豊橋市にあるくればぁは、1966年に縫製業でスタートし、89年に繊維製品を中心としたアイデア商品開発製造卸業として新たに設立された会社だ。同社の主力であるメッシュフィルターの製造技術を応用し、企画・開発した高性能マスクが異例の売れ行きを示し、需要に製造が追いつかない状態が続いている。同商品が最新バージョンまで進化してきた道のりをたどる。
土台となったのは7層構造の花粉対策マスク
今では、風邪やインフルエンザなどの予防から花粉対策まで、1年の半分近くをマスクとともに過ごす人も珍しくない。そんな中で1万5000~2万円という高価格の高性能マスクが注目されている。その一つが、次世代マスク「bo-bi」だ。
10種類の異なるメッシュフィルターを重ねることで、花粉はもとより、細菌やウイルス飛沫、PM2・5などの有害物質を99%ブロックする。「息苦しいのでは?」と思いきや、顔にフィットして鼻や口の前に空間ができる設計により呼吸しやすくなっている。しかも、形状記憶ワイヤーによりマスクの形が崩れにくく、100回洗っても使用開始時のフィット感を保つ。マスクの弱点を一つひとつ克服し、再利用できるようにしたところが人気で、注文に製造が追いつかないほどの売れ行きが続いている。
同商品を企画・開発したのが、くればぁだ。同社は1966年以来縫製業で創業し、衣料や日用品などを扱ってきたが、89年、メッシュフィルターの企画・製造・販売を扱う新会社として発足した。以降、さまざまなアイデア商品を開発する中で、同社が着目したのが花粉対策マスクだ。
「通常の使い捨てマスクは、不織布の表面に静電気を帯電させて花粉を吸着させることで、侵入を防ぐ仕組みです。ただ、マスクの表面を手で触れば、手を通じて体内に侵入してしまいます。そこで、当社は静電防止機能を開発し、フィルター7層構造のマスクを2003年に発売しました」と同社会長の中河原四郎さんは説明する。
ところが、このマスクの反響はあまりよろしくなかった。理由は1枚1980円という価格だ。特許出願した新機能を盛り込んでいて強気の価格設定にしたが、市場にはなかなか受け入れられなかった。そこで、満足していただける商品の位置づけを探りながら、その後さらなる高性能マスクの開発に邁進していく。
フィット感を重視してオーダーメードにも対応
同社が次に着目したのは、PM2・5対策だ。花粉よりさらに粒子の細かい物質をブロックするため、熱で網目を収縮させた“世界一細かいメッシュフィルター”を開発し、10層構造にバージョンアップ。さらに、大学と共同して有害物質のブロック率のデータを取り、12年に「PM2・5フィルターマスク」を発売した。
「実は、この開発には時間も経費もかかっていたので、花粉用よりさらに高い4980円に設定しました。正直売れるか不安だったんですが、PM2・5が世間をにぎわせていたこともあり、好調な売れ行きとなりました」と同社社長の中河原毅さんは振り返る。
効果があれば高くても売れる。そんな手応えの下、13年には、鼻とマスクのすき間にウレタンを装着した「ピッタリッチ」を世に出した。さらに、マスクは使う人の顔のサイズに合っているかが重要だと、オーダーメードにも乗り出す。目頭から鼻先、鼻先から鼻下、鼻の幅など、5カ所のサイズを計測してメールやFAXで送ってもらい、その人に合うマスクをつくるサービスだ。既製品もMとLの2サイズ展開から、S、MS、M、Lの4サイズ展開にして、すき間からの侵入を極力防ぐ工夫を施した。
まだまだ進化は止まらない。マスクの機能やフィット感だけでなく、消費者の使用シーンを想定して、マスクカバーを考案する。
「当社のマスクは手洗いなら約100回使えることをうたっていますが、手洗いは面倒だとそのまま洗濯機で洗ってしまう人もいます。また、特に女性はマスクをそのままバッグにしまうことに抵抗を覚える人も多い。そこでメッシュ製の専用カバーを、デザイナーとコラボして制作しました。カバーに入れて持ち歩き、帰宅したらそのまま洗濯機に放り込んでも、洗濯ネットの役目を果たすのでマスクが傷みません」(毅さん)
こうして10層構造のマスクに専用カバーを付けた、次世代マスク「bo-bi」を16年に1万4980円の価格で発売した。ちなみに「bo-bi」は「防備」を欧字にしたものだ。
口コミからテレビ番組で紹介され、一気に火が付く
同商品に火が付いたのは、全国ネットのテレビ番組で紹介されてからだ。「地元メディアにはプレスリリースを送った」(毅さん)ものの、それ以外には特にアプローチをしていなかったが、「ワールドビジネスサテライト」や「林先生が驚く初耳学!」など全国ネットのテレビ番組で次々と紹介されたのだ。呼吸をしにくくすることで横隔膜を動かす筋肉を刺激し、ダイエット効果が上がることをうたったシリーズ商品次世代マスク「bo-biカロリー」を使ったユーザーが、実際に痩せたという口コミを受けて取り上げられたのだ。それを機に全国から注文が殺到し、一時は6カ月待ちという予想外の売れ行きを示す。今は少し落ち着いたものの、1〜2カ月待ちの状態が続いているという。
「現在ではさらにフィルターを二つ追加した12層構造のものや、肌に触れる部分にフッ素をコーティングして、ファンデーションなどの汚れがティッシュで拭き取れるものなどを発売し、まだまだ進化しています」と毅さんは語り、四郎さんもこう続ける。「高性能マスクのヒットのおかげで、全国的に名前が知られるようになりました。今後もマスクはもちろんですが、主事業のメッシュフィルターのアイデア加工品にも力を入れていきたい」
親子2代のあくなき探求心が、ヒットを生み出す原動力のようだ。
会社データ
社名:株式会社くればぁ
所在地:愛知県豊橋市大村町字藤田4-1
電話:0532-51-4151
HP:https://www.nippon-clever.co.jp/
代表者:中河原四郎 代表取締役会長
設立:1989年
従業員:40人(グループ連結)
※月刊石垣2019年2月号に掲載された記事です。
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