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テーマ別誌上セミナー 災害に負けず企業を存続させる BCP対策のススメ

BCPとは、突発的な緊急事態に備えて策定する事業継続計画のこと。地震や台風など自然災害が多発するわが国において、会社を存続させる事業継続計画を立てておくことが急務となっている。そこで、各地商工会議所などでBCPセミナーの講師を務める事業継続研究所代表の京盛眞信さんに、中小企業が備えるべきBCPについて解説してもらった。

京盛 眞信(きょうもり・まさのぶ)

事業継続研究所 代表

京盛 眞信(きょうもり・まさのぶ) 昭和28年1月東京都生まれ、中央大学法学部卒。48年に総合電機メーカーに入社、平成12年から大手金融機関向けITリスクコンサルティングを担当し、15年に中小企業診断士に認定される。23年、「中小企業経営診断シンポジウム」にて東京支部長賞受賞。著書は『経営支援・再生支援コンサルティング』(同友館)、『Q&AでわかるBCP策定の実務』(税務経理協会)など多数

近ごろよく耳にするBCP(Business continuity plan)。大規模な自然災害や停電、断水、新型インフルエンザのような不測の事態や有事の際に、企業が損害を最小限に抑え、事業の継続や早期復旧させるための計画が不可欠だ。人や物の被害を防いだり軽減したりすることが目的の「防災計画」とは大きな違いがある。

キャッシュフローから生存可能時間を探る

BCPとは「緊急事態において、企業の存続に関わる中核事業を再開させるために、何を優先して行うべきかを定めた計画のことで、企業の生存戦略ともいえる」と、事業継続研究所の京盛眞信さんは定義する。

「被災して事業が中断すると売り上げがなくなります。一方で買掛金や従業員の給与などの支出が続く上、復旧費用が発生するので、企業のキャッシュフローが急激に減っていきます。底をつく前に売り上げを回復できないと倒産することになります。そこでまず生存の要となる財務戦略を、経営者自身が主導して策定しなければなりません」

一般に事業が停止して製品を供給できなくなると顧客や取引先が離れていくため、そうなる前に事業を再開させる「目標回復時間を定める」ことを考えがちだ。だが、京盛さんはそれ以前に「自社のキャッシュフローが破たんするのはいつなのかを想定した上で、業務の停止により会社が倒産する限界時間である最大許容停止時間(MTPD)に対応した資金を用意し、さらに事業再開がずれ込む事態に備えてMTPDを延長する施策を考える」ことを勧めている。

MTPDを延長するための方法としては、次の4点が考えられる。

①内部留保・経営者資産の拡充

②固定費の圧縮策の事前検討

③運転資金の圧縮策の事前検討

④公的機関・金融機関からの支援の獲得準備

①~③については社内の課題になるが、④は社外に頼ることになる。そこで「日ごろから優良な経営を心掛けて、金融機関とも良好な関係を保っておくことが欠かせず、ずさんな経営や過度な節税は逆効果です」と京盛さんは言う。

では、復旧費用をどう見積もればよいのか。復旧費用には会社の資産(建物や機械)の損害を回復するための費用と、事業中断により発生する損害を埋める費用の二つがある。前者については経営資源が限られるため中核事業に絞り込んで査定することになり、企業により異なるだろう。後者は、中小企業庁の「中小企業BCP策定運用指針」によれば、「月商の1カ月分くらいの現金・預金」となる。

事態を想定して事前と事後の対処を決める

BCPを策定して、図1のようにMTPDの間に中核事業を再開させて、売り上げを早期に被災以前の水準に戻すことが望ましい。BCPの策定状況を内閣府の調査(平成27年度「企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」)で見ると、一般的に財務体質が強固な大企業では60・4%が「策定済み」、15・0%が「策定中」と回答しているのに対し、中堅企業では29・9%が「策定済み」、12・1%が「策定中」と大きく後れを取っている。また東京商工会議所が27年に実施した「会員企業の防災対策に関するアンケート」でも「策定済み」は26・5%にとどまり、それに「策定中・検討中」を加えても半数以下の45・2%にすぎない。なぜ策定しないのか。圧倒的に多い理由は二つ。「策定に必要なノウハウ・スキルがないから」(58・4%)と「策定する人的余裕がないから」(50・2%)である。

「それはBCPを難しく考えているからで、身の丈に合った対策を講じればよいのです」と京盛さんは言う。

やるべきことはこうだ。中小企業庁が公表している「BCP項目」に倣うと、まず「想定する事態」を明確にする。冒頭で大規模な自然災害、停電、断水、新型インフルエンザを挙げたが、例えば高台に工場があるのなら、水害は心配しなくて良さそうだ。京盛さんは「河川の上流の豪雨が下流の都市で洪水となることもあるので、自治体のハザードマップを取り寄せて確認しておくべき」と指摘する。また想定する事態を「予測できるもの」と「予測できないもの」に分けて対策を考えることも重要になる。水害の発生や新型インフルエンザのまん延などは天気予報やニュースで事前に予測することができる。地震や事前予告のない突然の停電・断水は起こってから対応するしかない。そこで前者は被害を回避・軽減させる対策、後者は復旧を主に対策を考えることが大切だ。

次に事前の対策を立てる。大地震を想定した場合、①建物や設備の耐震対策を行う。②設備や施設が使用不能になったときの代替方法を決めておく。③在庫や設備などの分散化を行う。④優先的に復旧させる業務を決めておく。⑤地震保険や地震共済などの活用を検討する。⑥経営者や従業員の安否確認方法を定め、定期的に訓練を行う。さらに各企業で必要な項目を洗い出して加える。

被災後は①復旧業務を特定して復旧目標時期を決め、社内目標とする。②復旧資金の確保のため国や自治体の公的支援制度などを活用する。商工会議所の相談窓口で各支援制度などの情報を収集する。③取引企業に自社の状況を伝え、必要な支援を求める。④インターネットなどを通じて自社の状況を発信する。

具体的なBCPの策定には中小企業庁の「中小企業BCP策定運用指針」を参考にするとよい。この指針に定められている様式などを用いて中小企業者が策定した計画は、日本政策金融公庫の「社会環境対応施設整備資金」の対象となるからだ。

「5S」の徹底によりBCPの基本が完成

BCPを策定した後は、社員に定着させなければならない。毎年定期的に経営者が従業員に対してBCPの進捗(しんちょく)状況や問題点を説明し、従業員それぞれの役割分担や取り組み状況の確認を行う。社内研修会を開いて、理解度の差を埋めていく作業も必要だ。工場を移転したり、製品や顧客・取引先が大きく変わったときはBCPを会社の現状に合わせた内容に変える作業も必要になる。つまり、事業を理解する→BCPの準備・事前対策を行う→BCPを策定する→BCPを社員に定着させる→BCPのテストと更新を行うというBCPのPDCAサイクル(図2)を回さなければならないということだ。

「最初から完璧を目指す必要はありません。自社に合ったBCPを作成しながら完成を目指していけばよいのです」と言う京盛さん。製造業の現場であれば整理・整頓・清掃・清潔・躾(しつけ)の「5S」を徹底させるだけでも大きな効果があるとアドバイスする。地震で怖いのは建物の倒壊を別にすれば、機械や工具、原材料などの転倒や散乱で従業員を直撃したり、壊れたりすることだ。5Sが徹底していれば、その危険性は大きく下がる。さらに5SにBCPの項目を加えれば、固定されていない重量物が見えてくる。「目線の先にある重量物には普段から気が付いているはずなので、上(天井)と下(足元)にある危険物を探すようにしてください」と京盛さん。

身近な重量物の固定や電気火災対策を徹底

重量物の固定は工場に限らない。事務所のスチール書庫やロッカーは転倒対策が施されているだろうが、小型タイプでも重量100㎏を超える複合機(コピー・FAX)は固定されているだろうか。冬場に電熱器具を使っている社員がいる場合は、停電復旧後の火災に注意すべきだ。転倒した電熱器具に火(熱)が入り、散乱した紙類に燃え移って電気火災を引き起こす。熱源は電熱器具に限らないので、地震を感知するとブレーカーが落ちる「感震ブレーカー」の導入も考えたい。

また、食料の備蓄はどうすればよいのか。企業が備蓄する目的には、従業員を安全な場所にとどめておくため、従業員を帰宅させることで災害救助の妨害をしないため、目標復旧時間内で中核事業を再開するための要員確保、という三つがある。備蓄は最低でも一人3日分といわれているが、中堅・中小企業にとって負担が大きい。そこで例えば社員食堂がある企業なら「食材を3日分以上ストックして使い回すローリングストックという方法でコストを抑えることができます。飲料水は一人一日3ℓといわれています。自動販売機の品ぞろえを水やお茶中心にして、社内に置く在庫を増やすように業者に頼んでおけば、コストを掛けずに非常時の対策になります」(京盛さん)。身の丈BCPは、お金を掛けなくとも知恵を絞ることで始められる。

経営者の命令で迅速に動く対策別チームをつくる

各災害に対応した複数のBCPの策定を終えたら「発動の基準」を定めておきたい。京盛さんは自著『Q&AでわかるBCP策定の実務』の中で、予測できる災害であれば、被害の防止や軽減を目的としたBCP発動基準を決めることを明記している。予測できない災害であれば、中核業務の被災状況により、BCP発動基準を決めるようアドバイスしている。

災害が発生した場合、従業員の命を守る行動を取った後、初動対応としては図3のように、二次災害の防止措置、従業員の参集、安否確認や被災状況の把握を行う。その後顧客・取引先・協力会社などと連絡を取り合い、被災当日中に経営者自身がBCPの発動を宣言する。

その後はBCPに沿って動いていく。対策別にチームをつくって役割分担を明確にしておくと、トップダウンの命令がチーム長から各チームの従業員へ正しく迅速に伝わる。先の運用指針では対策を「顧客・協力会社向け対策」「従業員・事業資源対策」「財務対策」に分けている。

BCPは社長が主導すべきことだが、被災時に社長が社内にいるとは限らない。代行者を指名し、いざというときにあわてない組織にしておきたい。災害や事故は営業時間外に起こることもある。その場合、どのように安否の確認をするのか。どのように社員の安全を確保するのか。どのような手段で出社するのか――。そうした手順と決まりも明確にしておく。

BCPを推進すれば、会社の財務の強化、資金計画やサプライチェーンの見直し、社員の帰属意識と安全対策向上といったプラスの恩恵も受けられる。どんな事態に陥っても全力で復旧させるという姿勢を示すことで、顧客や取引先からの信頼も厚くなるだろう。BCPは平時の会社も強くするのだ。

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