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テーマ別企業事例 戦力化への道 成功する外国人雇用の法則

実例2 中国人留学生を採用しアジア市場進出を果たす

井上商店(山口県萩市)

ソフトふりかけ「しそわかめ」を主力商品とする明治4(1871)年創業の老舗、井上商店は海外展開を計画し、中国人留学生を採用した。その結果、語学力を生かした働きで初年度から期待通りの成果を上げ、受け入れた日本人従業員にも好影響を与えているという。6月1日付で五代目社長に就任した井上光治さんに採用の経緯と採用時、採用後の注意点を聞いた。

中国山東省出身の陳琪さん(右)の働きぶりは「期待以上」と井上社長の評価は高い。製品の輸出にとどまらず、中国の高品質な食材を輸入する計画もある

海外進出には現地の文化を知る人材が必要

井上さんにはカナダのモントリオールでの4年間の留学経験があり、英語が堪能だ。帰国後、家業である井上商店に入社し、将来の国内市場縮小に先手を打つため、海外市場の開拓に力を入れる。

「中国や東南アジアに商品を出したいと考え、独力で商談を始めたのですが、現地の文化・習慣を知らない人間が英語でこちらの意図や商品の魅力を伝えようとしてもうまくいきませんでした」

そこで最初の開拓市場を中国に定め、中国語が堪能な人材の採用を考えた。対象は大卒以上の「高度外国人材」と呼ばれる人たちだ。

井上さんは、西京銀行や山口県、山口県国際総合センター、山口大学が連携して開催している留学生と企業経営 者との交流会『DISCOVER YAMAGUCHI』の存在を知り、2017年1月に開催された第5回交流会に参加した。

この回は参加企業を絞ったため、7社の地元企業と県内就職を希望する16人の留学生が集まった。井上さんはその中から2人の中国人留学生の採用を決めた。交流会初のマッチング成立でもあった。

会社訪問により就労環境を知ってもらった

採用された一人、大学院経済学研究科を卒業した陳琪(チンキ)さんは、「日本で営業の仕事がしたかったのですが、地元企業のことはほとんど知らなかったため、説明会に参加しました。そこで、社長(当時は専務)から語学力を生かして海外向けの営業の仕事をしてほしいと説明され、入社したいと思いました」と流ちょうな日本語で話す。

井上さんも即採用を決めたが、「どんな環境で働くのか、どんな従業員と働くのかということを事前に知ってほしかった」ことから、会社訪問をしてもらった。

「本社と油谷工場(長門市)を見学しました。魚を加工する工場はとても清潔で臭いもなくびっくりしました」(陳さん)

17年4月の入社が決まると、外国人が働きやすい環境を整えるため、先輩社員にプライベートな問題も含めて相談できるメンター制度を導入し、寮の整備なども行った。入国管理局に申請する就労可能な在留資格(いわゆる就労ビザ)の取得は、国が高度外国人材の受け入れに前向きな姿勢のためスムーズだったという。

一通りの研修を済ませた陳さんは本社に配属されると、本社統括チーフの柳井正司さんの下で、すぐに能力を発揮した。「現地のバイヤーに直接電話して交渉をしたり、中国語でメールを送ったりすることができるようになり、相手の反応も良くなりました」(井上さん)。商品のパッケージについても、現地の人が好む色使いや表記などを提案して、中国市場に受け入れられる商品づくりに取り組んだ。

将来の人材不足に対する布石を打つ

井上さんが高度外国人材の採用を決めた理由は、海外市場の開拓のほかにもう一つあった。製造を担う人材不足に対する備えである。製造現場に外国人を配置した他社から、コミュニケーション不足や文化・習慣の違いから摩擦が起きている例を聞いていた。そこで井上さんは外国人を受け入れる素地をつくっておきたかった。

「流ちょうに日本語が話せても、言い回しなどニュアンスの違いが誤解を生むかもしれません。大丈夫かなと思って様子を見ていたのですが、従業員たちは陳さんの言いたいことをきちんと聞いて理解する、物事を教える時には分かりやすい表現で伝えるという態度で接してくれました」(井上さん)

同社は「協調と和」を重んじる社風であり、社長以下全員が大部屋で仕事をしているため元々風通しは良かったが、陳さんが来てからは、何か困っていると誰かが“世話役”となってサポートするという風潮が広がった。日本人従業員同士も積極的に仕事の話をするようになり、お互いの困り事を助け合うようになった。

外国人材の受け入れには社内整備が欠かせない

井上さんは外国人材を雇う場合の注意点を四つ挙げる。

まず日本人に比べて自己主張が強く、イエス、ノーをはっきり言い、行動も早い。それは井上さんの経営スタイルに合っているため、「外国人の意見は刺激になるし、私たちが学ぶべき点」と受け止めているが、経営者によっては悩ましいところかもしれない。

陳さんと一緒に採用された中国人女性は、「どうすれば給料が上がるのか」ということを最初に聞いてきたという。キャリアモデルや業績評価、昇給・昇進の仕組みが明文化されていない(されていても機能していない)会社は制度の整備と活用が求められる。

次に、外国人が里帰りするためには1週間ほどの連続休暇が必要になる。井上さんは「まとまった休みを取りたがらない日本人従業員が見習ってくれれば働き方の改革につながる」と歓迎しているが、休暇取得のルールも明確にして、取得しやすい雰囲気づくりが欠かせない。

三つ目、中国籍の場合、東南アジアなど他の国へ出張するときのビザの取得が難しい。ビザが下りるまでに1カ月程度の時間がかかることがあるため、出張の計画は綿密に組まなければならない。

四つ目に井上さんは反省点として、1年を待たずに退職した中国人女性の例を挙げる。会社の業務を学ぶため日本人と同じ工業研修などを受けさせた。すると里帰りした後、「父の引き止め」という理由で辞めてしまった。研修を受けることは本人も納得していたし、通勤に使う車まで購入していてやる気を見せていただけに予想外の結果となった。多くの中小企業は依然として男社会であり、女性従業員も管理職を目指したがらない傾向がある。「そこで彼女には管理職になって壁を乗り越えてもらいたかった」と井上さんは残念がる。

現時点の費用対効果だけで判断すると、外国人を雇って海外市場を開拓するというやり方ではもうからないが、将来必ず迫られる中小企業のグローバル化(海外市場への進出や外国人労働者の受け入れ)に対応するためには、早期に手を打って体制を整える必要がある。同社はその時に備えて、生き残りと成長のためのノウハウを着々と蓄積している。

会社データ

社名:株式会社井上商店

所在地:山口県萩市東浜崎町9-1

電話:0838-22-0812

HP:http://www.hagiinoue.co.jp/

代表者:井上光治 代表取締役社長

従業員:140人(うち外国人1人)

※月刊石垣2018年7月号に掲載された記事です。

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