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テーマ別企業事例 地方企業の海外戦略 勝因はデザインにあり

事例2 高岡銅器のデザイン力を磨き、欧米、アジアで勝負し続ける

モメンタムファクトリー・Ori(富山県高岡市)

本社兼工房は、代表色の斑紋孔雀色の玄関ドアや、人気の斑紋ガス青銅色の表札がアクセントのモダンな佇まい

400年以上もの歴史を誇る高岡銅器は、全国の銅器生産量の約9割を誇る富山県高岡市の伝統的工芸品だ。その伝統の技に独創性を加え、モメンタムファクトリー・ Oriiは、唯一無二のオリジナル商品を生み出している。高岡銅器の着色専門の加工所からものづくり企業へ転身し、斬新なモダンデザインで海外へ果敢に挑む。

今のニーズにあった高岡銅器をつくりたい

「お前が継がなかったら、高岡銅器伝統着色の家業が途絶えるけれど、それでいいと思うのか?」

そう叔父にハッパを掛けられ、東京で働いていた代表取締役の折井宏司さんが、地元の富山県高岡市に戻ったのは1996年、26歳の時だ。家業の折井着色所に入り、三代目を継ぐ意志を固めたはいいが、バブルがはじけた。高岡銅器も例外ではなかった。

「赤字続きで、東京に戻ろうと思ったこともありました。でも、それじゃ悔しいですしね」と折井さんは当時を振り返り苦笑する。

高岡銅器は、慶長16(1611)年に加賀藩主の前田利長が鋳物師(いもじ)7人を招きつくらせたのが始まりだ。文具、香炉、花瓶、茶器、仏具など多種多様な銅鋳物が評判となり、明治時代以降は研磨、着色、彫金など一連の工程が分業化され、高岡市の一大産業となった。

1950年創業の折井着色所は、分業の着色工程を担い、皇居の装飾具を手掛けるなど、多彩な表現力には定評があったという。

「景気がいい時は、待っていれば問屋から次々と仕事が来ます。だが、不景気の時にも問屋頼みでは、先細りです。現状を打開したいと、加工所からものづくり企業への道を模索するようになっていきました」

着色技術以外のことも学びたいと、折井さんが向かった先は高岡市デザイン・工芸センターだった。ここに週1回ペースで通い、高岡銅器の一連の加工技術を学ぶとともに、同じ志をもつ仲間とデザインユニット、チーム・モメンタムを結成する。「モメンタム」とは「弾み、勢い」といった意味で、2008年から使い始める社名はここからきている。チーム内で夜な夜な語り合い、士気を高め合いながらさまざまな意見や情報交換を繰り返すなかで、折井さんは新しい発色をつくりだす。それが後の代表 柄となる斑紋孔雀色(はんもんくじゃくいろ)だ。家業の伝統技法だけでは到底生まれなかった〝新色〟の誕生だった。

展示会への積極的な出展で海外への切符を手にする

「何しろ偶然できた色ですから、再現できるまでに1、2年かかりました」と笑う折井さんだが、周囲を驚かせる試みは、着色だけではない。高岡銅器は、溶かした金属を型に流して成型してつくる「鋳造」が一般的だが、折井さんは圧延機を用いて、高岡銅器の厚さ4㎜の限界を超えた1㎜以下の商品開発に成功するのだ。

「業界の常識やしきたりが身に付いていなかったので、〝邪道〟とされることもどんどん試しました」 探究心と熱意あってこその商品開発だが、経費も時間もかかるため採算がとれない。趣味レベルでの試行錯誤だったが、02年に日の目を見ることになる。高岡市や高岡商工会議所が組織した実行委員会主催の「工芸都市高岡クラフトコンペティション」にオリジナルのクラフト商品を出展し、審査員賞に輝いたのだ。

さらに高岡伝統産業青年会に所属していた折井さんは、07年、東京ビッグサイトで開催された東京国際家具見本市「IFFT(インテリア・ライフスタイル・リビング)」に青年会枠で2年続けて出展し、その後も単独出展を断行する。そして、東京の有名インテリアショップを手掛ける企業から100万円の注文を受けるという快挙を成し遂げた。

「青年会枠では安く出展できますが、単独では費用の負担が大きく断念する人がほとんどです。でも、リスクを負ってでも、世界観まで表現できる単独ブースで勝負に出たことが功を奏しました」

富山県の地域資源ファンド助成事業や、国の地域資源活用事業に認定されたことも新規事業の後押しになったと語る折井さん。そして11年、東京で開かれた「高岡ippinセレクト」で、商品が日本貿易振興機構(ジェトロ)の担当者の目に留まり、こう声をかけられるのだ。

「ニューヨークの展示会に興味はありますか」と。

外部デザイナーとのコラボでバリエーションも広げる

同年12月、ニューヨークで開催された北米最大の家具・インテリアデザイン見本市「国際現代家具見本市(ICFF)」に出展すると、ブースはたちまち人だかりができ、早速オファーが舞い込む。

「レスポンスの早さには驚きました。初めての海外取引は円高の影響もあって契約には至りませんでしたが、その後、3年間出展し続けて海外とのパイプを太くしていきました」。クラフト商品だけではなく、インテリアやエクステリアのオリジナル建材の評価も高い。マンハッタンに本部を置く世界数十カ国の建築資材を収集する素材図書館「マテリアルコネクション」にも着色パネルが所蔵され、世界有数のマテリアルの仲間入りも果たしている。

このように展示会に出展し続けたことが、県外、そして海外への販路拡大につながっている。今では海外のインテリアデザイナーや建材メーカー、ジャンル違いのテキスタイルメーカーからも「使ってみたい」と依頼があるという。

「台湾の建築費十億円というマンションの内装材に採用されたり、上海のインテリアショップで展示会や講演会をしたり、社員に中国人を採用するなどアジアとのつながりも勢いにのっています」

外部デザイナーとのコラボレーションでクラフト商品のバリエーションを広げ、建材も一般住宅をはじめ、公共施設や商業施設の壁や建具、什器と用途は多岐にわたる。折井さんは国別、展示会別に何をどう出展するかという戦略を立て、中国、そしてヨーロッパはパリを拠点に活動を広げていきたいと意気込む。ビジョンは広がる一方だ。

会社データ

社名:有限会社モメンタムファクトリー・Orii

所在地:富山県高岡市長江530 折井着色所

電話:0766-23-9685

HP:http://www.mf-orii.co.jp/

代表者:折井宏司 代表取締役

従業員:13人

※月刊石垣2018年7月号に掲載された記事です。

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