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あの人を訪ねたい パトリック ハーラン

「何に対しても常に2通りの答えを用意しておくことが重要だと思います」

「パックン」の愛称で、お笑い芸人、俳優、声優、司会者、DJ、ナレーター、大学の非常勤講師……と、幅広く活躍しているパトリック・ハーランさん。日本に来たきっかけや芸能人への転身、外国人の視点から見た日本人や日本企業など、流暢(りゅうちょう)な日本語で語る茶目っ気たっぷりのコメントは熱く、そして興味深い。

親友の誘いに乗って軽い気持ちで来日

平成5年にハーバード大学を卒業後、22歳で来日した。

「小学校から大学まで、ひたすら勉強しました。また、家計を助けるために10歳から18歳まで新聞配達もしました。だから燃え尽きてしまい、少し遊びたい、冒険したいと、就職活動をしませんでした。そんなとき中学からの親友に、『僕は日本に行くけど、どうする?』と聞かれて、『じゃあ、僕も行く』と即答したんです」

軽いノリで日本行きを決めたパトリックさん(以下パックン)。先に日本に渡った親友を頼って、向かったのは福井市だった。日本語をほとんど話せないまま、駅前の交番で近くの英会話学校を尋ね、そこに履歴書を出して英会話講師の職を得た。

「最初は1年くらいで帰るつもりだったんですが、どんどん日本の魅力にはまっていきました。日本人は皆まじめで気難しい顔をしていると思っていたら、明るいし、優しいし、よく笑う。しかも福井は住宅事情がよく、ワークライフバランスも取れていて、週末などに大勢が集まってホームパーティーをするところなどアメリカと似ていると思いました。もっと日本のことが知りたいと、滞在を延長することにしたんです」

半年で日常会話には困らなくなったそうだが、語彙(ごい)力を高めようと独学で勉強し、わずか2年で日本語能力試験の一番難しいN1に認定された。語学上達の秘訣(ひけつ)は、「暇を使うこと」と「自分にエクスキューズ(言い訳)しないこと」だそうだ。「どうしたら英語が話せるようになりますか」と聞くと、「英語はスポーツと一緒です。同じフレーズを何度も口にして、筋肉で記憶すれば、必ず使えるようになります。英会話学校でもそうやって教えていましたが、熱血過ぎて生徒たちは皆やけどをしたらしい!」。

役者を目指して福井から上京したが……

そんなパックンが小さいころから抱いていた夢は、役者になることだ。日本での生活も4年となり、帰国して役者を目指すか、日本で夢を追いかけるかと考えたとき、「もったいない」と思ったという。せっかく日本で働けるくらい、日本語をマスターした。帰国しても、似たような容姿や声、学歴の人間はたくさんいるが、日本なら特徴が際立つ。ここで役者を目指す方が成功する確率が高いと思い、上京を決意した。

「予想通りけっこう声は掛かりました。中には準主役級の役や、大物女優さんとキスする役に恵まれたこともあります。でもあのころは、なんでもっといい役が来ないんだろうと思っていました。今ならその理由がわかります。たとえば僕がミステリードラマに出たとして、普通に日本語を話したら、視聴者は犯人が誰かよりも、あの外国人は誰かってことに関心が向いてしまう。だから、僕がさほど活躍できないのは当然だったんです」

そんなときふと目を向けたのがお笑いだった。当時はお笑いがブームだったため、日本のユーモアを勉強するのも役者としてプラスになると考えた。コントを書いているという吉田眞さん(マックン)を知り合いから紹介され、一緒に落語やお笑いライブを見に行き、何度も話をするうちに意気投合して、漫才コンビ「パックンマックン」を結成した。

その後2人は、オーディションを受けまくった。客が手を上げた瞬間に、出し物が強制終了となる「ゴングショー形式」のお笑いライブにも挑戦し、見事最後まで披露できた。ライブ活動で少し話題が広がり、テレビの露出も増えていった。また、流暢な日本語が買われて、単独で英語教養番組や情報番組、バラエティー番組のレギュラーやコメンテーター、ナレーターを務めるなど、活躍の場を広げていった。

日本人に必要なのは2通りの答えを用意する習慣

24年から東京工業大学の非常勤講師に就任し、「コミュニケーションと国際関係」をテーマに教鞭を執っている。また、東京MXテレビで放映されていた「ザ・リーダー」という番組では、多くの企業経営者にインタビューを行い、ビジネスをテーマにステージを広げている。その経験から、今後日本人が身に付けるべきスキルについて聞いてみた。

「何に対しても、常に2通りの答えを用意しておくといいと思います。例えば、『新しい企画を考えてこい』と言われたら、普通に通りそうな企画ととんでもない企画の2つを用意するんです。大抵は前者が通りますが、とんでもない企画が10回に1回、100回に1回でも通って爆発したら、1000回分、いや1万回分の価値につながることもあります。これはアメリカの企業やベンチャーの人が持っている心構えです」

確かに日本人の多くは、至極まっとうな企画を考え、2通りと言われたら、まっとうなA案とB案を立てるだろう。日本人が相手ならば、その方がうまくいくかもしれない。しかし、今後日本の市場は縮小が予想される。少しの工夫で国内の売上を上げるのもよいが、とんでもないアイデアで世界に打って出て、爆発させるという選択肢もあるのだ。

「2050年までに中流階級に入ると予想されるアフリカ人が何人か知っていますか。20億人だそうです。約30年後にアフリカは、大きい市場になるんです。僕がビジネスマンなら、まず日本の縮小している市場とアフリカの爆発している市場のどれかを連携させます。日本に欠けているものをアフリカに提供してもらったり、アフリカに欠けているものを日本が提供したり。形ある物だけでなく、技術や教育、文化なども十分ニーズはあると思います」

今年46歳になり、アメリカと日本で暮らした時間がほぼ同じになったパックンは、日本の風土や文化を理解しつつ、外国人の視点でグローバル化の重要性を説く。それを推し進める上で必要なものは何か。

「英語です。僕はあちこちで言っていますが、日本人に英語力はあります。ただ使っていないだけ。使わないといざというときに出てこないので、普段からちょっとずつ使う工夫をしてほしいですね」と彼らしい答えが返ってきた。

パトリック・ハーラン

コメディアン、タレント

昭和45年、アメリカ合衆国コロラド州生まれ。ハーバード大学を卒業後、平成5年に来日。福井県で英会話学校講師を務めたのち、9年に吉田眞とお笑いコンビ「パックンマックン」を結成。その後、情報番組や英語教養番組などへの出演でお茶の間に浸透。テレビ、ラジオなどに加え、20年より相模女子大学客員教授、24年より東京工業大学リベラルアーツセンター非常勤講師に就任し、幅広く活躍している。著書に『笑う英作文』(共著)(扶桑社)、『Are you a 国際人?』(毎日新聞社)など

写真・野原英樹

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