実例1 難民などの戦略的雇用で海外売上比率8割を実現
栄鋳造所(東京都八王子市)
アルミを中心とした金属加工を主事業とする栄鋳造所。同社は企業価値の向上を目指して、2012年より外国人雇用に力を入れている。外国人を安価な労働力としてではなく、高い語学力を持ち、日本のものづくり技術の習得に意欲的な人材として戦略的雇用することで海外展開を実現し、海外売上比率8割を実現した。
海外に目を向けないと取り残されるという危機感
栄鋳造所は、1952年の創業以来、主にアルミの鋳物を扱ってきた。主力製品は、アルミの板とステンレスパイプを一体化した「コールドプレート」だ。パイプに水を流して、熱を持ちやすい半導体装置などを冷却するための部品で、Vプロセス鋳造工法によりパイプとプレートの間の厚みを極限まで薄くするという独自のノウハウが強みだ。
そんな同社のもう一つの特徴は、従業員の約3割を外国人が占めていること。現在、韓国人が5人、イラン人、カメルーン人、エチオピア人が各1人在籍しているが、そもそも外国人雇用に乗り出したきっかけは何だったのか。
「2008年に先代の父が他界し、その秋にはリーマンショックが起きて受注が激減しました。そうした中、取引先が中国に進出し始め、うちも海外に目を向けないと取り残されるという危機感を持ったんです」と同社社長の鈴木隆史さんは振り返る。
当時鈴木さんは、市役所と八王子商工会議所が開催する後継者育成塾OB会の会長を務めていた。海外を見てみたいと、同会でアメリカ・シリコンバレーの視察を企画した。
「シリコンバレーには世界に名だたる企業が集まっていますが、実は小さな町工場が5000社くらいあり、その9割が中国、韓国、台湾企業なんです。中国人がやっている金属加工会社を訪ねてみると、製品は傷だらけで不良品かと思うほどクオリティーが低いのに、2年先まで仕事が埋まっていると言う。いくら日本企業の技術や品質が高くても、ビジネスでは完全に負けていると思い知らされました」
彼らのように海外展開するにはどうすればいいのか。課題を整理してみた結果、自分も含め従業員の意識改革が必要だと感じた。そこで、まずは環境を変えようと、思い立ったのが外国人雇用だった。
社長が本気を示し受け入れ体制を整備
鈴木さんは早速、大手人材派遣会社から転職してきた現専務の新武浩さんに、外国人の採用を指示した。海外展開の即戦力として恒久的に働いてもらうため、不法就労者、留学生、技能実習生ではない人材を探したところ、その条件を満たしたのが難民だった。
「難民というとボートピープルを思い浮かべますが、実は高度な語学力やスキルを持っている人が多く、法務省から就労許可が出ている人もいることが分かりました。そこでNPO法人難民支援協会の協力を得て、ミャンマー人を1人採用しました」
その後も中東地域の人を中心に採用していったが、次第に日本人従業員との間に軋轢(あつれき)が生じ始め、状況はエスカレートしていった。現場責任者の工場長から「これ以上外国人を雇うなら、日本人従業員は仕事ができないと言っている」と進言され、専務からも「外国人雇用を止めないのなら、私をクビにしてほしい」と言われた。
「究極の選択でしたが、私の腹は決まっていました。外国人の雇用は止めないし、専務には残ってほしいと。その結果、工場長が会社を去りましたが、私の本気度が伝わったのか、日本人従業員たちの意識がみるみる変わっていったんです」
それを機に、現場での受け入れ体制の整備に着手した。作業の段取りや設備について日本語と英語を併記し、英語の作業マニュアルを作成するなど、「見える化」に取り組んだ。また週1回、日本語を勉強する時間を設けたほか、日本の企業文化に早くなじめるように、ビジネスマナーについても研修を行った。すると日本人従業員の中にも、自ら英語の勉強を始める者が現れ、簡単な英単語やジェスチャーでコミュニケーションをとろうとする機運が生まれた。
外国人の現地採用で海外展開に拍車
「社内の雰囲気は改善しましたが、世間の目は冷ややかでした。外国人を安い労働力として雇っていると映っていたのでしょう。仮にそうなら、少しでも給料の高い会社に行ってしまいます。しかし、彼らが当社で働いてくれているのは、会社のビジョンを明示して、彼らを戦力として評価しているからだと自負しています」
2015年、そうした取り組みが評価され、同社は経済産業省が主催する「ダイバーシティ経営企業100選」に選ばれた。この受賞を機に、周りの目はガラッと変わったという。
現在、同社が力を入れているのは、インターンシップを通じた採用活動だ。実際、韓国、フランス、フィリピンの大学と提携し、現地の学生を雇用している。この方法で「コールドプレート」の大口取引先である韓国の学生を採用し、そのまま韓国支社に配属して営業を任せているという。
このように外国人を戦略的雇用することで、同社の営業力やマーケティング力は飛躍的に向上し、海外売上比率は全体の8割を占めるまでになった。また3年連続で過去最高益を更新しているという。
「人手不足が叫ばれる昨今ですが、海外には若く優秀な人材がたくさんいます。今後さらに外国人を雇うと同時に、日本人従業員も海外に送り出したい。さまざまな壁を取り払って、さらなるダイバーシティ経営を進めていくつもりです」と鈴木さんはきっぱり言い切った。
会社データ
社名:株式会社栄鋳造所
所在地:東京都八王子市下恩方町350
電話:042-651-9790
代表者:鈴木隆史 代表取締役
従業員:27人(うち外国人8人)
※月刊石垣2018年7月号に掲載された記事です。
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