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テーマ別誌上セミナー マイナンバー ココを見落とすな

平成28年度の税制改正によりマイナンバー制度が一部改正され、いよいよ本格的な運用が始まる。そこで、マイナンバーの収集や手続き、保管、廃棄など見落としてはいけないポイントをマイナンバー制度に詳しい弁護士が分かりやすく解説する。

影島 広泰(かげしま・ひろやす)

牛島総合法律事務所 弁護士

影島 広泰(かげしま・ひろやす) 牛島総合法律事務所 弁護士 一橋大学法学部卒業、平成15年弁護士登録、牛島総合法律事務所に入所し、企業法務の第一線で活躍中。ITシステム・ソフトウエアの開発・運用、個人情報・プライバシー、ネット上のサービスや紛争に関する案件を多く手掛ける。『企業・団体のためのマイナンバー制度への実務対応』(清文社)などの著作がある

各項目でYES、NOのチェックをして安堵した方、あるいはドキリとした方もいると思いますが、改めて各項目について解説していきますので、復習の意味も込めて、しっかり読んで確認し備えてください。

1)マイナンバーは、書類を提出するまでに収集する

マイナンバーは、税と社会保障の手続きで必要になります。したがって、①従業員、②税法の控除対象配偶者および扶養親族、③健康保険の被扶養者および国民年金第3号被保険者、④支払調書を提出している取引先、⑤配当をして支払調書を提出している株主のマイナンバーが必要です。

役所に書類を提出するまでに収集しなければなりませんので、①②④は、平成29年1月末の法定調書の提出期限までに収集する必要があります。

2)マイナンバーを収集する際の手続き

マイナンバーを収集する際には、集めたマイナンバーを何に使うのか、その利用目的を本人に伝えなければなりません(図1)。

また、マイナンバーの提供を受けるときに、本人確認を行わなければなりません。本人確認とは、①番号が間違っていないかどうかの「番号確認」と、②実在する人物からの提供であるかを確認する「身元(実在)確認」の2つを行うことを意味します。典型的には、①通知カードと②運転免許証・パスポートなどで確認します。

3)マイナンバーの提供を拒否された場合

マイナンバーの提供の拒否や、提供をお願いする書類を送っても無視されて返信がない場合に、どのような対応をすべきでしょうか。

企業は、法定調書を税務署に提出する際にマイナンバーを記載する義務があります。これは、所得税法令に定められた税法上の義務です。したがって、支払調書の「支払を受ける者」のマイナンバー欄を空欄で提出することは、所得税法の義務違反になってしまいます。他方で、当然のことですが、マイナンバーの提供を強制することはできません。

このギャップをどうするのかが問題です。この点については、国税庁がFAQという形で回答を出しています。それには以下のとおり書かれています。

従業員などからマイナンバー(個人番号)の提供を受けられない場合でも、安易に法定調書などにマイナンバー(個人番号)を記載しないで税務署などに書類を提出せず、従業員などに対してマイナンバー(個人番号)の記載は、法律(国税通則法、所得税法など)で定められた義務であることを伝え、提供を求めてください。

それでもなお、提供を受けられない場合は、提供を求めた経過などを記録、保存するなどし、単なる義務違反でないことを明確にしておいてください。

これによれば、①まず、相手に対して、支払調書などにマイナンバーを記載することが義務であることを伝えて、提供を求める必要があります。ご自身の会社が配布している「マイナンバー提供のお願い」などの書類に「義務である」と記載されているか、ご確認ください。なお、誤解が多いのは、本人が企業にマイナンバーを提供することが義務なのではなく、企業が税務署に提出する法定証書にマイナンバーを記載することが義務である、という点です。間違えないよう注意しましょう。

次に、②それでもなお提供を受けられない場合には、提供を求めた経緯を記録、保存するなどしておく必要があります。税務署の立場に立って考えてみると、マイナンバー欄が空欄の支払調書が提出されたときに、企業がサボっていてマイナンバーを記載していないのか、本人が提供を拒んだのかが分からないため、提供を求めた経緯などを記録しておくように、というのが国税庁のスタンスなのです。

なお、ここでよく質問を受けるのは、記録を残すだけでよいのか、税務署に届出などをするのかです。この点についても、国税庁がFAQで回答していますので、参考にしてください。

マイナンバー(個人番号)の記載がない理由を摘要欄に記載する必要はありませんが、記載のない理由を確認させていただく場合がありますので、記載できない理由などを別途記録するなど、分かるようにしておいていただくようお願いします。

支払調書の摘要欄などに、提供を受けられなかった経緯などを記載する必要はありません。後で税務署から問い合わせがあったときに回答できるよう、社内で記録を残しておくだけでよいということです。

また、支払調書を提出した後になってからマイナンバーの提供を受けてしまった場合には、支払調書を提出し直さなくても差し支えないとされています。

もう1点、よく質問を受ける点として、提供を受けられない場合に本人に督促する必要があるか、というものがあります。この点についての国税庁の回答は以下のとおりです。

今後の法定調書の作成などのために、今回マイナンバー(個人番号)の提供を受けられなかった方に対して、引き続きマイナンバーの提供を求めていただきますようお願いします。

ここからは、少し解釈を交えて説明します。

ここで、国税庁は、「今後の法定調書の作成などのために引き続き提供を求めていただきますようお願いします」といっています。この回答と、マイナンバーの提供を受けられなかったときにはその経緯などを記録・保存しておくだけでよいという回答を合わせて考えると、以下のとおりとなると解釈できます。

例えば、今年、28年分の支払調書のためにマイナンバーの提供を依頼して、拒否された場合です。これは、提供を求めた経緯などを記録・保存しておけばよいことになります。

しかし、来年、29年分の支払調書を提出することは「今後の法定調書作成」にあたりますから、「引き続きマイナンバーの提供を求めていただくようお願い」されていることになります。つまり、今年提供を受けられなかったからといって来年もそのまま空欄で提出してよいわけではなく、来年に少なくとも一度は督促することが求められているといえると考えられます。

以上を分かりやすくまとめると、次のような対応となります。しっかりご確認ください。

(1)平成28年

①義務であることを伝えて提供を求める。

②拒否・無視されたら、経緯などを記録・保存した上で、マイナンバーを空欄にした支払調書を提出する。

(2)平成29年

①28年に提供のなかった者に対しては、少なくとも1回は督促する。

②それでも拒まれたら、督促した経緯を記録・保存した上で、マイナンバーを空欄にした支払調書を提出する。

4)「扶養控除等申告書」のマイナンバーの扱い

「扶養控除等申告書」についてよくある質問が、マイナンバーは別途収集済みであるから、マイナンバー欄は空欄でもよいか、というものです。

これに対する答えは、「原則、空欄は認められません」です。なぜでしょうか。

「扶養控除等申告書」は、会社ではなく、従業員(給与所得者)が作成して会社に提出する文書です。このことは、従業員が押印していることからもお分かりいただけるでしょう。したがって、従業員の下で法定記載事項が全て記載されて完成した状態となり、それに押印したもので会社に提出されなければなりません。マイナンバーは法定記載事項になっていますので、空欄にするのは従業員が税法上の義務違反をしていることになってしまいます。これが空欄での提出が認められない理由です。

しかし、国税庁が、27年10月に、FAQで実務的な対応を発表しています。

これによれば、①従業員などが余白に「個人番号については給与支払者に提供済みの個人番号と相違ない」旨を記載した上で、②会社において、既に提供を受けている従業員などのマイナンバーを確認し、③確認した旨を「扶養控除等申告書」に表示した上で、④会社が保有するマイナンバーと「扶養控除等申告書」を適切かつ容易にひも付けられるように管理していれば、マイナンバーそのもの(12桁の数字)は記載しなくてよいとされています。つまり、マイナンバーを記載することが義務であることに変わりはありませんが、「マイナンバーは以前に提出したものと同じだ」と記載しておけばマイナンバーを記載したのと同じ、ということです(図2)。

さらに、28年3月公布の所得税法令の改正により、29年分の「扶養控除等申告書」からは、会社がマイナンバーの「帳簿」を備えているときには、「扶養控除等申告書」にマイナンバーを記載する義務そのものがなくなりました。しかし、これには条件があります。まず、「帳簿」には以下が記載されている必要があります。

①「扶養控除等申告書」に記載されるべき提出者本人、控除対象配偶者、控除対象扶養親族などの氏名、住所およびマイナンバー

②帳簿の作成に当たり提出を受けた申告書の名称

③②の申告書の提出年月

2つ目の条件として、この「帳簿」は原則として紙でなければなりません。電子データを「帳簿」とするためには、電子帳簿保存法に従って3カ月前までに税務署に届け出て承認を得る必要があります。

3つ目の条件として、この「帳簿」は、「扶養控除等申告書」の提出を受けて作成したものに限るとされています。したがって、クラウド・サービスを使って収集したり、会社独自の「個人番号提供書」などで収集したりした企業は、そのままでは「帳簿」の条件を満たすことができません。

そのような会社は、28年分でも29年分でも構わないので、従業員に「扶養控除等申告書」の余白に「個人番号については給与支払者に提供済みの個人番号と相違ない」と記載してもらって提出を受ければ、これで会社が保有している従業員のマイナンバーが「扶養控除等申告書」を使って収集したものになります。

もちろん、そもそも「帳簿」を備えることは義務ではなく、「帳簿」が備えられていれば「扶養控除等申告書」のマイナンバー欄を空欄にしてもよいというだけにすぎません。「帳簿」を備えることはせず、今後も毎年マイナンバーを書いてもらうか、「個人番号については給与支払者に提供済みの個人番号と相違ない」と書いてもらうという対応でも問題ありません。

5)マイナンバーの保管で注意すること

マイナンバーの保管については、従業員100人以下などの小規模な会社では、最低限、以下の作業を行いましょう。

①マイナンバーが含まれた書類やPCは、鍵のかかるところに保管する。

②マイナンバーが不要になったら、書類やデータを廃棄・削除する。

③PCでマイナンバーを取り扱う場合には、ウイルス対策ソフトを導入する。

6)マイナンバーは引き続き来年以降も使える

支払調書を提出した後、取引先のマイナンバーを廃棄すべきでしょうか。

まず、継続的な取引関係にある場合(例えば不動産の賃貸人から提供を受けた場合)には、マイナンバーを引き続き保管しておき、来年以降の支払調書でも利用することができます。これに対し、継続的な取引関係にない場合には原則としてマイナンバーを廃棄しなければなりません。

ただし、支払調書の控えは、法律上は保管義務がありませんが、最長7年間までは会社で期間を定めて保管することができるとされています。そして、適法に保管しているマイナンバーは利用することができます。

したがって、支払調書の提出までに社内で支払調書の控えの保管期間を例えば7年間と決めていただければと思います。その上で、7年間は厳重に保管しておき、7年の間に再び支払調書を提出することになったら、保管してあるマイナンバーで支払調書をつくるのが実務上よいと考えられます。7年間その取引先とおつきあいがなければ、廃棄するようにしましょう。

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