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テーマ別企業事例 地方企業の海外戦略 勝因はデザインにあり

海外からの日本製に対する信頼は相変わらず高い。その人気の秘密はデザインにある。そこで、地方にありながら海外市場を視野に取り組んでいる小規模な企業の「デザイン戦略」に迫った。

事例1 天然木の優美なデザインがヨーロッパ市場で開花

丸松銘木店(秋田県能代市)

「アルマジロ」を天板に使ったテーブル。見た目だけでなく強さも兼ね備えている

天然秋田杉の一大産地である秋田県能代市で、長年にわたり主に杉建材を扱ってきた丸松銘木店。同社が2012年に販売を開始した天然木編み込み化粧板「アルマジロ」が、日本のみならずヨーロッパでも注目を集めている。その繊細かつデザイン性に富んだ意匠は今、壁や天井のほか建具や家具などの鏡板として幅広く活用されている。

伝統技法にひと工夫して生まれた“新”商品

「網代(あじろ)」という技法がある。杉を薄くスライスしたツキ板や竹などを、縦横や斜めに交差させて編んだものだ。網代の名は、魚を捕るために網の代わりに川に立てた網状の仕掛けに由来する。 さまざまな用途があるが、建築の世界では網代に編んだものを合板などに接着して化粧板にし、主に天井に用いてきた。平面の板より網代の方が風情もあって見た目が良いからだが、もう一つ理由がある。ツキ板の重ね部分は接着されていないため、手で触ると割れたり浮いたりするおそれがあるのだ。そのため壁などには不向きで、天井材として使われてきたわけだ。

この網代の技法を応用し、かつ弱点を克服したのが、丸松銘木店が開発した「アルマジロ」だ。重ね部分も接着されていて、壁や家具など手に触れる場所にも使えるのが大きな特徴。樹種を選ばず、加工も容易で、ツキ板に友禅染や藍染めを施したり、布や紙などの異素材と編んだりすることもできるので、色や柄、質感などのバリエーションも豊富だ。

「凸凹した質感がどこか動物のアルマジロの甲羅に似ていなくもないことから、網代編みの『アジロ』と掛けて『アルマジロ』という名前にしました。覚えやすくてインパクトもあり、けっこう気に入っています」と同社社長の上村茂さんは説明する。

幅広い樹種が加工できるように設備を刷新

同商品を発案したのは2009年のことだ。同社は1957年の設立以来、秋田杉の天井板の加工を主に扱い、それなりの業績を維持していた。しかし、バブル崩壊以降は年々売り上げが下がり、とうとう最盛期の8分の1まで落ち込んだ。そんな中で家業を継いだ上村さんは、業績回復のために杉以外の樹種も扱おうと考えた。ちょうどそのころ、廃業する化粧合板工場の設備一式を売却するという話があり、それを引き受けて広葉樹も加工できるように設備を刷新した。

「うちは杉以外の樹種に関して後発メーカーです。しかも東京などの大消費地に遠く輸送コストも高いため、販売競争になると他社にはかないません。そうした中で生き残るために、幅広い樹種を使ってまだ誰もやっていない付加価値の商いものをつくろうと思いました」

広葉樹が網代に使われないのは、ツキ板にすると固いわりに脆(もろ)くて編めなかったり、シワシワになって波打ったりと、きれいな製品にならないためである。その点接着剤で貼り付けてしまえば、そうした問題も解決できる。

「とはいえ、ツキ板の重ね部分全てに接着剤を付けていく方法が、なかなか見いだせませんでした。最初の2年は杉を使って試行錯誤を繰り返し、次の1年でほかの樹種にも試して、ようやく独自の技術を確立しました」

こうして「アルマジロ」が完成し、2012年に販売を開始した。

海外の展示会に打って出て大反響を呼ぶ

上村さんは販路を開拓しようと、「建築・建材展」など東京で開催される展示会に積極的に出展した。1年目は建材が主だったが、2年目からはアルマジロをメインにPRを展開した。ところが、興味は持ってもらえても、なかなか契約まで至らなかった。

そこへチャンスが訪れる。「ジャパンホーム&ビルディングショー」という建材や家具の展示会に、秋田県内の業者と合同で参加する機会があり、その出展を指揮していたプロデューサーがアルマジロを見るなり、「海外に出した方がいい」と海外客が多数来場する東京国際家具見本市「IFFT(インテリア・ライフスタイル・リビング)」への出展を勧めた。

「言われるがまま出展したらものすごい反響で、中にはすぐに注文をくれた会社もありました。ところが、こっちは英語ができないので、メールも読めない、返信できないで、全ての引き合いがダメになりました。ただ、その後日本貿易振興機構(ジェトロ)の輸出有望案件に選ばれて、海外への販路開拓や契約まで一貫したサポートが受けられることになり、パリで開催される『メゾン・エ・オブジェ』(デザイン見本市)に出展できることになったんです」

同見本市には5年連続で出展を果たしたそうだが、1年目から大きな反響を呼んで、現地の販売代理店との契約にこぎつける。そこを拠点に、フランス、英国、スイス、スペインなどEU諸国を中心に販路が開けた。実は日本と海外の販売比率は8対2と国内の方が圧倒的に多いが、“海外でも人気”という実績が国内の売り上げに大いに貢献しており、製造が注文に追い付かない状況が続いている。同社の業績も最盛期には及ばないが、アルマジロの発売を境に回復基調に転じているという。 現在、上村さんが力を入れているのは、アルマジロの不燃化だそうだ。それが実現できれば、商業施設などの内装にも使えるようになり、さらなる販路の拡大が期待できる。

「不燃化、編み方の工夫、製造体制など、まだまだ改良すべき点はあります。一つ一つクリアして、近い将来、アジア圏にも販路を広げたい」と上村さんは「まだこれから」を強調した。

会社データ

社名:株式会社丸松銘木店

所在地:秋田県能代市花園町7-11

電話:0185-52-5514

HP:http://www.akita-marumatu.co.jp/

代表者:上村茂 代表取締役社長

従業員:10人

※月刊石垣2018年7月号に掲載された記事です。

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