個々の技術を生かしながら、地域の雇用に貢献
株式会社エヌ・ツー・エンジニアリング 代表取締役 並木 暘子
「企業は人なり」の理念の下、退職者を再雇用し、技術のある中高年を組織化
起業への迷いと決意
平成21年、リーマンショックの影響もあり、主人と私が営んでいた会社で大幅な人員整理を行いました。特に、精密機器の派遣・請負部門での削減を余儀なくされました。従業員に契約終了の旨を伝えましたが、自分の子どもと同世代の人もいて、心が痛みました。
その後、私たち夫婦も、年齢的な問題から引退を決めました。そんなとき、以前、半導体製造ユニットの組立を受託していた会社から、今までの技術を生かして精密機械の仕事をしてみないか、というお話をいただいたのです。
私は迷いました。60歳を過ぎた今、知力・体力ともに続くだろうか。主人は持病を抱えながら長年働いてくれたので、引き受けるなら私が頑張らなければなりません。家族のことだけでも精一杯なのに、従業員たちの生活に責任を持てるのだろうか……。総務や経理の仕事に携わってきた私には、経営者の重責が容易に想像できました。
しかし、かつて解雇した従業員たちに相談すると、「働く場を用意してくれるなら、ぜひまた一緒に」との熱いコール。彼らに背中を押され、以前から何かと相談に乗ってもらっていた日本政策金融公庫の温かい支援もあり、翌年、私は起業しました。やらない後悔はしたくない、という思いからでした。
最初は数人だった従業員も徐々に増え、今では総勢13人の小さな家族のような会社になりました。半導体製造装置の組立や、ATMなどに使われるソレノイドの生産、繁忙期の物流会社への仕分け作業など、従業員の個々の技術を最大限に生かすべく、努力しています。
「お母さん社長」として今後の奮闘を誓う
事業の中心となる半導体関連の仕事にはクリーンルームが必須なため、当初は多額の設備費用が掛かりました。ほかにも予想外の出来事がいくつも起こり、それらを一つ一つ乗り越えるうち、振り返れば4年が過ぎていました。「3年続けば5年、5年続けば10年続く」と言われたことがありますが、何ごとも継続するには大変な努力が必要です。経営についてはいまだ初心者マークですが、〝会社のお母さん〟のような気持ちで、志は高く持ち続けたいと思います。
当社の自慢は相互信頼です。何でも遠慮なく発言でき、皆で互いを応援しながらトライ&エラーできる土壌があります。職位の差、男女の差もほとんどありません。役員は進んで片付けや清掃など、何でもこなします。自らも、従業員にとって働きやすい環境を提供できる〝優秀なスタッフ〟であるべきだと考えるからです。社内での打ち合わせも最小限にとどめ、普段からこまめなコミュニケーションを心掛けています。
利益を出してこその法人組織だとは思いますが、今は仕事を途切れずに受託して、雇用を守り通そうと必死の毎日。余裕などありません。それでも、若い従業員たちと同じ夢を持ち続ければ、日々ファイトが湧いてきます。次の世代にバトンタッチできるまで、私ももう少し頑張りたいと思います。
会社データ
社名:株式会社エヌ・ツー・エンジニアリング
所在地:茨城県坂東市
創業:平成22年
事業概要:製造業(精密機械組立)
※月刊石垣2014年7月号に掲載された記事です。
最新号を紙面で読める!