100年経営に極意あり!長寿企業の秘密 伝統の継承とチームワークでとうふちくわの魅力を発信

ちむら

鳥取県鳥取市

倹約の精神から生まれた郷土料理

鳥取市民にとって、ちくわは幼いころから慣れ親しんでいる味だ。長年にわたり、世帯当たりの年間支出額は、全国の県庁所在地・政令指定都市の中で一位を誇る。そんな〝ちくわ激戦区〟で「どの家の冷蔵庫にも常備されている」と言われるほど親しまれているのが「とうふちくわ」。贈答品や観光土産としても人気の郷土料理だ。

「豆腐と魚のすり身を7対3の割合で練り、普通のちくわと違って蒸し上げます。江戸末期、因幡藩主の池田光仲公が『魚の代わりに豆腐を食べるように』と質素倹約を奨励し、誕生したとされています」と、その由来を五代目の千村直美さんは語る。

光仲の言葉を受けて、くずし物(練り物)の店がこぞってとうふちくわの製造を開始。中でも初代・清次郎が慶応元年に創業したちむらは、現存するとうふちくわの製造元として最も古い歴史を持つ。

だが、今日に至るまでの150年の間には、幾度も存続の危機に見舞われた。大正時代には千代川の氾濫による大洪水がたびたび市街地をのみ込み、昭和18年の鳥取地震では、市の中心部が壊滅して1000人以上が犠牲になった。昭和27年には市の4分の3を焼失する大火が発生。被災のたびに、ちむらは店舗や工場を全て失ったが、長年支えてくれたお客の期待に応えるため、従業員が一丸となって再建に取り組んだという。

「従業員や家族に人的被害のなかったことが、不幸中の幸いでした。物質的な財産は失いましたが、人材という宝物が残ったのです。おかげで、とうふちくわにかける先人たちの思いや伝統の技を、今日まで継承することができました」と直美さんは振り返る。

本社移転を機に万全な安全管理体制を構築

とうふちくわの製造法は、創業時からほとんど変わらない。使用する木綿豆腐は、鳥取県産の大豆からつくる自家製のもの。食の安全を重視し、余計な添加物は使わずに製造している。

「木綿豆腐の風味を左右するのが脱水の見極め。豆腐のうま味を含んだ適度な水分を保つバランスが当社のこだわりなのです」

とうふちくわの生産量が増えて工場が手狭となり、平成14年に本社を鳥取市河原町の布袋店へ移転。約1500坪の敷地に本社事務所と工場、直営の販売店を併設し、「とうふちくわの里」と名付けた。

「将来、とうふちくわが全国に普及したときに、発祥の地は鳥取であり、アイデンティティーはこの地にあるということを示す、情報発信の拠点にしたかったのです」と、直美さんはネーミングの理由を説明する。

同社は移転を「第二の創業」と位置付け、工場の設備や経営・安全管理体制を一新。受け継いできた経営理念を明文化し「安全で健康に良い美味しいちくわ・かまぼこづくり」と定めた。

ところが移転して間もなく、思わぬトラブルが襲った。とうふちくわを納品した小売店から、商品が傷んでいるとのクレームが相次いだのだ。だが、衛生管理を徹底した最新工場に導入した機械で製造したものであり、原因が全く分からない。検査と確認を繰り返すが、何日たっても改善の兆しは見られなかった。

「経営の危機でした。追い詰められて『いっそ保存料を使おうか』と考えが過ったこともありましたが、それはお客さまの信頼を裏切る行為であり、そもそも保存料無添加をうたっている以上、法律違反です。『安全でおいしいものを提供する』という経営理念を何度も繰り返し、何とか踏みとどまりました」

結局、最初にクレームを受けた約10カ月後に原因が判明。製造機械の一部分の洗浄が完全なレベルに達しておらず、出荷後に温度などの悪条件が重なった場合に傷みが発生していたのだ。問題を改善し洗浄を徹底したことで、安全管理は万全なものとなり、小売店やお客からの信頼を回復することができた。

その後、こうした経緯を踏まえ平成22年に工場は食品の安全を確保する国際規格のISO22000を取得し、高い水準の食品安全体制を整えた。

社員全員が順番に新商品を開発

とうふちくわの製造法を伝承する一方で、本社移転を機に、量販店向けの商品や新商品の開発に積極的に取り組み、「カレーとうふ」「ねぎとうふ」「柚子とうふ」「青しそとうふ」など、バリエーションを大幅に拡大。現在、商品のラインアップは80種類を超えている。

「お客さまの裾野を広げ、ちむらのファンを増やすことが目的です。経営が安定しなければ、基幹商品である『とうふちくわ』の伝統を後世に守り伝えることはできません」

新商品の開発には、社員全員が携わっている。一人ずつ順番に商品を企画・製造し、店舗で1週間販売して反応を見る。その結果が良ければ、実際に定番化されるという。

「従業員全員が商品づくりの難しさ、売ることの大変さを実感するようになりました。同時に、経営への参画意識やチームワークの向上につながり、社内の雰囲気も変わってきました」と、直美さんは効果を実感している。

食文化の伝承にも力を入れ、小学校の社会科見学や一般向けに「ちくわ手づくり体験工房」を開設。とうふちくわの魅力を全国に発信しようと、平成14年に設立された「鳥取とうふちくわ総研」の中心メンバーとしても活動している。

「これからも社員からのアイデアを取り入れた商品開発や経営を展開していきます。そして現在の5店舗からさらに直営店を増やして、販売エリアを拡大したいですね。将来的にはアジアや欧米など海外へも販路を広げられないかと、構想を練っているところです」

伝統を守る一方で、新しい取り組みにも力を入れるちむらが、鳥取の郷土料理を世界へと羽ばたかせる日は近いかもしれない。

プロフィール

社名:株式会社 ちむら

所在地:鳥取市河原町布袋556

電話:0858-76-3333

代表者:千村 直美 代表取締役社長(五代目)

創業:慶応元(1865)年

従業員:60人

※月刊石垣2014年3月号に掲載された記事です。

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