよかった やっぱり簿記は裏切らない
酒井さんはメンバーだったころから、ドラマや映画、舞台などの活動も行っていた。グループ卒業後は、昨年3月から始まり今年度再放送されている「NHK高校講座『簿記』」でメイン司会も務めている。
「私が簿記の資格を持っているということから選ばれたそうで、お話をいただいたときは本当にうれしかったですね。『アイドリング!!!』が終わって仕事がないという恐怖の生活が始まると思っていた矢先で、レギュラー番組、しかも自分が司会で、ましてやNHKですから」
とはいえ、最初はプレッシャーを感じていたという酒井さん。収録の回数を重ねていき、だんだんと自分を出すことができるようになっていったという。
「番組は台本でしっかり構成されていて視聴者が学びやすい流れになっていたので、私は合間のトークコーナーで明るい雰囲気を出すようにしていました。番組の反応はツイッターなどでチェック。簿記に興味を持ちましたとか、自分も資格を取ろうと思いますといったコメントなど、自分が好きな簿記を紹介する番組でこういった反応があってうれしかったですね」
そして番組が放映中の昨年12月、酒井さんは仕事の合間に勉強していた日商簿記検定3級の試験に見事合格する。これから簿記検定を受けようという人へのアドバイスとしてこう語る。
「最初に出てくる仕訳の問題が一番難しく、しかも配点が高いから一問間違えたら大打撃です。なので仕訳をしっかり勉強した方がいいです。〝簿記は仕訳が命〟ですから。最初は就職が目的で取った簿記の資格でしたが、結局は今の仕事につながったので、取ってよかった、やっぱり簿記は裏切らないなと思っています」
最後に今後の展望については、
「早くスクリーンで女優としての私を見せられる日が来るようにしたい。私は主役でなくても、脇役でも気になる存在になりたいんです。いつも端っこでいろんな顔をしている酒井瞳がいる、そんな感じでいきたいと思っています」と、酒井さんはテレビで見るのとはまた違う笑顔で語った。
酒井 瞳(さかい・ひとみ)
女優・タレント
平成元年生まれ、宮崎県延岡市出身。ソニー・ミュージックアーティスツ所属。平成19年に「SMAティーンズオーディション2007」に合格、翌年4月からアイドルグループ「アイドリング!!!」の一員として活動を開始する。商業高校在学中に全商(全国商業高等学校協会)簿記検定1級を取得。28年からNHK Eテレの「NHK高校講座『簿記』」で司会を務めている(29年度は再放送)。昨年12月に日商簿記検定3級に合格したほか、温泉ソムリエやジュニア野菜ソムリエの資格も取得。料理が趣味で、延岡名物・チキン南蛮のPR隊長にも就任している
写真・矢口和也
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