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テーマ別誌上セミナー ピンチをチャンスに変える プロが教えるクレーム対応の最新技術

どんな企業でもクレームから逃れることはできない。最近は、悪質クレーマーも増え、各企業の大きな悩みとなっている。とはいえ、上手なクレーム対応ができれば、クレーム客は長く付き合えるお得意さまになる。そして、そのクレームが新たな発見を生み、次のビジネスにつながることもあるのだ!

山田泰造(やまだ・たいぞう)

人財教育アシスト クレームアドバイザー

山田泰造(やまだ・たいぞう) 人財教育アシスト クレームアドバイザー 昭和24年生まれ。企業人合宿研修所で大手・中小企業・自治体を対象とした階層別合宿研修の指導教官を23年間経験。新入社員から中堅社員・管理職など幅広い「人財」育成に従事した。多くの業種で採用・人財の育成を行い人事管理経験も豊富。現在は人財教育アシスト代表として社内研修、コンサルティング、公開セミナーを行っている。公開セミナーのテーマはクレーム対応力強化、接客力強化、営業力強化など幅広い

多くの企業がクレーム対応に悩んでいる。大企業であれば専門部署で対応ができるが、中堅・中小企業では経営者も含めて全員がクレーム対応要員になる。しかし、むしろそのことは会社にとって良いことかもしれない。クレームはお客さまの要望でありニーズであり、それを全員で共有することで、より強い組織がつくれるからだ。そこで「人財教育アシスト」のクレームアドバイザー・山田泰造さんに正しいクレームの対処法と防止策を聞いた。

社員の教育不足がクレームを招く

仕事に携わる上で避けられないものに、お客さまからの「クレーム」があります。

一般的なクレームの原因は、商品関連では瑕疵(かし)のある品、不良品、バグを含んだ品などをお客さまに販売してしまったことによるもの。さらにサービス関連では接客態度や電話応対への不満という担当者のスキル不足によるところが目立っています。つまり「ヒューマンエラー」であり、その根底にある真の原因は社員に対する「教育不足」です。

例えば、東京の町工場では定年退職者が増えています。定年退職時期は事前に分かっているのですから、数年前から人を雇って十分な時間を掛けて教育と引き継ぎを行うべきです。しかし、現実には辞めて人手不足になってから求人広告を出す→なかなか採用できずに従業員の負担が増えて仕事の質が下がる→新人が採用できても教育する時間がない→すぐに現場に出す。このような状況では製造過程で不良品を出したり、出荷時に間違いが起きる可能性が高くなります。

慢性的に人手不足の販売店や飲食店では、アルバイトを採用すると簡単なマニュアルを読ませ、OJT(日常業務を通じた従業員教育)と称してすぐに売り場で働かせます。そのため手際が悪い、質問に答えられない、言葉遣いがおかしいという接客態度に現れ、お客さまを怒らせる原因をつくってしまいます。このようにBtoB、BtoCのどちらの形態でも「教育不足」が根底にあるのです。

「そうは言っても現実に教育している時間がない」。そんな声が聞こえてきそうです。販売店や飲食店で新人教育に掛ける時間がないときは、特にあいさつをすることと、問題が生じたときはすぐに正社員や店長に知らせて判断を仰ぐことを徹底させてください。入店時に「いらっしゃいませ」というあいさつをしない(してもお客さまに聞こえない)と、その時点でお客さまは心地が悪く、ささいなことでも怒りやすくなります。怒らせた当人は理由が分かってないはずなので、そのまま接客を続けるとクレームを発生させてしまいます。雲行きがおかしくなったらすぐに正社員が出て行って、接客の見本を見せる。そしてお客さまが帰った後に、新人と向き合って話し、接客の際の問題点を指摘して、改善させる。それこそがOJTです。お客さまに怒られている新人を放っておくのは最悪の対応です。店の評判を落とすだけでなく、新人は「この店は誰も助けてくれない」と悲観し、辞めるきっかけをつくってしまいます。

しかし、この方法はあくまでもその場しのぎです。会社としては上手にクレームに対応し、その次に再びクレームを発生させない仕組みをつくらなければなりません。

悪質クレーマーには毅然と対応し長期戦もほのめかす

最近目立つのが「プロ」による悪質なクレームです。以前なら「プロ」は裏社会の住人だったのですが、暴力団対策法が施行されてからは激減しました。その代わり、裏社会の住人をかたったプロ・クレーマー(悪質クレーマー)が金銭目的にクレームをつけるようになりました。「うちの若い者」「うちの事務所へ来い」というような裏社会を思わせるような言葉を使うために、クレームを受けた担当者が怖くなって勝手に土下座をしたり金銭を支払ってしまうのです。プロ・クレーマーが土下座を要求すれば強要罪に問われる可能性がありますが、自分の意思で土下座をしたのでは警察に訴えることができないし、その後、別のクレームが発生したときも土下座をしなければ収まらなくなります。

こんな例がありました。CD/DVDの販売レンタル店が、悪質クレーマーから「購入したCDのせいでカーオーディオが壊れた。修理費として10万円払え」という強いクレームを受けました。怖くなった店員は自腹で払ってしまいました。修理費用の明細を確認したり、原因となったCDを回収することすらしていませんでした。

あるブティックの店員は、店内にいる小型の看板犬がスラックスを破いたというクレームを受けました。悪質クレーマーの説明では、そのスラックスは「イタリアのデザイナーにつくらせた30万円の品物だ」というのです。破け目は犬がかみ切ったのではなくカミソリで切り裂いたように見えたものの、怖さが先に立ってレジにあった30万円を渡してしまいました。

このように具体的に金銭を要求された場合には警察に助けを求めるとよいでしょう。店員が二人いたら、一人が応対している間に、もう一人が警察に電話をして状況を伝えるのです。

しかし悪質クレーマーの多くは「10万円」というような具体的な要求をしてきません。目的はもちろん金銭を受け取ることですが、正当なクレームではないので脅迫にならない程度に「どうしてくれるんだ」、あるいは「誠意を示せ」と連呼します。そのような理不尽な要求には、具体的な言葉を求めることが抑止力になります。

一人では押し切られてしまうので複数の担当者で対応し、記録を取りながら、「どうしてくれるんだ」「誠意を示せ」には「どのようにすればよろしいでしょうか」と答えます。そのほかにも「社長を出せ」には「私が担当責任者であり、一任されています」。「担当者を首にしろ」には「私どもの教育が行き届いておりませんでした。私どもが責任を持ちまして教育いたします」と答えて、投げられたボールを投げ返すことで撃退します。

具体的な要求が出てきたら、「いろいろと相談しなければならないので時間をいただきます」というように「長期戦」になることを伝えます。悪質クレーマーは短期決戦勝負のため時間がかかることを嫌います。ポイントは「具体的な要求を引き出す」ようにして、その後は「複数で対応する」「記録を取る」ことでけん制しながら、「いろいろと相談する」と言う言葉で「長期戦になる」ことを伝えるところにあります。

悪質クレーマーと〝戦う〟ために、7つの刑法の知識も表1を見て知っておきましょう。

クレームの種類と対応10カ条

ここまでは悪質クレームについて説明してきましたが、そのほかにもいろいろな種類のクレームがあります。

普通に私たちがクレームと呼んでいる「苦情型」。お客さまの親切と受け止めがちな「忠告型」。言いたいことを言わずに去る「サイレント型」。お客さまの勘違いや早合点の「勘違い型」。感情的になってしつこく文句を言う「困った苦情型」。そして先ほど取り上げた「悪質クレーム」です。

ではクレームを受けた場合、どのように対応すればよいのでしょう。初期対応では、言葉遣いに注意することが重要です。つい「えっ、本当ですか?」などと言いがちですが、それではお客さまは疑われていると思い、心証を害します。ましてや「うっそー」といったような友達言葉は挑発と何ら変わりません。

クレームを受けたら「十中八九がヒューマンエラー」という言葉を思い出してください。ほとんどのケースで会社側に非があるため、まずは姿勢を低くして、お客さまの目を見てメモを取りながら、お客さまの言葉を拝聴すること。お客さまの怒りは言いたいことを言うだけで収まることも多いのです。

私は、まず最初に「申し訳ありません」と謝ることをすすめています。クレームの内容を確認しないうちに謝って大丈夫なのかと思うかもしれません。私も以前は謝罪から始めるのはまずいと考えていましたが、多くのクレーム事例を分析するうちに、最初に謝るべきだという考えに変わりました。最初に謝罪する意味は「お客さまが気分を害したことについて謝る」ということです。原因はともかく、お客さまに不愉快な思いをさせて再度来店させた、わざわざ電話をかけさせたという点に対するおわびです。その後、詳しい話を聞いて、商品が壊れていたというクレームなら在庫があれば交換する。在庫がなくて取り寄せになるときは何日後に交換できると具体的にお伝えする。それでは間に合わないというのなら、同価格帯の他の商品を提案する。とにかく「何とかして欲しい」という思いに応えるようにお客さまの立場で動くのです。

クレーム対応を基本10カ条にまとめると、表2のようになります。

BtoBクレームは上司が対応

ここまではBtoCのクレームを中心に説明してきましたが、BtoBのクレーム対応も難しいものです。クレームが発生した場合の手順と対応については、表3を参照してください。

製品を納入した会社からクレームを受けた場合は、担当者一人で対応せず、その場で代替案が出せる上司や責任者が同行すべきです。上司や責任者が出て行けば、相手のテンションは明らかに下がります。その上で自社に非があることが明らかなら、解決案や代替案を提示します。もし納品数が足りなかったというのなら、いつまでに不足分を納品するのか、時期を明確にします。

ある家電量販店で人気の携帯電話の発売日に、問屋側のミスで事前に決めた数量が入らなかった事故がありました。チラシをまいて発売を予告しているので、お客さまは早朝から行列をつくっています。この段階で「今日は入荷しません」とは言えません。そこで量販店の担当者は問屋にあるだけ持ってくるように要請しました。もちろん全量は無理なことは分かっています。問屋の担当者はすでに納品した他店に頭を下げて少しずつ戻してもらい、ある程度の台数を確保しました。並行して問屋は販売店に「○台を○時までに渡せる」「全数量は○日までに渡す」という情報を出し、販売店はお客さまに「ここに並んでいる人の分は○時間後に販売します。追加の入荷は○日です」という案内をして、お客さまを不安にさせたり怒らせないように努めました。お客さまとしては早朝から並んだのにという不満は持つでしょうが、○時に受け取れることが分かっていれば納得はできるでしょう。

クレームではありませんがBtoBの場合、契約を交わした後に「納期を早めて欲しい」「値引きして欲しい」という要求をされることがあります。相手が親会社ではむげに断われませんが、取引の大きさと今後の取引の可能性を考慮して無理を承知で受け入れるケースと、将来にうまみがなかったり、本当に無理が利かない場合は「できない」ことを明確に伝えて「どちらさまにもこれでお願いしています」と言うしかありません。その場合でも一人では対応しないこと。上の立場の者、説明ができる者が同行することが基本です。

最も怖いのは、サイレントクレーマーとSNS

それでもわざわざ足を運んだり電話をかけたりして苦情を言うクレーマーはありがたい存在です。怖いのは店には何も言わずにいきなりSNSにクレームをアップするお客さま、そして「サイレントクレーマー」と呼ばれる文句を言わずに離れるお客さまです。

商品に異物が混入している画像をSNSにアップされたことから、全商品の回収が行われ長期間製造ラインが止まった例がありました。その商品のファンだったお客さまは不良品の画像だけでなく、会社の初期対応に失望して交渉の過程もSNSで公開しました。

SNSを通じたクレームは一瞬で拡散してしまい、いつまでも記録が残ってしまうので、会社にとって大きなダメージとなります。万が一不良品を販売してしまった場合は、初期対応の段階でお客さまに納得していただくしか有効な方法がありません。

また、「サイレントクレーマー」も恐い存在です。例えば飲食店でひどい接客を受けたとき、何も言わずに店を出た経験はありませんか? 私も、よほどのことがない限りその場では文句を言いません。不満を抱いたまま店を出て、職場や友人、家人にひどい目に遭った接客体験を話します。すると「あいつが言うのだから」と、周囲へ伝わる……というクレームの輪が静かに広がっていきます。これが怖いのです。飲食店であれば印象の良い接客を徹底する。販売店であれば商品の検品を行い、商品を確実に渡すしかありません。クレームとは顧客の期待・要求と、提供された商品・サービスのギャップから生じるものなのです。

クレームカードをつくって再発を防ぐ

適切にクレームに対応しても、再び同じクレームを発生させるようでは真の解決とは言えません。その場しのぎの対応では、永遠にクレームが繰り返され、ダメージが累積して企業は深刻な影響を受けることになります。その負のループから抜け出すためには反省と改善が不可欠です。対策としては、クレームの原因を迅速に究明して改善策を講じることと、回覧や通達などで全社・全店にもれなく通知することが挙げられます。

再発防止策としては、クレームが発生したら「クレームカード」をつくって書き込むことと、対応マニュアルに追加することです。各自が日報を書くという方法では情報の共有が難しいので、クレームだけに焦点を当てた「クレームカード」のほうが有効です。「クレームカード」の項目はクレームの発生場所、内容、原因、対応、結果などを書き込めるようにします。これを経営トップを含めて全員で共有して改善する。新しいクレームであれば「対応マニュアル」に追加し、「ロールプレイング」で予行演習をしてアドリブ力を養っておくのです。

クレームを未然に防ぐ努力も必要です。販売店であれば店の状況をリサーチしたり、お客さまの声を集めたり、「ミステリーショッパー(覆面調査)」などを活用することでクレームになりそうな問題を事前に見つけ出します。

クレームは、十中八九はヒューマンエラーなので、お客さまからの攻撃ではありません。まずは感謝の気持ちで対応します。誠意を持って謝罪をして、相手の立場に立って最善の解決策を探します。その上で再発と未然防止に努めればよいのです。クレームにしっかり対応できれば、お客さまのCS(顧客満足)が高まり、「あの会社は良い」「あの店はすばらしい」というありがたい評価と口コミをいただくことができるでしょう。

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